【投稿】招き寄せたデルタ変異株感染拡大--経済危機論(57)

<<コロナ禍による世界的な格差拡大>>
 8/2に発表されたIMF(国際通貨基金)の最新レポート「対外セクター報告書」は、「世界中のあらゆる人にとってパンデミックを終息させることが、さらなる格差拡大を防ぐ世界的な景気回復を実現するための唯一の方法である。そのためには、各国がワクチン接種のための資金を確保し医療を維持できるよう支援する世界的な取り組みが必要となる。」、「世界全体で一斉に投資を推進したり、パンデミックを終息させ回復を下支えするために医療支出を一斉に拡大したりすれば、世界的な収支を拡大させることなく世界の成長に大きな影響を与えられるかもしれない。」、「各国政府は、貿易摩擦や技術摩擦を解決し、国際課税制度を刷新するための取り組みを強化しなければならない。医療製品に関するものを中心に関税や非関税障壁を段階的に撤廃することが最優先課題のひとつとなる。」と、訴えている。
 この報告の直前、7/27に発表されたIMFのレポート「さらに進む分断 世界経済回復の格差拡大」では、「先進国では人口の40%近くがワクチン接種を完了しているのに対して、新興市場国ではその割合は11%に過ぎず、低所得途上国ではごくわずかにとどまっている。予想よりも早いワクチン接種と経済活動の正常化が上方修正を可能にした一方で、インドをはじめとする一部の国ではワクチンへのアクセスの不足と新型コロナの新たな感染の波が下方修正につながった。」「世界全体でワクチンや診断法、治療法への迅速なアクセスを実現するには多国間行動が必要となる。それにより、無数の人命が救われ、新たな変異株の出現が阻止され、世界経済の成長を数兆ドル押し上げることになるだろう。IMF職員は最近、パンデミックを終息させるための提案を行っており、世界保健機関(WHO)および世界銀行、世界貿易機関(WTO)が賛同したこの提案では、500億ドルを投じて2021年末までにあらゆる国で人口の40%以上、2022年半ばまでに同60%以上にワクチンを接種するとともに、十分な診断法と治療法を確保することが目標として掲げられている。この目標を達成するには、余剰ワクチンを抱える国が2021年中に少なくとも10億回分のワクチンを分配し、ワクチン製造業者が低所得国や低中所得国への供給を優先する必要がある。ワクチンの原材料と最終製品に関する貿易制限を撤廃し、十分な生産を確保すべく各地域のワクチン生産能力に追加投資を行うことも重要である。また、低所得国を対象とする診断法と治療法の提供やワクチン体制確立のために、前倒しの無償資金約250億ドルを用意することも不可欠である。」と、より具体的な対策を訴えている。このIMFレポートは、ウイルスが他の場所に蔓延している限り、現在感染が非常に少ない国でも回復は保証されていないとまで述べている。さらに「「感染性の高いウイルス変異体の出現は、回復を妨げ、2025年までに世界のGDPから累積で4.5兆ドルを一掃する可能性があります」と警告している。
 ところが実態は、こうした警告が無視され、当然取られるべき対策がほとんど実行に移されてはいない。先進国政府や国際機関は表面上は賛同しながらも、むしろ、実体は意識的になおざりにされ、ネグレクトされている。
 その筆頭が、ワクチンと治療薬の知的財産権保護を一時的に放棄することを決定すべきWTOが、審議と前進への進展がないまま、このほど6週間の長期休暇に入ってしまったのである(7/27)。
 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、「世界各地でCOVID-19の第3波が猛威を振るい、米国では致死性のデルタ型が主流となっています。世界中で必要なワクチンの生産を拡大するためには、今すぐにワクチン特許権の放棄が必要です。世界貿易機関(WTO)での緊急性の欠如には困惑させられます。WTOが1ヶ月間の休暇に入ってしまっては、その実現は不可能です。WTOが人命よりも大手製薬会社の利益を優先させることは許されません。彼らが行動を起こさなければ、世界中の人々に壊滅的で永続的な影響を与えるでしょう。」と嘆息する事態である。


<<100億回以上 vs. 1億回 桁が違う!>>
 ワクチンの知財保護の放棄を支持していたはずのバイデン米政権は、この事態に素知らぬ顔である。逆に、8/3、ホワイトハウスは、「米国は現在、60カ国以上に1億1,000万本以上の新型コロナワクチンを寄贈・出荷しており、これは米国がコロナワクチン寄贈の世界的リーダーであることを示す重要なマイルストーンである」と、胸を張る始末である。
 しかしこの1億1,000万本のワクチンは、現在世界で必要とされている量の100分の1に過ぎないのである。WHOがすでにワクチンへの公平なアクセスを目的としたCOVAXを通じて提供した1億6300万回分のワクチン、さらにWHOが今後少なくとも6億4000万回分のワクチンを提供するという計画にもほど遠いものなのである。デューク大学グローバル・ヘルス・イノベーション・センターのクリシュナ・ウダヤクマール博士は、ABCニュースの中で、「1億1,000万回の投与は非常に有用ですが、100億回以上の投与を行う方法を見つけなければならない規模では、違いを生み出す桁にもなりません」とコメントしている。

 バイデン政権は、こうした事態を糊塗し、責任を回避するためでもあろう、パンデミックの終息と将来のパンデミックへの備えに焦点を当てた、世界初のリーダーレベルのサミットを計画し、9月の国連総会の期間中に開催を計画している、と報じられている。

世界中でワクチンを接種するために250億ドル…それは次のことと同じです。 1. 東京オリンピックの開催費用 . 2. ファイザー社が2021年に予定しているCovid-19ワクチンからの利益 #StopPlayingGames 午前5時09分 – 2021年7月27日

 8/3、米国の非営利の消費者擁護団体パブリックシチズンは、こうした事態に、米国政府および他の国々に対して、以下のことを求める声明を発表している。
   ・ 250億ドルを投じて、1年で80億回分のワクチンを製造する。
   ・ 知識やワクチンのレシピを共有し、地域の生産拠点をオンライン化する。
   ・ 知的財産権に関する規則を放棄し、モデルナ社とファイザー社にワクチンのレシピを共有するよう求める。
   ・ 余剰分を直ちにCOVAXに振り向ける。

また、国境なき医師団(MSF)は、バイデン政権に対して以下の要求を提示している。
    ・より多くのコロナワクチンを可能な限り迅速かつ広範囲に共有することを約束する。
    ・世界各地でのmRNAワクチン製造能力の拡大を支援する。
    ・パンデミックの終息に必要なワクチンや医薬品の開発を制限する知的財産権の障壁を取り除く。
    ・製薬会社がワクチンやその他の医療機器を市場に投入するために、税金をどのように使っているかを明らかにする。

 こうした本来即時に取られるべき対策が放置された事態こそが、新型コロナウイルスの新しいデルタ型変異株の急速な拡大をもたらしものだと言えよう。

 8/3、米国疾病予防管理センター(CDC)のワレンスキー長官は、7月末土曜日の時点でのCDCのデータを示し、7日間の移動平均で、1日あたりのコロナウイルスの新規感染者数が44%増加し、約7万2,000人に達していること、1日あたりの死亡者数も7日間の平均で前年同期比25%増の300人に達していることを明らかにしている。
 中国でさえ、デルタ株の感染拡大が明瞭となってきており、このわずか2週間のうちに感染力の強いデルタ変異株が32ある第1級行政区(省・直轄市・自治区)の半分近くで確認され、少なくとも46都市が住民に不要不急の旅行を避けるよう呼び掛けられる事態となっている。
 もちろん、すべてに後手後手でなすすべさえ失いつつある日本でも事態は深刻である。8/4、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、東京都の新規感染者が1日当たり1万人に達することもあり得るとの認識を示す事態である。
 早急に パンデミック危機を利用した自由競争原理主義と特許権で欲得づくの巨利を築いてきた大手製薬独占企業の横暴に対する全世界的な怒りを結集させることが求められている。
(生駒 敬)
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