【投稿】ニクソン・ショック50年の教訓に学ぶ、台湾とハイチを結ぶ闇

【投稿】ニクソン・ショック50年の教訓に学ぶ、台湾とハイチを結ぶ闇

                      福井 杉本達也

1 暗殺されたハイチ大統領

共同通信サンパウロ支局による「ハイチからの報道によると、同国のモイズ大統領が7日未明、首都ボルトープランス近郊の自宅に押し入った武装集団に暗殺された。大統領夫人も撃たれて病院で治療を受けている。武装集団の身元は不明だが、スペイン語や英語を話していたという。」ハイチでは今年2月にはクーデター未遂が起きるなど政情が不安定である(福井:2021.7.8)との小さな記事がある。日本とハイチとの外交関係は現在、隣接国の在ドミニカ共和国大使館が兼轄しており非常に希薄である。対日輸出額が4.71億円、対日輸入額は22.7億円と非常に少ない。1人当たりGNIは790米ドルと世界の最貧国に位置付けられる。たとえ大統領が暗殺されたとしても、日本では、政情不安の極貧国でよくある内紛のケースとかたずけられてしまうであろう。

 

2 なぜか台湾大使館が大統領暗殺事件に関与

ところが事件はそれでは終わらなかった。ロシアRTは「ハイチの大統領は、元コロンビア軍とハイチ系アメリカ人の『外国の暗殺部隊』によって殺され、「台湾大使館」内で11人を逮捕」との見出しで、「ハイチの国家警察は、2人のアメリカ人と26人のコロンビア人がジョヴェネル・モイズ大統領の暗殺の責任があると主張し台湾は外交施設で11人の逮捕が行われたことを確認した。少なくとも28人が今週初めに殺人計画を実行した」と報じたのである(2021.7.9)。これを裏付ける台湾側の報道として、中央社フォーカス台湾は「8日早朝、武装集団が首都ポルトープランスの在ハイチ中華民国大使館の敷地内に侵入し、警察に逮捕された。外交部(外務省)が9日、明らかにした。」と書いている(2021.7.9)。

この続報として、日経メキシコシティの宮本英威記者は「首謀者の一人とみられているのが、同国出身で米南部フロリダ州在住の医師」であり、「米フロリダ州に拠点を慣くベネズエラ系警備会社のCTUを介してコロンビアの元軍人を実行犯として雇ったとされている。」「ハイチ聾察はこれまでハイチ系米国人3人とコロンビア人18人を逮捕した。」米国人のうち1人は過去にDEA(米麻薬取締局)の情報提供者だった。」と書いている(2021.7.14)。

2020年5月にはワシントンの傭兵がベネズエラ当局に捕らえられているが、フロリダのアメリカ民間軍事企業と契約を結び、コロンビアで戦士を訓練し、ベネズエラのマドゥロ政権を打倒するためベネズエラ領に潜入す手はずであった。周知のようにコロンビアは世界中(特にアフガン)からの麻薬の中継基地である。米フロリダ州とコロンビアの傭兵と麻薬が揃えば状況証拠は十分である。逃げた傭兵が台湾大使館の敷地内に単に侵入したなどということはない。台湾大使館も犯行後の逃走経路として大統領暗殺に一役かっていたといえる。

ハイチでは1991年と2004年に軍事クーデターがあり、「解放の神学」を唱えていたカトリックの神父で国民に支持されていたアリスティド氏が大統領の座から引きずり下ろされた。その背後にはCIAがいた。ハイチは金鉱脈が存在し、潜在的には豊かな国であるが、アメリカやフランスの略奪を受け、国民は貧困で、失業率は70%を超す。2010年1月には大きな地震があり、10万~32万人が死亡したと言われている(参照:「櫻井ジャーナル」2018.1.14)。

 

3 モイズ大統領は中国の「ワクチン外交」に寝返ろうとして暗殺されたのか?

ハイチは台湾と外交関係を持つ15か国の1つである。日経の8月6日の記事は「中国は台湾を国際社会で孤立させる戦略の一環で、台湾と外交関係を持つ国々への経済支援をテコに断交を働きかけてきた。」「中国は新型コロナのワクチン供給を条件にハイチへの圧力を強めている。『ワクチン外交』を推進する中国はドミニカなどに中国製ワクチンを支援しているが、ハイチには提供していない。」「台湾の蔡英文総統は外交関係のつなぎ留めに腐心している。」とかなり踏み込んだ分析を行っている。事件の真相は今もやぶの中ではあるが、状況証拠を積み重ねた記事は信ぴょう性が高い。

 

4 台湾に前のめりの「令和3年版防衛白書」と岸防衛相

「令和3年版防衛白書」の刊行によせてにおいて、岸防衛相はわが国は「自由や民主主義、法の支配、基本的人権の尊重といった普遍的価値の旗を堂々と翻す国となりました。我々は、志を同じくする仲間と手を携え、インド太平洋地域における普遍的価値の旗手として、自由を愛し、民主主義を信望し、人権が守られないことに深く憤り、強権をもって秩序を変えようとする者があれば断固としてこれに反対していかなければなりません。」と書いている。さらに記者会見において「米国は、台湾への武器売却、あるいは米軍艦艇による台湾海峡通過といったですね、トランプ政権以降に台湾への関与をより深めていく認識を示し、バイデン政権においても、台湾を支援する姿勢を明確」にしており、「台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」であると踏み込んだ。

 

5 ニクソン・ショックから50年―歴史に何も学ばない安倍・岸ら「親台湾派」

周知のように岸信夫防衛相は安倍晋三前首相の実弟であるが、中国網は東京五輪のさなかの7月29日、日本の「一部の国会議員は米国の一部の国会議員とぐるになり、台湾地区の『議員』を引き込みいわゆる『第1回台米日議員戦略フォーラム』という茶番を演じた…日本の前首相である安倍晋三氏が自ら登場した。」。「これらの『親台派』は『中国人民が中国共産党を選んだ』という歴史的現実を受け入れたがらない保守派勢力が中心だ。」とし、「中国の発展及び中日関係の安定的な関係促進に伴い、『親台派』の中日関係への影響が日増しに衰えた。そこで彼らは米国の親台議員と合流し、米国の中国けん制政策を利用し自身の影響力を拡大することを選んだ。」と報じた(中国網:2021.8.9)

8月7日の日経コラム「大機小機」は「 2つのニクソン・ショックから50年がたち、世界は一変した。ニクソン米大統領の声明で金ドル本位制が終わり、訪中で中国は世界の表舞台に登場した。その中国はいま通貨でも軍事でも米国の覇権に挑戦する。… 2つのニクソン・ショックに最もあわてたのは日本だった。円安の固定相場に安住してきた日本は円高恐怖症が抜けず、プラザ合意後のバブル崩壊で経済敗戦を喫する。一方、「頭越し」のニクソン訪中は受け身の外交に活路はないことを示した…対話を通じて新冷戦防止をめざすことこそ日本の役割だ。ニクソン・ショック50年の教訓である」と書いている。「親台派」の言動に惑わされることなく、中米・ハイチにおいて台湾が何をしているかをもう一度考えてみる必要がある。

カテゴリー: 人権, 平和, 政治, 杉本執筆 パーマリンク

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