【投稿】新型コロナウイルス対策で失敗し続ける無責任体制国家:日本

【投稿】新型コロナウイルス対策で失敗し続ける無責任体制国家:日本
                             福井 杉本達也

1 「日本モデル」とは前例にしがみつき、失敗に目を塞ぎ、過去の経験に全く学ばないこと
安倍首相は日本の新型コロナウイルス対策を、「日本モデルの成功」と自画自賛したが、「日本モデル」が具体的に何を意味するのか全く意味不明である。6月24日の日経のコラム『春秋』も江戸時代の著名随筆家:松浦静山の言葉「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議のの負けなし」を引用して、日本における新型コロナウイルスの第1波の感染者数の“少なさ”を評している。また、小林よしのり氏は『エコノミスト』(2020.6.16)において、「新コロは『日本では』そんなに恐れるほどのウイルスではない。…マスコミが『日本では』インフルよりも大したことのないウイルスを 『恐怖の大魔王』のように仕立て上げたのだ。…原因については諸説あるが、清潔感と自然免疫の強靭さが一番の理由だろう」と書いている。そもそも、対策の陣頭指揮を執るべき厚労省すらが「『日本の感染者や死亡者は欧米より桁違いに少ない』技官はコロナ危機での善戦ぶりを強調する」(日経:2020.6.9)というのではあきれるばかりである。
小林よしのり氏は新型コロナウイルスをインフルエンザや風邪と同一視しているが、新型コロナウイルスには、これまでの医学の知識では説明できない不思議な特徴がある。感染しても大部分の人は無症状から軽い上気道炎症状だけで終わるが、一部の人のみが重症化する。感染者の8割は、軽微な上気道炎症状のみで(無症状の人もいる)、通常は抗体が産生されウィルスが駆逐される時期、7日目くらいに終結する。ところが一部の患者において、7~10日目くらいに突然に肺炎が発症する。その一部は急速に進行し、重い呼吸不全を起こしてしばしば死に至る。その他、腎障害、凝固異常なども起こり、死因は肺炎による呼吸不全を中心とした多臓器不全である(徳田均『日経メディカル』:2020.5.14)。また飛沫や飲食物などで口から取り入れ、腸を通じて感染する。したがって冬季ばりか夏場にも感染しやすく、重症化すると回復に時間がかかり病床が埋まった状態が続き、また回復しても肺機能がダメージを受けるなど、やっかいな感染症である。
本庶佑京大名誉教授は「日本は政府はたいしたことはやっていないが幸運なことに感染爆発は起こらなかった。これは世界の共通認識」と「日本モデル」論をズバリと切り捨て、「8割接触削減にしても妥当かどうかすらわからない。検証しようがない。なぜならデータが情報公開されないから」だとし、ワクチンへの淡い期待についても、「フェイズⅢ(多数例での無作為対照試験)で安全性を担保できず失敗した新薬は山ほどある。国が主導するのは無謀」と述べている(2020.6.29:「報道1930」)。
2009年の新型インフルエンザ流行時にも、厚労省は疫学調査を優先したが、いつのまにか国内で感染が広がり、関西の病院では人々が殺到した。厚労省が2010年にまとめた報告書において「死亡率が低い水準にとどまったことに満足することなく、今後の対策に役立てていくことが重要だ」と反省点を記したが、今回も全く顧みられることはなかった。「失敗を認めれば自らに責任が及びかねないという組織としての強烈な防衛本能」が働いている。「前例や既存のルールにしがみつき、目の前の現実に対処しない…20世紀型の官僚機構を引きずったままでは日本は世界から置き去りにされる」と日経は書く(同:2020.6.9)。厚労省医官や感染症“専門家”は、失敗の原因を追究しない、失敗に目を塞ぎ、経験に学ぶことは永遠にない。

2 なぜ専門家会議は廃止させられたのか
6月24日、西村経済再生担当相は(そもそも、「感染症対策を保健(厚労)大臣が指揮しない国など何処にもない。『日本の厚労相は無能な者がなるのか』 と、世界から元厚労相の私まで馬鹿扱いされる。マスコミも大本営発表を垂れ流すのみで、調査能力もなく、政府を批判することもない」(舛添要一:2020.6.30))、コロナ対策をリードしてきた専門家会議を廃止すると突然表明した。同時刻に開かれていた専門家会議の記者会見で、尾身副座長は廃止は知らされていなかったと答えた。表向きは、コロナ特措法と整合性のある分科会に衣替えということになっているが、本音は、専門家会議に頼ったコロナ対策は大失敗だったとの判断である。当初は、PCR検査結果を独占したい感染研と、この間の医療体制を再編・合理化により感染症への対応が脆弱となっている医療体制に負荷をかけられない政府が、PCR検査を極端に絞るということでの同床異夢から出発し、その後も給付を絞りたい政府と、権限を拡大したい感染研らの専門家との間で続き、「自粛」要請にあたっても、西浦北大教授の「人と人の接触を8割減らさないと、日本で42万人が 新型コロナウイルスで死亡する」との見解をフル活用し、「ウイルスの恐怖」をまき散らし国民を恫喝しまくった。しかし、 6月28日夜のBS朝日『日曜スクープ』において岡田晴恵白鴎大教授は、専門家会議の押谷東北大教授が、専門家が「いよいよ政府の決定の主導権を持つようになった」との趣旨の発言を岡田教授にしていた事実を紹介し、これが政府に嫌われたこと暴露した。24日の専門家会議の記者会見での提言の中で「あたかも専門家会識が政策を決定しているような印象を与えた」とこれまでの対応を省みた。同床異夢が続いた政府と専門家会議の関係は、緊急事態宣言の解除後から亀裂が拡大する。西村担当相は専門家会議のメンバーに竹森俊平慶大教授ら経済の専門家を入れる予定でいたが拒まれた。25日、西村担当相は、経団連の中西宏明会長と東京都内で会談し、新型コロナウイルスの影響から冷え込んだ経済活動の再開をめぐって意見交換した。中西氏は段階的な出入国制限の緩和など「国を開く」政策を要請した(時事:2020.6.25)。経済活動を再開するとなれば専門家会議は邪魔となる。政府は専門家会議をあっさりと切り捨てた。「われわれは、この先、誰かにとって都合の悪いすべてのものを隠蔽し、曖昧にし、忘却し、廃棄し、改ざんしながら、寄ってたかって歴史を推敲して行くことになるはずだ。」(小田嶋隆「荒れるアメリカがうらやましい理由」2020,6.5『日経ビジネス』)。のど元過ぎれば全てを忘れる。変わり身の速さ。何事もなかったかのように、“日常”?が戻りつつある。

3 政府は経済再開に前のめり――第2波・3波に向け地方自治体はどう対応すべきか―
迷走を重ねたた無能の安倍内閣に代わり、各自治体のコロナ対策への期待が相対的に高まっている。特に注目を引くのは和歌山県であり、愛知県である。愛知県では、2月末からスポーツジムや高齢者施設を中心に大きなクラスターが見つかった。また、大型クルーズ船の陽性患者を藤田医科大学に受け入れている。感染者の受け入れ病院を探すのに苦労している。しかし、東京や大阪のように感染者数が急増することはなく、第1波を切り抜けた。「論座」(2020.6.21)において、大村愛知県知事と保坂世田谷区長が対談しているが、対談の中で今後、予想される新型コロナウイルスの第2波、第3波への対策を ①PCR検査強化によって患者を早期発見すること ② 医療機関の収容可能人数などを調整し、可能な限り早く適切な医療につなげること ③医療機関内で院内感染を起こさないための対策を徹底すること ④ 軽症患者に対してはホテルなどを用意し、感染拡大と医療崩壊の両面を防ぐこと ⑤情報公開を徹底し、現状を住民に伝えること ⑥コロナ禍で経営難に直面する医療機関を金銭的に支えることをあげている。
一方、東京都の小池知事は、恣意的な「東京アラート」と自警団で都民を威圧し、自己責任論を押し付けて都民を見放している。「夜の町の集団検査の次は、会食による感染だという。濃厚接触者と会食時の感染とは何が違うのか?自粛に対する補償はしたくないが、夜の町や会食は危険なのでやめて欲しいという言葉のすり替えだ。不思議の国のアリスが、欺瞞の国ジャパンになった。正義と正直さ、誠実さはどこに行った?」(中村祐輔:2020.6.16)と。「東京都、感染者24日56名、25日48名、26日54名。小池知事『東京アラート』基準発表した時には新規陽性患者20名未満で緩和目安、50名で再要請目安。今再要請の段階なのに対応無し。『対応無し』を肯定する表現として『ウイルスと共生』=公的対応なし。」(孫崎亨:6.27)。こうした中、6月30日、東京都は新たなモニタリング項目を取りまとめた。新たな項目には、警戒を呼びかける基準となる数値は設けられていない。厚労省の目安では人口10万人あたりの新たな患者数が1週間の平均で2.5人を超えた日を「基準日」とし、自粛要請を行うとしている。東京都の新たな感染者数は、6月29日までの1週間では2.61と、「基準」を超えている。都合の悪い数字が続くから、見直すというのはインチキである。6月29日、埼玉県の大野知事は、この2週間の感染者のうち、半数以上が東京都内で感染した疑いがあるとして、都内での大人数での会食や繁華街に出かけることをできるだけ避けるよう呼びかけた。このままでは東京都から日本列島全体がクルーズ船化する恐れが強い。こうした国民の不安を解消するため、児玉龍彦東大先端研教授は、感染症対策の基本は感染者がどこに集まっているかを把握し、感染集積地と非集積地を分ける。さらに、非感染者の中で感染したら危険な人を選り分けることだとし、検査、診断、陽性者の追跡を精密に行う。包括的かつ網羅的な検査体制をつくり、感染実態を正確に把握することから始める。まず、抗体検査で感染集積地を網羅的に把握し、集積地でPCR検査を徹底する。学校や会社、病院、高齢者施設などで抗体検査を実施してある程度あたりをつけ、症状のある人や抗体陽性者が多いエリアをPCR検査にかける。これを春に予定されていた定期健診に今後組み込んで行っていくという「安全安心のシステム」の構築を提唱している(「デモクラシータイムス」2020.6.24)。

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