<<パンドラ文書の公開>>
10/3、ICIJ・米ワシントンに事務所を置く非営利組織。国際調査報道ジャーナリスト連合(International Consortium of Investigative Journalists)が、租税回避地・タックスヘイブンを利用して、公正な納税を回避・脱税している富裕層の個人や多国籍企業を暴露する新しいレポートを発表した。企業や信託法人を設立・管理する法律事務所など14社の1190万件以上の内部文書を入手し、それらを「パンドラ文書」と名付けて発表に踏み切りだしたのである。(pandora-papers global-investigation-tax-havens-offshore by ICIJ 2021年10月3日 )
今回の「パンドラ文書」の取材プロジェクトには、日本からは朝日新聞と共同通信が参加しており、10/4付け朝日新聞によると、「日本の政財界人も多数登場、ソフトバンクの孫正義氏や内閣官房の東京五輪・パラリンピック推進本部の事務局長を務めた元通産官僚の平田竹男氏ら、「登場する個人や法人は千を優に超える」という。取材に答えた企業の関係者は、「それ(脱税)以外の理由でタックスヘイブンに親会社を作る会社はありますか」と開き直っている。
同文書の公開にあたり、ICIJは「パンドラ・ペーパーズは、富裕層やコネを持つ人々が他の人々を犠牲にして利益を得る影の経済の内部構造を明らかにするものです」と述べ、要旨、以下のような事実を明らかにしている。
・ 何百万枚ものリーク文書と史上最大のジャーナリズムパートナーシップにより、35人の現役および元世界のリーダー、91の国と地域の330人以上の政治家と公務員、そして世界的な逃亡者、詐欺師、殺人者たちの財務秘密が明らかになりました。その中には、ヨルダン国王、ウクライナ、ケニア、エクアドルの大統領、チェコ共和国首相、トニー・ブレア元英国首相の海外取引が含まれています。また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「非公式広報長官」や、ロシア、米国、トルコなどの130人以上の大富豪の財務活動も詳細に記されています。
・ 漏洩した記録によると、オフショア制度の廃止に貢献できる権力者の多くが、かえってオフショア制度から利益を得ていることが明らかになりました。秘密の会社や信託に資産を隠し、犯罪者を富ませ、国家を貧困に陥れる不正な資金の世界的な流れを止めるために、各国政府はほとんど何もしていないのです。
・ このシステムの主要なプレーヤーは、アメリカやヨーロッパに本社を置く多国籍銀行、法律事務所、会計事務所などのエリート機関です。パンドラ文書の調査では、米国最大の法律事務所であるベーカー・マッケンジーが、現代のオフショアシステムの構築に貢献し、このシャドー・エコノミーの主役であり続けていることも浮き彫りになっています。
・ ICIJは、150の報道機関から集まった600人以上のジャーナリストのチームを率いて、2年間かけて、入手困難な情報源を追跡し、数十カ国の裁判記録やその他の公文書を調査しました。ICIJとそのメディアパートナーによる調査結果は、秘密の金融がいかに深く世界の政治に浸透しているかを浮き彫りにし、政府や国際機関がオフショア金融の乱用を終わらせるために、なぜほとんど前進していないかについての洞察を提供しています。また、世界中の政府が歳入不足、パンデミック、気候変動、国民の不信感などに悩まされている中で、今回の秘密ファイルは、富とオフショアの避難所に関する今年の公式発表に、舞台裏の背景を提供しています。
・ さらに、急成長しているアメリカの信託業界は、海外のタックスヘイブンで提供されているものに匹敵する、またはそれを超えるレベルの保護と秘密を約束することにより、国際的な億万長者と億万長者の資産をますます保護しています。ほぼ絶対的なその盾は、業界を意味のある監視から隔離し、米国の州で新しい足場を築くことを可能にし、サウスダコタ州の信託会社に預けられている顧客資産は総額3600億ドル(約40兆円)で、この10年間で4倍以上に膨れ上がっており、州内最大の信託会社の一つ「サウスダコタ・トラスト・カンパニー」は54か国からの顧客を抱えています。他の州には、アラスカ、デラウェア、ネバダ、ニューハンプシャーが含まれます。ICIJは「成長する米国の信託産業は、国外のタックスヘイブンをしのぐレベルの財産保護と秘密保持を約束することで、国際的な富豪らの資産をかくまっている」と指摘している。
<<「早急な対策が必要」>>
今回のパンドラ文書の最大の特徴の一つは、このパンドラ文書には、アメリカの15の州とワシントンD.C.にある206の米国の信託と、22の米国の信託会社の文書が含まれており、不透明なことで有名なヨーロッパやカリブ海の国に匹敵するほどの金融機密を保持し、アメリカ自身が今や世界的なタックスヘイブンであることが明らかになったことであろう。
なお、このパンドラ文書には、ビル・ゲイツや、イーロン・マスク、ウォーレン・バフェット、ジェフ・ベゾスといった米国の大富豪たちの名前がまったく見当たらない。ワシントン・ポスト紙は、それは「米国の超富裕層は税率が低いため、海外のヘイブンを探すインセンティブが低い」からだと指摘、つまりはさまざまな優遇措置と減税政策、巧妙な税務対策の結果であろうと示唆している。
貧困と不正を根絶するために活動する世界的なNGO・オックスファム・インターナショナルの税金政策のリーダーであるスサナ・ルイズ氏は、「パンドラ文書は、世界のタックスヘイブンの闇に蠢く大金についての衝撃的な暴露であり、かねてより約束されていたように、早急な対策が必要です。タックスヘイブンを廃止するという各国政府の約束は、実現に向けてまだ長い道のりを歩んでいます。」、「現在、140カ国がOECD-G20傘下の国際税務交渉に参加していますが、彼らが出した最善の案は、アイルランド、スイス、シンガポールがすでに提示している名目上の税率に近い15%の税負担を提案することにしかすぎません」と述べ、オックスファムは各国政府に対し、以下の方法でタックス・ヘイブンを廃止するよう求めている。(OXFAM International Published: 3rd October 2021)
1. 個人、オフショア・多国籍企業に対する税の秘匿を廃止する。銀行口座、信託、ダミー会社、資産の真の所有者に関する公的な登録簿を作成する。多国籍企業に対し、国ごとに事業を行っている場所での会計報告を義務付ける。
2. 自動交換の利用を拡大し、歳入庁が資金の追跡に必要な情報にアクセスできるようにする。
3. タックスヘイブンへの企業の利益移転を新たなルールで止め、OECDのBEPS協定に基づいてグローバルミニマムタックス(理想的には約25%)を設定すること。
4. タックスヘイブンの世界的なブラックリストに合意し、その利用を制限するために制裁を含む対抗措置を講じること。
5. 富と資本への公平な課税に関する新しい世界的なアジェンダを設定し、合意された基準に照らして、所得または富のいずれかを対象とした富裕層に対する各国間の課税競争に対処すること。
泥沼状態に入り込んでしまった租税回避と法人税引き下げ競争は、明確な打開策が講じられない限りは、ますます抜け出せなくなり、経済危機そのものをさらに深刻化させよう。
(生駒 敬)