民主主義の旗 第50号 1968年5月25日


民主主義の旗 第50号 1968年5月25日 PDF版

民主主義学生同盟全国委員会発行 

【主な記事】
【主張】総評労働者、全国反戦と連帯し6ー15闘争に決起しょう
【支部報告】 自治会の大衆的再生めざして
【論説】学生運動の現状と再建・統一の基本方向
   –層としての学生運動の大衆的、民主的再生のために–
【書 評】 『マルクス主義と自由』-(増補版

【主張】総評労働者、全国反戦と連帯し6ー15闘争に決起しょう

 パリ会談が始まり、ベトナム侵略戦争が、最終局面を迎えた
今、すべての革新勢力が団結を強め「北爆停止」と「米軍撤退」とをめざし、全力をあげて斗わねばならない時にきている。我が民学同は「民主主義の旗」50号の成果と伝統を踏まえ、平和共存の旗を高く掲げ「今年をベトナム反戦勝利の年に」するため、斗いぬく決意である。
 一、パリのベトナム和平会談は、ベトナムにおける米帝の政治的、軍事的敗北の象徴である。英雄的ベトナム人民の斗いと、全世界の平和勢力の反戦斗争は、ついに、アメリカ帝国主義を交渉のテーブルに引きずり出した。米帝は北緯二十度以南の北爆を強化し、兵力を増強し、有利な「解決」をかちとるための策動を強めている。しかし、その米帝の意図も、解放戦線の圧倒的攻勢、とりわけサイゴン市内への攻撃により、まったく貫徹していない。このサイゴン市内攻撃は、サイゴン「政府」の解体を促進させ、米帝に解放戦線をぬきにした解決はありえないことを示し「キー派」と「チエ一派」の対立を激化させている。パリ会談における現在の焦点はアメリカがただちに北爆をやめるかどうかという点である。全世界の反帝平和勢力が「北爆即時全面停止」を要求し斗うならば、米帝も策動を中止せざるをえない。
ニ、昨年十一月以来のドル危機の深化の中で、現在四度目のゴールドラッシュを迎えている。金の価格が一オンス=四二㌦五〇セント(五月二二日現在)にまで上昇し、近日中に四五㌦までになるのは確実といわれている。今までは、一応「ドル防衛」協力をしてきた各国も、このような情勢下では、その協力に限度がきたことを認めつつある。すでにスイスの中央銀行は米に対し、ドルを金に交換し、チューリッヒの白田市場に売り出している。金の二重価格制は、当初から指摘されていたように、もはや破綻寸前であり、ドルの切りさげはさしせまっている。「ドルもベトナムも」守りぬく決意でいた。ジョンソンの政策はまったく失敗し、ベトナムかドルかの二者択一どころか、現在では、ドルもベトナムも「守り」えないところにまで米帝はおいつめられている。
 三、このような情勢下で、直接派兵を除くありとあらゆる侵略強力をおこなってきた佐藤政府と日本独占資本は、自らの戦略の再検討をおこなっている。彼らの間では「アフターベトナム」が語られ、米帝がアジアから後退せざるをえないスキをねらって、日本独占資本が進出しようとしている。最近の一連の集中合併、「経済会議」はその現れである。
教育三法案をやめてまで「海外援助協力法」を通したのも、インドネシア進出のためである。ドルーベトナムを中心軸に展開されている世界情勢の申で、独占内部にも、日本の進路について、意見の分岐が生れている。佐藤-福田の対米依存の政策には、自民党内部からも反対が出ている。「北爆を支持するのか、否か」「対中国関係を改善するのか、しないのか」についての独占内部の意見の対立は、我々にとってどうでもよいものではない。この独占内部の矛盾を激化させ、反動佐藤派に打撃を集中し、佐藤内閣を打倒することが我々の任務である。日本における佐藤内閣打倒の斗いは、ベトナム人民への最も強力な支援でもある。
 四、現在、アメリカ、西独、フランスをはじめ世界中に学生運動の波がおしよせている。
米のベトナム反戦-マッカーシー選挙の斗い西独の非常事態法反対の斗い、フランスにおける学園民主化ー反ドゴール闘争などの運動の高揚は日本の学生運動に次の点を要請している。まず第一点は学生自身の斗いを統一して展開する事の重要性である。意見が違ってもベトナム反戦の一点で結集し行動は統一する。しからばマッカーシー選挙で巨人な力を発揮しえたのである。第二に特に仏の運動にみられた極左学生に対する態度の問題である。仏の共産主義学生同盟を始めとする大部分の学生は、極左学生を排除するのではなく、大衆的決起の中で批判を集中し、はね上がりをやめさせ、真の敵に対して斗いを強めているのである。第三に労働者階級を始めとする国民諸階級との力強い連帯である。仏労働総同盟のストライキにより、パリにおける斗いはドゴールの個人権力打倒の斗いに発展転化した。日本の学生運動は三派「全学連」の極左はね上がりと、民青のセクト主義により以上の三点が全国学友全てのものになっていない。全国の学友諸君!極左的なはね上がりと、分裂主義を断固として拒否し、労働者階級との連帯をうち固め、大衆的学生運動実現目指して6月斗争を斗い抜こうではないか。
 全国の学友諸君!既に三派系「全学連」の極左的現地闘争主義が破綻している。大衆的に三派系「全学連」を孤立させ、大衆的スクラムとと林立するゼッケン.プラカードデモの力によってヘルメット、棍棒、投石戦術を断固として克服しようではないか。同時に民青「全学連」の一貫したポイコット分裂主義(4・24,28,5・14)を大衆的な闘いに依拠して鋭く弾劾しようではないか。
 五、日高六郎、阿部知二、小田実、古在由重、新村猛氏、五氏は五月十九日より六月三〇日までベトナム反戦六月行動月間として集中的に斗いを展開するよう訴えている。
大阪府学連、兵庫県学連は六月行動の呼びかけにこたえて、六月十五日に全関西学生総決起集会を大阪において総評労働者、反戦青年委員会と共に斗い抜くことを訴えている。東京では、六月十五日には全国反戦青年委員会が万単位の行動を実現すべく取り組みを開始した。大阪総評も当日万単位の集会を提起している。
 全国の学友諸君!六・十五全国統一行動に起ち学生運動統一への一歩を踏みだそうではないか。

【支部報告】  自治会の大衆的再生めざして 統一会議民学同派中執選挙に

【市大支部発】市大支部では現在第7回中央執行委員会選挙にむけて、民学同を支持する学友を含め同盟を中心に活躍中である。
 5月14日には、民学同市大支部統一会議の共催によって、志賀義雄氏講演会を開催し、のべ四百名を越える学友の参加によって圧倒的に成功した。
 午後三時、会場の工学部階段教室には、早くから学友がつめかけ志賀氏の講演が始まるころには、同教室をうずめつくした。
 市大支部を代表して、井口同志のあいさつと、統一会議民学同派議長藤岡君から決意表明が行なわれた後、拍手の中に志賀氏が登壇し講演が始まった。
 この講演で、「情勢の正しい把握と、そのもとでの当面する最重要な課題を徹底的に斗う中でこそ真に展望を切り拓く事が出来る。
 それには敵をより少なくし、昧方をより多くすることである」と強調された。一筋に五十数年社会活動の指導者としての志賀氏の発言は、参加者全員の心を強くとらえて離さなかった。 
 時同じく、一部同盟脱落分子(共労党系)が「いいだもも講演会」をぶつけたがわずか百五十名しか結集できず、恥しさの余りか、翌日には「もも講演会」については一切触れられなかった。
 市大支部を中心とするわれわれ統一会議(民学同派)は、志賀義雄氏を迎えこの政治集会でかち取られた意思統一を基礎に中執選挙を有利に展開している。今、選挙においてわれわれは、一部同盟脱落分子(共労党系)が「主流派」と自称し、一切の論点をぼかし、こっそりと「第四全学連への道」=七月自治会共闘結成を密輸入するムード主義に全面的に対決している。われわれは府学連の強化、六・一五全関西学生総決起六千名集会を成功させる府学連・兵庫県学連共同アピールに基ずき関自代の成功、課題の一致にもとずく行動の統一、全国全自治会を包含する単一全学連への道をさし示すことによって、七月自治会共闘結成のセクト的意図を暴露し、広汎な支持を集めている。
 民青系は五・一四全関西集会の失敗から諸要求路線へと動揺し、伸び悩んでいる。棍棒・ヘルメット戦術を拒否する学友の正しい意識によってトロッキスト諸派は早くも選挙戦線から消えうせている。
 学生戦線の統一を最大の論点としつつ、われわれを中心とする統一会議(民学同派)自称「主流派」(共労系)民青系の三つどもえの選挙戦において、政策的優位に立つわれわれが着実に学友の支持を得つつある。

 民学同第二党に  分裂5・14(民青提案)否決
【京大支部発】5・14全国学生統一行動に向けて取組みが進みつつある京大において、5月10日教養部自治委員会が招集された。
 この自治委員会における争点は民青の主張する5・14神戸集会か我々の主張する5・24全国学生統一行動かであった。我々は民青の提案が、日程的にもクラスでの取り組みを放棄した、闘争乱発と活動家動員主義であること、また現在の中心課題は”神戸を軍港にするな”というような現地闘争主義的なものではなく、北爆全面停止佐藤内閣打倒であること、また神戸集会は神大の選挙を控えた民青のセクト的利害追求以外の何ものでもないことを自治委員諸君に訴え、大阪府学連、兵庫県学連のアピールに呼応した5-24に向け、クラスでのべトナム研究会、行動委員会を組織し、学内デモ、ビラマキ等の形で他のクラスにもアピールして、5-24を大衆的に闘わねばならないことを提案した。
 その結果、民青提案は自治委員の批判の前に、過半数を取ることができず否決(賛成54、反対60、保留10、棄権3)され、民学同(22)はマル同中核(21)社学同(11)を押え、第二党の地位を堅持した。
 現在、5-24に向けてクラスでの取り組みは研究会、クラス討論など順調にすすみつつあり、5-24においては百名規模の大衆的なプラカ一ド、ゼッケンデモを獲得する為に奮闘している。
 5-24の闘いを、大衆的に成功させ、6-15全関西総決起集会に京大から200名動員する予定である。

民青の妨害を排し
    志賀講演会五百名結集
【東京理大支部発】五月十七日自治会革新会議主催で行なわれた志賀義雄氏大講演会は、狂気の民青の妨害を排し、五〇〇名が結集するという圧倒的成功に終った。民青と「常任委員会」は、ポスター破りはもちろんのこと、連日、膨大なビラをまき、反共攻撃に終始した。平和のための講演会を行なうことが「自治会の撹乱と、分裂を策動する」ものであると、正気の人間では考えられないことをわめきちらし、志賀一派=民学同=自治会革新会議の「特定の思想をもちこむもの」という右翼まがいの反共攻撃のみを行い、平和と民主主義への敵対的な攻撃をしつづけた。当日は、志賀氏の名を黒ワクでかこんで、北京放送並みの中傷をしたり、会場入口前で妨害活動を行なったが、学友から反感をかっただけで、講演会は五〇〇名の学友の参加により、圧倒的に成功した。講演会が成功するとみるや民育と、一部の「常任委員」が乱入して、官憲まがいの身分調査をはじめようとし、それが学友に拒否されると、講演中の壇上に、主催者の制止にも関わらず、暴力的に上がり、「理大生以外のものがいるので中止せよ」と大声でどなり、四〇分にわたって破壊を策動したが、全ての学友に糾弾され、すごすごと退散した。

 大学の自治が、全国百万学友の団結したカで守られて来たことを否定する右翼的反共攻撃と、トロッキスト並みの暴力的破壊、更には「自治会をのっとろうとしている」というセクト的危機感を丸出しにし、末期症状的堕落を深めている。そして、全学友から見放され、良心的な民青同盟員からすら孤立している。民学同と自治会革新会議は、平和と民主主義への攻撃と、自治会の私物化に反対し「平和と民主主義よりよき学生生活のために″」のスローガンのもと、全ての学友が参加できる民主的、大衆的自治会の建設のため全学友と共に闘いつつある。

「全明大行動委」結成

【明治大支部発】
 我が明大支部は現在五文化人の「べトナム反戦六月行動」のアピールに呼応し、真にクラスに根付いた学園ぐるみの反戦平和の闘いを構築するために各クラス、サークル諸団体の代表者で構成される「ベトナム戦争終結のために全明大行動委員会」を結成し全面的に取り組んでいる。
 思想信条政治的立場は一切問わず、行動の統一をかち取るために各団体代表者よりなる協議会を設置し、各学部、各クラス、サークルの創意的な運動を保障し、各団体独自のビラ配布、講演会、反戦バッチ売り、などの多様な活動を展開していくつもりである。すでに運動開始直後であるにも関わらず、我々のアピールに呼応して立ち上がったクラス、サークルは20余団体に及び、今後次々に決起せんとしている。
 明大にあって空文句の四・二六全学ストを強行しようとし、不可能とみるや原則的な批判を行なった明大平和委員会の学友に暴力をふるい、ヘルメットと梶棒の「大衆的武装闘争」を叫ぶ社学同とその他トロッキストに対し明確にクラスに根づいた圧倒的な運動と自治会の大衆的民主的運営と統一機能の回復をこの六月行動の中で実践的に対置しなければならない。
 更に法学部を中心にして準備をすすめている「ベトナム戦犯明大法廷」は「一切のイデオロギー的相違は問わず、三つの『全学連』を踏絵としない」を結集の原則としてかかげ、他潮流の妨害活動にもかかわらず多くの学友ー特に新入生ーを結集させ、近く「明大法廷のための映画会」を圧倒的に成功させようとしている。
 このように明大支部にあっては「ベトナム戦争終結のための全明行動委員会」を中心とした真にクラスに根づいた大衆的な運動を構築し、ヘルメットと棍棒によるトロツキストの街頭極左主義を大衆的に封殺して六月の自治会選挙では圧倒的に勝利し、大衆的民主的自治会を建設して行くであろう。
 追伸この六月民学同明大支部結成二周年をむかえるにあたり、新たに川崎市生田地区(工・農学部)に支部を建設し民主的学友の共有財産として登場するための準備も既に完了した。

新たに闘い進む各支部

学食値上反対・学園民主化斗争
 –○○大学中間報告–i
 最も反動的といわれて、今までも様々な形で私達の学生生活が圧迫、制限されてきた私達の大学において、四月の新学期から学生側に何の通告もなく学生食堂の値上げが行なわれました。これに対して、私達は学内補導規則(学生課)によると、これは憲法に優先するものだそうである!)に集中的に表現される反動的な学園機構のなかで、まだ自治会とはなっていない同学会、クラスを中心として反対闘争を進めていき、五月九日には一五〇〇人という大学始って以来の学生を結集して抗議集会を行い、さらに五月十五日には八〇〇人の学友の参加のもとに学長代理事業課との団父を勝ちとることができました。また現在までに値上反対署名は四五〇〇名(全学五五〇〇人中)に達しています。このような全学的な運動の高揚のまえに、学校側は「保留」という名のもとに実質上の値上撤回をせざるを得なくなっています。私達は①事業課の経理公開②人件費の学園負担③同学会の機構改革の三つの要求をかかげてさらに反動的な学園側に対する闘いを進めており、この闘いは単なる値上げ反対闘争にとどまらず、今や学園民主化から自治会建設への闘いとして大きく盛りあがっています。これまでの闘争では民青(中央委員会多数派)のあらゆる要求貰徹主義が一貫してセクト主義に陥り、学園民主化自治会結成への朗確な運動の環が作れず、運動を自然発生的なものに終わらせてしまっていたが、この闘争においては我が同盟は同学会方針決定の指導的役割をなし民青はセクト主義を捨てざるを得ず、我々と共闘するという形で、値上げ反対、学園民主化の闘いがおこなわれています。この闘争の中で我が同盟の一層の発展、強化は約束されています。平和と民主主義よりよき学園生活のために共に闘い抜きましよう。

神奈川大学

一月以来の学園民主化闘争は、反動的な学内規程撤回、右翼自治会執行部を辞任においこむに至った。我々は、米田前学長の理事長退陣、民主的学内規定の設置、大学運営四者協の設置をスローガンに、学園民主化闘争の先頭に立っている。
 学園民主化の道か、それとも再び反動的学園=暗黒の中世か、第三の道はない」と学友に訴え、「今こそ学園民主化の真の第一歩をかちとるため起ちあがれ」のスローガンをかかげ、五月末の自治会選挙を闘いぬく決意である。
 また、もう一つの課題として、全国的ベトナム反戦闘争の一環岸根米軍野戦病院撒去の運動がある。岸根野戦病院は神奈川大学からわずか五百㍍の所にあり、二年ほど前からベトナム戦争の傷病兵が運びこまれるようになっている。社会党、共産党、各組合、市民団体等が野戦病院撤去のための統一した運動を起そうとしている。
 学園民主化と、岸根野戦病院撤去をかかげて、自治会選挙勝利をめさし、全力をあげて闘っている。

北里大学
 現在北里大学には学生目冶会がなく、学友会(学生及び教職員からなり、大学のヒモ付き的存在になり下っている)組織であり、学生の意見もはとんど反映されず、民主的要求もなかなか通らないような仕観みになっている。さらにこのことはサークル活動etcにも大きな障害をもたらしており、多くの学友から、大学の民主化ーとりわけ学友会の民主化を望む声がますます高まって来ている。
 この様な中で去る四月三十日学友会理事選挙が選管委員長の独善により規約に反しておこなわれた。現在これをきっかけとして多くの民主的学友は選挙規約を守り民主的再選挙を勝ち取るためにたちあがっている。
 我々民学同北里大支部は、かかる重大な局面の中で自らの正しさを実践によって示し、ますます多くの学友の信頼をかちとり、学生の要求(平和と民主主義、学生生活の擁護)に答えている。
 民青の無方針と混乱の中で、唯一同盟のみが学友会民主化の展望ー現在の最も重要な環は不正選挙の徹底的暴露と民主的選挙のやり直しである-を全学友の前に大胆に示すことによって、全ての民主的学友を巻き込む斗争を組織し、学生のにめの確固たる自治会をつ
くるべく闘っている。(S)

【書評】『マルクス主義と自由』-(増補版) 森 信成著 合同出版社 1,300円

戦後唯物論の貴重な成果   -思想闘争の巨大な武器に-
 唯物論にとっての戦後の有利な条件と思想闘争の重要性の一層の増大にもかかわらず、マルクス主義陣営内部に於ける思想的、理論的混乱は依然深刻であり、実践的にも多大の弊害を生んでいる。著者の指適する如く戦後唯物論の根本欠陥は「唯物論的」「反体制的」扮装をこらして登場した実証主義(プラグマティズム)やその世界観的背景をなす近代主義的自由主義(神なき実存主義)と自己を明確に区別しえず、それらと妥協し(「思想上の平和共存」)それらによって、マルクス主義を「補完し「基礎づけ」ようとした点にあった。-
 本書は一九五〇年以前から早くもかかる修正主義の諸形態を批判し、新たな思想的課題に唯物論の側から積極的に応えて行く上で指導的な役割を果して来た著者の貴重な理論的成果である。本書の中心問題はその名の示す如く「人間ないし自由の問題」-この概念をめぐって戦後唯物論の内部に幾多の混乱が生み出されて来たーである。本書は序編「民主主義と自由前編「人間と自由」後編「主体的唯物論批判」からなり、その他新たに「対立物の統一と闘争について」等最近の重要な論文数編が増補されている。
 本書の中核ば前編「人間と自由」である。そこにおいて著者は戦後における人間観の系譜を批判的に検討し、それらが自由「主体性」を問題にするや否や唯物論約科学的見地を貫き得ず非合理主義に転落している点を指適すると共に「フォイエルバッハに関するテーゼ」の明確な解釈、ヘーゲル及びフォイエルバッハ哲学の批判的継承を通じてマルクス主義人間観を積極的に展開している。特に自由と必然、党派性と科学性、階級性と人類性、理論と実践等の統一的把握の為の基準及び条件が明確に指適されており、その理解によって我々は科学的世界観確立の為の決定的な礎石を獲得するだろう。
 序編「民主主義と自由」は前編の基本思想を政治的権利としての自由(民主主義)組織問題に具体化したものである。第一章「組織と民主主義」では共産党第八回大会前後に現れた官僚主義と解党主義(サークル主義)を批判しつつ組織内民主主義の諸原則とその理論的基礎を明らかにしており、第二章、第三章と共に組織問題理解の為の必読の論文であろう。なお第三章「近代主義的自由主義と民主主義」は日教組宮崎大会において提出された組織内民主主義と反動思想の捉え方についての問題への具体的で平易な解答、指適であり、初めて本書を読まれる人はこれを最初に読めばよいと思う。
 後編「主体的唯物論批判」はトロツキズムの哲学的基礎である主体的椎物論の系統的批判である。専門用語が多い為解り難いように思われるが、体系約にかつ詳細に批判されている為かえって問題の核心を深く理解することができる。
 現在、思想的混乱は学生運動において極めて深刻に現われておりその克服が実践的にも急務こなっている。戦後日本の唯物論の貴重な成果である本書は、かかる思想的混乱を克服する為の原則的立脚点を明らかにしており、我々の思想闘争の為の巨大な武器であるといえよう。必読書としてお勧めする。
 なお著者には本書の他に『史的唯物論の根本問題』(青木書店)『毛沢東「矛盾論・実践論」批判』(刀江雷院)の著作がある。相互に連関しているので合わせて読まれるとよい。(T)

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