【投稿】危機の激化とトランプ固有の危険性--経済危機論(25)

<<「米国は戦場ではない」>>
現在進行中の深刻な経済危機とパンデミック危機が結合したこと、その中で差別と格差拡大の象徴ともいえる米黒人男性ジョージ・フロイド氏殺害事件が発生。これに対する抗議運動「Black Lives Matter」=「黒人の命は大切だ」が、その規模と多様性においてかつて見ないほどの拡がりと深まりを持って全米を席巻し、多民族のデモとして広がり、世界にも波及している。とりわけ米国においては、トランプ政権固有の不安定性と結びついて、パンデミック危機と経済危機が全社会的・政治的危機へと拡大・発展しつつあると言えよう。
問題は、トランプ大統領を頂点とする米政権が、もはやこうした事態に正常に対処する能力を持っていない、建設的な反応を示すことができないことが歴然としてきており、11月の大統領選を待たずに、政治的危機が、それと相呼

応する経済的危機が爆発しかねない段階にさしかかっている兆候がいくつも現れだしていることである。抗議運動は、すでに「トランプはファシストだ!」「辞職せよ!」と、トランプ弾劾に動き出している。
失業と貧困、生活の悪化が拡大する中で、危機の中でこそ、共感と連帯、責任と協力、参加と民主主義が求められているにもかかわらず、トランプ大統領はこれらを片っ端からぶち壊しているのである。「法と秩序」を前面に掲げながら、警察の暴力を公然と礼賛し、ウソを平然と垂れ流し、衝動的で予測不可能な行動に何の責任も負わず、自ら意図的に政治的危機の拡大に乗り出しているとも言えよう。トランプ氏によって解任されたジェームズ・マティス前国防長官は「トランプ氏は私の人生の中でアメリカ人を団結させようとしない最初の大統領です。しようとするふりさえしません。代わりに彼は私たちを分断させようとしています」と厳しく糾弾する事態である(6/3、アトランティック誌への声明)。
その典型が、軍隊をこうした運動弾圧の前面に押し出そうとして、すでに失敗しているにもかかわらず、執拗にその機会を伺っていることである。
首都ワシントンでのデモに対して軍部隊を配置したが、エスパー国防長官が反対の意思を明らかにし、ミリー統合参謀本部議長は「米国は戦場ではない」「連邦軍は戦場にしか投入できないと決まっており、市民に対して連邦軍を動員することなど許されない」と発言し、さらに催涙ガスでデモ隊を排除してホワイトハウス前の教会で意図的なパフォーマンス撮影をするために「トランプ大統領に同行して、あの時、あの状況下で私がいたことは、米軍が国内政治に関与しているとの認識を作り出してしまった。私はそこにいるべきではなかった。誤りであった。」と断言(6/11)するに至り、政権内部の深刻な危機的状況までさらけ出されている。動員された州兵が、抗議運動の人々の要請に従って集団で、盾を降ろす事態まで発生している。(下、テネシー州の州兵が抗議者の要請で盾を降ろす

しかしトランプ氏はあきらめてはいない。最後の州兵部隊がワシントンDCから撤退せざるを得なくなったわずか数時間後、トランプ大統領は、アメリカの主要都市、今度はシアトルに対して、軍事的暴力の新たな脅迫を行っている。6/10夜のツイッターでの声明で、トランプ氏は、ワシントン州知事のジェイ・インスリー氏とシアトル市長のジェニー・ダーカン氏(ともに民主党)に対し、”国内のテロリストがシアトルを占拠した “、”あなたがやらないなら、私がやる “、”これはゲームではない”とツイートし、”LAW & ORDER!”「法と秩序」と付け加えている。デモ隊がシアトル市内のいくつかを「キャピトルヒル自治区」と宣言し、占拠したことに対して、ここぞとばかりに軍事介入の機会を狙い、挑発しているのである。抗議運動が圧倒的に非暴力的であるにもかかわらず、暴力的・軍事的弾圧の機会を虎視眈々と狙っており、機会を逃すまいとしているのである。
さらに機会を待つだけではなく、作り出そうともしている。6/19に予定されているトランプ陣営のコロナ危機後の最初の選挙キャンペーン集会が発表されているが、この日付と場所の選択が、軍の使用を「正当化する」意図的な策謀とみなされているのである。今やトランプ再選がおぼつかなくなってきた政権の永続化を狙った一種のクーデター、軍事政権への歩みでもある。対中国、対中東でも何をしでかすかわからない危険性を全身から発散させているのがトランプ政権である。
共和党議員に動揺が広がってはいるが、多数はトランプ氏に従っており、予断を許さない事態が進行していると言えよう。

<<「恐怖指数」、48%上昇>>
トランプ氏が頼みの綱とする経済危機脱出も今や風前の灯火である。実体経済の悪化とかけ離れていた株価の上昇もついに化けの皮がはがれだしている。
6/11のニューヨーク株式市場は、1861ドル安の痛烈な急落に見舞われたのである。優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比1861.82ドル安の2万5128.17ドルで終了。下落幅は今年3/9の2013ドルに次ぐ過去4番目の大きさで、一時1900ドル超安となった。S&P500種株価指数は約6%下落し、時価総額がたった一日で2兆ドル(約213兆円)も吹き飛んでいる。
この日、すべての主要なウォール街の銀行が水没した、とまで表現されている。シティグループは13.37%、バンクオブアメリカ10.04%、最大手JPモルガン・チェースも8.34%の損失を出す事態であった。
ここで全く皮肉なことは、この銀行が水没した同じ日、6/11の午後、FRB・連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長が記者会見で、米国の銀行制度について述べ、米国の銀行は「非常によく資本化され、非常に強力で、リスクをよりよく認識し、リスクの管理に優れ、より流動性の高い銀行システムを持っています。それは現在の状況における強さの源」であると保証し、請け合ったその日に、マネーゲームに明け暮れる金融資本の弱さを露呈させてしまったことである。共犯者はFRB自身であり、彼らに超低金利のマネーゲーム資本を提供してきたのである。何が「リスクをよりよく認識し」、「リスクの管理に優れ」、「強さの源」であるのか、こうしたウソもトランプ氏と全く同罪と言えよう。実はFRB自身がこうした金融資本の脆弱さを周知しており、だからこそ昨年2019年9月17日、数千億ドルの資金を調達、提供し、共犯関係を維持してきたのである。
以前にも紹介した、投資家の不安感を示す「恐怖指数」として知られる米シカゴ・オプション取引所のVIX指数は、6/11の終値は40.79となり、前日比47.95%の急上昇であった。
あるべき、「恐怖」を克服する、提起されるべきニューディールの政策は、トランプ政権の退陣を迫ると同時に、こうした中央銀行と金融資本の腐れ切った関係を断ち切ることこそが求められていると言えよう。そうでなければ99%の圧倒的多数の人々の切実な願いは実現されないのである。経済危機とパンデミック危機の結合は、そのことを一層切実なものとしている、と言えよう。
(生駒 敬)

 

カテゴリー: 政治, 生駒 敬, 経済, 経済危機論 パーマリンク