<<「ハロー、チャイナ、こちらペンタゴンです」>>
この9/21に発売される予定の著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏とワシントン・ポスト紙の政治記者・ロバート・コスタ氏との共著『PERIL 危難』は、トランプ政権からバイデン政権への移行期の実態がどのようなものであったのかを明らかにしている。両氏は、これまで知られていなかった秘密の命令の内容や、極秘の電話のやり取り、日記、電子メール、議事録、その他の個人や政府の記録を入手したこと明らかにしており、それは「単なる国内政治の危機をはるかに超えた」、「米国史上最も危険な時期」だったという。
その中で、これは本当なのかという、意外な驚くべき事実が暴露されている。それは米国防総省・ペンタゴンのマーク・ミレイ統合参謀本部議長(陸軍大将)が、中国・人民解放軍の李大将に一度ならず二度までも極秘の電話をかけていたというのである。一度目は、米大統領選投票日のわずか4日前、2020年10月30日。そして2回目の電話は、トランプ支持者が国会議事堂を襲撃した2日後の1月8日に行われたという。その際、ミレイ氏は、自国が中国を攻撃する可能性を示唆し、もし攻撃する場合には「事前に相手に警告する」と述べ、「核兵器で攻撃することはないが、攻撃する場合は通知する」と述べたというのである。
「ハロー、チャイナ、こちらペンタゴンです」と言って、こんな会話をするであろうか、常識では考えられない事態である。米アトランティック誌は、「善人のミレイは、悪人のトランプを非常に心配していたので、私たちを救ってくれた」のではないかと問いかけている。
さらにミレイ氏は、米軍の上級将校たちを呼び集め、核兵器の発射手順に自分が含まれていなければならないことを理解していると、一人ずつに確認までさせていたという。
冷静に考えれば、本当にそのような電話をかけざるを得ない事態、核兵器の発射手順の寸前にまで陥っていたとすれば、アメリカはすでにその時点で制御不可能な国家に転落をしていたということであろう。全面核戦争の戦端を切り開いていた可能性さえあったのである。
問題は、ミレイ氏自身がこうした事実が報じられているにもかかわらず、否定していない、ということである。そして、バイデン大統領までもが、こうしたミレイ氏に「全幅の信頼」を寄せていることを明らかにしていることである。
<<「水差しは爆弾」>>
ところで、このマーク・ミレイ氏、”ISISテロリスト”とまったく無関係な市民9人を殺害した8月29日のアフガニスタン・カブールでの米国のドローン攻撃を、「正義」であり、「正当」なものと表現していた張本人である。バイデン大統領が軍司令官に空爆の許可を与えたことを自慢げに語り、ホワイトハウスのサキ報道官は「大統領は司令官たちに、カブール空港でのアメリカ軍人の死の代償をISISに払わせるためには手段を選ばないと明言しています」と述べていた。
ところが、ニューヨークタイムズやワシントンポストの調査報道で、この爆撃は米国に拠点を置くNGOに雇用されていた援助者のゼマリ・アフマディさん(43歳)を標的とし、彼の家族9人を殺害したことが判明するや、頬かむりして逃げ込むつもりであったのが、2週間以上も放置しておいて、あわてて謝罪に追い込まれる事態となった。
アフマディさんは、戦争で疲弊したアフガン難民に食料と水を提供する米国後援のNGO、Nutrition & Education Internationalで働いていて、当日、彼は白いトヨタ・カローラに乗り、事務所を訪れて事業計画を作成したり、家族のために水の容器に水を入れたりして、一日の終わりに家の前に車を停め、家族に挨拶をしていたところをドローン爆撃で家族ともども殺害されたのであった。ドローン爆撃の無人機チームのオペレーターにとっては、アフマディさんが移動した施設は「イスラム国」の秘密施設となり、水差しは爆弾、車内に収納されていたノートパソコンのケースも爆発物と思われる包装がされていた、というのである。アフマディさんを8時間も追跡していた結果がこのでたらめさである。米国の無人機ドローン爆撃によって殺害された人々の90%がテロとは無関係な民間人であったことが明らかにされている。
説明責任を果たさない、誤爆であったと発表されても、誰も解雇や懲戒処分を受けない、責任も取らない。その頂点にあったのが、ミレイ氏やバイデン氏である。
<<Aukus・Quad:米英豪+日軍事同盟の危険性>>
そのアフガニスタンから撤退する理由として、バイデン氏は、「私たちの真の戦略的競争相手」である中国を第一に挙げていたのであるが、9/10に行われたバイデン氏と中国の習主席の電話会談では、米中両国は両者の利益が一致する分野と「我々の利益、価値観、視点が異なる分野」について、「オープンで率直な」関与を行うことで相互に合意したという。バイデン氏は、中国に対抗する戦略から、「責任を持って 二国間関係を管理」し、「インド太平洋と世界の平和、安定、繁栄 」を維持し、「競争が紛争に発展しないようにすること 」へと劇的な変化である。
前回の首脳会談では、「米国民の安全、繁栄、健康、生活様式を守り、自由で開かれたインド太平洋を維持する」ことを誓い、「北京の強圧的で不公正な経済活動、香港での弾圧、新疆での人権侵害、台湾を含む地域での自己主張の高まりに対する基本的な懸念」を強調し、事実上決裂していたトーンとは全く異なる事態の進展である。大いに歓迎されるべきであろう。
ところが、である。その舌の根も乾かないうちに、9/15、バイデン大統領とオーストラリア、イギリスの首脳は、中国に対抗するための新しい軍事協定を発表したのである。AUKUS 3国間安全保障パートナーシップと呼ばれるこの新しい協定は、バイデン米大統領、ジョンソン英首相、モリソン豪首相が共同で発表したもので、機密性の高い軍事技術の共有に焦点を当て、最初の取り組みとして、オーストラリアに原子力潜水艦を導入することを明らかにしている。
このあたらしい軍事協定により、オーストラリアは初めて原子力潜水艦の製造が可能になったのであるが、900億ドルを投じてフランスが設計した潜水艦12隻を入手する計画が放棄されることとなった。フランスのルドリアン外相は「裏切り行為だ」と猛反発し、バイデン米大統領についても「(米欧関係を悪化させた)トランプ前大統領のようだ」と非難する事態を招いている。
バイデン政権は、対中新冷戦包囲戦略として、このAukusに加え、Quad・四カ国・日米豪印戦略対話を連結させようというわけである。辞任が目前に迫った菅首相を取り込んで、既成事実として承認させられる場に、のこのこと菅氏が訪米するのである。
米中を含めた、パンデミックと気候変動の共通の脅威に取り組むために世界的な協力を必要としている、この喫緊の課題に逆行することは許されるものではない。
(生駒 敬)
米中を含めた、パンデミックと気候変動の共通の脅威に取り組むために世界的な協力を必要としている、この喫緊の課題に逆行することは許されるものではない。
(生駒 敬)