【投稿】浮上する「反中国」軍事同盟の危険性--経済危機論(60)

<<AUKUS・QUADは危険な転換点>>
 9/24、米国、日本、インド、オーストラリアの首脳がホワイトハウスで開いたQuad(クアッド、4カ国・日米豪印戦略対話)の会合に際して、十数カ国の平和団体や個人が署名した公開書簡が発表された。そこには、オーストラリア(オーストラリア独立・平和ネットワーク、オーストラリア反基地キャンペーン連合)、米国(平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン、ピース・アクション、ニューヨーク平和運動・CPDCS)、アジア・ヨーロッパ人民フォーラム(インド、フィリピン、ベトナム)、国際平和ビューロー、宇宙における兵器と原子力発電に反対するグローバルネットワーク、ベテランズ・フォー・ピース、軍国主義に反対する国際女性ネットワーク、核軍縮キャンペーン、人権のための医師団、ストップ・ザ・ウォー・コーリション、などの団体、ならびに個人が名を連ねている。(全文と署名者は、Common Dreams September 24, 2021
 同書簡は、中国との地政学的な軍事的緊張を危険なまでに激化させるQuadの同盟と先のAUKUS同盟を非難し、このような軍事的競争の激化は、事故や誤算が破滅的な戦争へとエスカレートする危険性を増大させるだけでなく、核兵器、気候変動、パンデミックといった実存的な脅威を克服するための米中および広範な国際協力の可能性を著しく損なうものであり、AUKUS同盟の交渉と発表は、まさに地政学的に危険な転換点である、と指摘している。
 その中でも重要なこととして以下の4つの問題点が指摘されている。
 1.QuadとAUKUSの同盟関係は、安定と安全を高めるどころか、冷戦のような軍拡競争の危険なスパイラルに拍車をかけており、これは共通の安全保障外交によってこれを覆さなければならないものである。
  2.高濃縮ウランとその関連技術のオーストラリアへの移転は、核不拡散条約・NPTに違反し、核兵器の拡散を助長する。オーストラリアが核保有国になるために必要な資源を提供することになるが、インド、韓国、日本の政治家や軍部にとっては、なぜこのような能力が否定されるのかと問いかけることとなる。
  3.AUKUS同盟の発表は、悲惨な世界戦略上の影響を与える。NATOがアフガニスタンから急遽撤退した直後、バイデン政権はまたしてもNATO同盟国に相談なしに行動したが、これは、ヨーロッパやEUの指導者たちが、独立したヨーロッパの軍事大国化に拍車をかけるものであり、世界的な軍拡競争を強化するものである。
  4.AUKUS同盟は、ASEANやその他の国々に対して、独立性を損なう形でどちらかを選択する圧力を増大させるものである。

なお、オーストラリアの平和団体は、オーストラリアが米軍の中継地にならないこと、オーストラリアの主権が米国に放棄されないこと、自国政府が高濃縮ウランを搭載した潜水艦の購入合意に内在する核拡散と環境破壊の危険を助長しないことを要求している。オーストラリアの緑の党は、この取引に 「徹底的に 反対する」ことを表明している。

<<NPT違反の核武装協定>>
 菅首相は、まさにこの「反中国」の危険な軍事同盟の形成に自ら進んで加担し、後継政権に憲法違反の軍事同盟加担の枠をはめ、手渡そうとしているのである。
 オーストラリアのモリソン首相はQuadの会合後、ホワイトハウスで記者団に対し、菅首相とインドのモディ首相が会合の席上、米英豪による安全保障連携の枠組み・AUKUSで合意された米英による豪原子力潜水艦の開発支援に支持を表明したことを明らかにしている。
 パンデミックに対してすべて後手後手で、内閣支持率が最低にまで落ち込んで辞任に追い込まれた首相の最後がこれである。バイデン大統領に体よく利用されたわけであるが、自民党政権の本質の一端の露呈でもあると言えよう。
 問題は、AUKUSは安全保障パートナーシップと称されているが、中国への圧力を高めることを目的とした核武装協定であり、モリソン首相は、「AUKUSの最初の主要な取り組みは、オーストラリアに原子力潜水艦を提供することである」と明言していることである。
 しかしそのオーストラリアは、1973年に核拡散防止条約・NPTを批准し、ラロトンガ条約(1985年)、すなわち南太平洋非核地帯条約にも加盟し、南太平洋に核物質を持ち込まないことを約束しているのである。
 さらなる問題は、今回新たに導入されようとしている原子力潜水艦の原子炉には大量のウランが必要であるが、それは最も核分裂性の高い同位体であるU-235の高濃縮ウラン(HEU)なのである。仮に、6~12隻の原子力潜水艦を約30年間運用しようとすると、3~6トンの高濃縮ウランが必要になるが、オーストラリアにはウラン濃縮施設も能力もない現段階では、新たに軍事目的の濃縮プログラムを開始しない限り、米英から調達することとなる。当然、今後、非常に機密性も危険性も高い軍事用核技術の拡散が予想され、文字通り何トンもの新しい核物質が国際的な保障措置や監視から縁遠い状態で使用される可能性が大なのである。

 一方でオーストラリアは、カザフスタンに次ぐ世界第2位のウラン生産国であり、この核物質のほとんどは英国と米国に販売されている。今回のAUKUS合意を、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州鉱業のCEOであるS・ガリリーは、「これは、ニューサウスウェールズ州での冷戦時代のウラン採掘の禁止を撤廃することにより、原子力エネルギーへのアプローチを更新する絶好の機会です。ニューサウスウェールズ州で、国内のエネルギーと国家の安全保障のニーズを満たすために地元のウランを提供できる新しい産業を開発する本当のチャンスです」と、原発ならびにウラン濃縮施設の新設まで見越して大歓迎である。

 こうした事態に照応して、原料ウランの価格は高騰し、わずか数カ月の間に60%も上昇して9年ぶりの高値を記録している。しかもアメリカの悪名高いReddit投資フォーラムの絶好のマネーゲーム対象となり、ウラン採掘会社の株を買い集めている。このような危うい投機経済は、経済危機破綻のきっかけにさえなりかねないものである。
 しかしこうした危険な核拡散に対して、ニュージーランドは厳格な非核政策を堅持することを明らかにし、アーダーン首相は、オーストラリアのモリソン首相に対して原潜の寄港はもちろん領海内通過も拒否することを通告している。インドネシアのファイザシャ外務報道官は「インドネシアは、この地域で軍拡競争が続いていることに深い懸念を抱いている」と表明し、 マレーシアのイスマイル・サブリ・ヤコブ首相は、AUKUSを「インド太平洋地域における核軍拡競争の触媒」と定義し、「マレーシアはASEANの一国として、ASEANを平和、自由、中立のゾーンとして維持するという原則を堅持する」と述べている。
 日本政府はこれらの国々とは真逆に、軍拡競争に加担し、オーストラリアの原潜の寄港どころか共同防衛体制の構築にまで進もうとしているのである。日本の次なる新政権と野党の態度が問われている。
(生駒 敬)
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