民学同文書 No.10 【主張】 学生運動の現状と再建・統一の基本方向

民学同文書 No.10

【主張】  学生運動の現状と再建・統一の基本方向
–層としての学生運動の大衆的、民主的再生のために–
「民主主義の旗」第50号 1968年5月25日

一、はじめに
二、今日の学生運動の特徴と当面する二つの任務
三、単一全学連再建の基本路線
四、各派学生運動論批判
(1)民青派  (2)トロッキー主義諸派  (3)共労党派
五、おわりに

学生運動の現状と再建・統一の基本方向
–層としての学生運動の大衆的、民主的再生のために–

一、はじめに
「平和と民主主義よりよき学園生活のために」のスローガンに集約され、全日本学生自治会練連合(全学連、一九四八年九月十八日結成)に代表される日本学生運動は、六〇年安保闘争以降今日までの八年間にわたる分裂の中にいまなお唯吟しつつ、伝統の再生をめ
ざして苦難に充ちた闘いを続けている。
日本学生運動の輝ける伝統–それは、「平和と民主主義よりよき学園生活のために」のスローガンで一致した全員加盟制自治会の運動(=層としての学生運動)の中に体現され、世界に比類なきその伝統は、戦後史の中に栄光の歴史として刻印されている。レッドパージ反対闘争・砂川紛争・警職法闘争・安保闘争・大管法闘争等に見られる日本学生運動の輝ける足跡は、「層としての学生運動」の展開によってはじめて可能となったのである。
一九六〇年にはじまる学生運動の分裂がかくも長期かつ深刻化している原因は、「層としての学生運動」の原則が、トロ系譜派、民青派によって破壊されたことに起因している。
分裂と混乱の中で、関西を中心として運動の統一を擁護してきたわれわれは、その闘いを前進させるにあたって、分裂を止場する過渡期の原則=「単位自治会の統一→全国的行動の統一」を断呼として擁護し、その実現に前進せねばならない。

二、今日の学生運動の特徴と当面する二つの任務
(1)今日の学生運動の特徴
学生運動の現段階の特徴は、①運動の大衆的昂揚の客観的基盤と諸条件は存在し成熟しつつあるにもかかわらず②その現実性への転化がいくつかの要因によって阻まれている所にある。
ベトナム戦争の激化と米帝の孤立の深化、佐藤内閣の侵略協力・加担の強化と故府・支配層の動揺の拡大、三派「全学連」の大学自治に対する内部からの破壊とそれを利用した権力の大学自治への攻撃、独占資本優先の収奪政策による国民生活の悪化-総じて内外の反動攻勢の激化の中で、戦後脈々と生き続けてきた学生の「平和と民主主義」の意識は、いま新たなるエネルギーとして噴出しようとしている。かかる学生の健全な意識と関心、運動への志向こそは、層としての学生運動再生の確実な保障である。
だが、このような客観的基盤の現実性への転化を阻む障害が存在している。それは、第一に民青「全学連」派、トロ系諸派のセクト的分裂主義であり、それに基く運動の党派別化である。意見の違う部分に「修正主義者」「分裂主義者」の恣意的レッテルを貼り統一
行動を拒否する民青派のボイコット分裂主義も、「反帝全学連」を自称するトロ系諸派の政治的野合も、学生運動の党派別の展開=単一全学連運動の否定を意味し、統一した運動の展開を因難にしている。第2に、三派「全学連」に典型化される極端な政治主義・現地
闘争主義・「先駆性理論」「導火線論」に基づく戦術の極左化は、学生運動に対する一般学生の不信感を増大させている。障害の第3は、数年間にわたって継続されている民青派の身のまわり主義、諸要求主義である。それは学生の積極性を身のまわりの諸要求の羅列
--卑俗な縫験主義に押し込め「平和と民主主義、よりよき学園生活」をめざす闘いへの確信の喪失を結果している。かかる諸条件によって、世界に比類なき全員加盟制自治会-単一全学連を軸とする日本学生運動は、その統一の基盤を風化されつつあり、西欧型学生運動(党派別学生運動)への危険を内包しつつ、苦難に充ちた歩みを続けているのである。

(2)当面する学生運動の二つの任務
以上に述べた民青派、トロ系諸派の誤謬は、「層としての学生運動」を彼らが理解しえないことの結果である。
「層としての学生運動」論は、現代の学生が「平和と民主主義、よりよき学園生活」の進歩的民主主義的な要求で統一される共通した基盤に立脚しており、全員加盟制自治会-単一全学連はそれを組織的に体現する、のであり、かかる意昧での学生の層としての同質性を前提としてはじめて成立すると主張する。
かかる意味での学生層の同質性は、①戦前の幹部候補生としての学生から、戦後学生層の広汎な拡がりによって、学生層全体が人民の側に立つ条件を与えられたこと(構成・規模の変化)②戦後の平和と民主主義勢力の前進とそれに規定された民主教育の定着(意識構造の変化)③国独資段階の基本対抗が独占対反独占として展開され、学生の立場の徹底は反独占の一翼に不可避的に組み込まれざるをえない(社会構造の変化)の三要因によって支えられている。
いまへ統一を阻む障害を打破し単一全学連再建に前進するにあたって、われわれの当面する任務は、この層としての学生運動の大衆的、民主的再生でなければならない。この点の重要性は、八年間にわたる分裂・混迷の中でなぜ関西学生運動のみが党派別運動化の危険を阻止し、ともかくも層としての学生運動の唯一の継承者たりえたかを考えれば朗らかである。(なお、この問題意識から出発した有益な論文として「現代の理論」68年・5月号小寺山論文はいくつかの問題点があるとはいえ必読に値する。)

層としての学生運動の再生は、現状では、第一に、単位自治会の大衆的、民主的再建と自治会の統一機能の回復強化、第二に、各地方・全国の自治会間の「課題の一致に基づく行動の統一」の実現の二つの方向で果されねばならない。
運動の党派別化は単位自治会の統一の基盤そのものをも風化しつつある。従って層としての学生運動の再生は、まず単位自治会の大衆的、民主的再建から始めなければならず、それは次の三つの原則に基づいてのみ可能である。
①自治会民主主義の再建とその徹底的擁護発展。意見の相違を民主的討論と相互批判以外の形態で解決することは、統一の初歩的原則の破壊であり、それは「行動の統一」の破壊にまで拡大されざるをえない②自治会活動をクラスを基礎にした多面的、包括的展開、自治会の統一の基礎は、自治会を政治闘争機関化する悪しき政治主義によって掘り崩されてきた。それへの機械的反発が民青派の諸要求主義(身のまわり主義)であるが、これらのいずれも学生運動の課題を包括的に把ええず、左右の動揺を結果するのみであった。この左石の偏向の克服は、自治会がクラス活動の創造的展開に支えられるときはじめて可能となる③全大学人の統一と民主勢力との連帯。大学自治への反動自治への反動的攻撃が激化しつつある今日、全大学人の統一した運動はとりわけ強調されねばならない。学生単独のの闘いは、それを闘う学生の孤立感、焦燥を深め、客観的に三派「全学連」の極左行動に結びつくのであり、統一戦線の一翼たることを自覚する学生運動は、全大学人の統一を通じてそれを果すことができる。かかる単位自治会の大衆的民主的再生を着実に果す中で、層としての学生運動は本格的には「全員加盟制自治会ー単一全学連」のスローガンとして表現されるが、単一全学連再建の過渡期である現段階では「全員加盟制自治会ー課題と一致に基づく行動の統一」こそが正しいスローガンであり、その意昧で「行動の統一」の実現は単一全学連への前提であり環である。自治会間の行動の統一は、課題別・戦線分野別(私学・教育系・医学連・寮等)のあらゆる可能な形態を駆使して追求されなければならない。

三、単一全学連再建の基本路線
学生運動八年間にわたる分裂は、日本学生戦線に消しがたい傷跡を遺している。従って、単一全学連再建の闘いは長期にわたる苦難に充ちた課題となるであろうが、その展望(現実性)は疑いもなく存在している。第一に、既に述べた如く学生運動統一の客観的基盤の厳然たる存在である。この学生の健全な意識と運動への志向を余すところなく汲みつくし、単位自治会、各地方での運動を昂揚させうるならば、闘いの前進は必ずや分裂の克服とをいかなるセクト的部分にも要求するであろう。ここにこそ第一の根拠が存在している大管法闘争(1962年)を想起しよう。当時「全学連」を私物化していたしていたマル学同は、関西を中心に爆発した闘いの前に、セクト的分裂主義を粉砕され、全国闘争に合流するか否かで中核派と革マル派に分解したのであった。大衆闘争の鉄の如き論理は、セクト的部分に対してもそれ自身を貫徹するのであり、全国的な闘争の昂揚はたとえ最初は分裂したまま開始されようとも、必らずや巨大なセクト集団、民青「全学連」をも突き動かし、セクト的部分と良心的部分との分岐を拡大するであろう。単一全学連再建をめざすわれわれの闘いは、以上の展望と確信に導かれつつ、第一に前章で述べた二つの任務の実現のために闘わねばならない。全国、全自治会の行動の統一は、あらかじめ、十指にみたぬ少数自治会で「全国自治会共闘」をデッチ上げること(共労党派)によって果しうるのではなく、各地方での運動の大衆的展開と各自治会内部での説得活動・全自治会への共同闘争の繰り返しの呼びかけという粘り強い闘いによってのみ可能となる。
第二に、その連動の昂揚と戦線の流動化の中で地方学連、拠点自治会の定期的協議と連携を強化し各地方学連の統一的再建強化をかちとらねばならない。①大阪府学連、兵庫県学連の統一の強化・京都に於る拠点自治会の建設と京都府学連の大衆的、民主的再建を通
じて関西学連を再建し、全国闘争の指導的拠点化する②首都学生運動の再生と拠点自治会建設を、通じて東京都学連を再建する③その他の地方での単位自治会の再建・地方学連再建、第三に、以上の勝利的遂行の上に、地方学連協議会の結成→全国・全自治会を包含する単一全学連再建の展望を切り開きうる。
重要なことは、各地方での地方学連の統一的再建のみが単一全学連再建の基本路線たりうることである。

四、各派学生運動論批判
(1)民青派
民青派学生運動論の特徴は、層としての学生通勤論を否定する点にある。「学生層全体が進歩的要求で一致し、統一した闘いを展開しうる」ことを否定することから、第一に学生の統一は「平和と民主主義」(政治課題)ではなしえないこととなり、従って諸要求でー
という瑣末身のまわり主義が発生し、第二に、意見の異なる部分とは共同行動をとらないというボイコット=分裂戦術が採用される。第二点は「分裂主義者、修正主義者との共闘ナンセンス、全学連に復帰せよ」の主張となる。だが、彼ら民青派の解き難い矛盾は、層としてのの学生運動を否定する立場の徹底が、日本学生運動の伝統たる全員加盟制自治会をも否定することにならざるをえない点である。再説は避けるが、学生層全体の利害の共通性こそが全員加盟制自治会の成立の根拠であり、これを否定することが全員加盟制自治会の否定に行きつくのは理の当然である。
「全学連復帰」のスローガンについて述べよう。このスローガンのセクト性は、それが「行動の統一」の否定の上に「踏み絵」として提出されている所にある。全学連の分裂は意見の異なる部分の暴力的排除と統一行動の否定によって開始され、深化してきた。学生
層内部の相違があるのは当然のことであり、その相違を前提した上で、課題の一致に基づいて行動の統一を行うことこそ運動の統一の前提である。トロッキー主義者が客観的には闘いの前進を妨害しているとしても、彼らが一定の学友の支持を背景として正式に自治
会を代表している限り共同行動をとるのは当然のことである。運動を分断し別個の闘いを対置するボイコット=分裂戦術によっては彼らを真に克服しえない。いまフランス労働者学生の闘いがわれわれの目前で実証している如く、闘いの中で発生してくる様々な偏向は統一した巨大な闘いの中でこそ克服されるのである。
艮青派の六年間にわたる「闘わざる右翼日和見主義」は、今後の情勢の中で必らずや学友の批判をうけ、内部矛盾を拡大し「行動の統一」に賛成する部分を生み出すであろう。われわれは、その分岐を拡大し悪しきセクト主義の粉砕に全力を傾注せねばならない。

(2)トロッキー主義諸派
十指を越える細分化を観けているトロ系諸派を詳説する余裕はないが、彼らに共通する立場は①「平和と民主主義」の闘いはもはやナンセンスであり、反帝学生運動でなければならない②学生運動を階級闘争激発の起爆剤と把える「先駆性理論」「導火線論」③それに
基づく現地闘争を軸とする一点突破全面展開戦術である。だが、周知の如くこの悪しき政治主義と赤色自治会主義こそは、全学連を破壊し、連動を分裂と混乱に陥入れた最大の原因であった。彼らがその路線を忠実に継承していることは、今年三月個人加盟の「大阪府
学連再建準備会」をデッチ上げたことでも明白であり、既に運動の妨害者に転化している彼らトロ系諸派は大衆闘争の中で徹底的に粉砕せねばならない。

(3)共労党派
共労党派の主張する「学生運動の左転換」諭(トロッキー主義への転換)については別の機会に詳細に批判したので、ここでは「七月全国自治会共闘結成」論について述べよう。彼らの主張が、運動の展開の実践的帰結ではなく「七〇年安保闘争を闘うための全国自治会共闘」であり、七〇年から逆算した組織論であることは、その現実的諸条件を検討すれば明らかである。
課題別・戦線分野別の共闘組織が一定の時点で日程にのぼりうるのは自明のことである。しかし、それは次の二つの条件によって支えられねばならない。第一は、運動の拡がりが地方学連、拠点自治会(構改派に限定されない)の連絡と共同闘争の呼びかけでは不十分なまでに昂場していることであり、第二は、それに規定されて戦線に流動化が生じ、セクト的部分も行動の統一を拒否できない状況を作りだすことである。
Ⅱ章で述べた描く、この条件は現在存在せず、それをいかに形成するかこそが当面の任務なのである。従って自治会共闘結成の前提条件が未形成の段階でそれを強行することは①分裂の組織的固定化=第四「全学連」への転落を意味し④民青「全学連」の「転換」と内部分岐の拡大を展望しうる、いまそれを徹底化させ、行動の統一を強制しうる有利な条件を不毛化し③実質上十指に充たぬ少数自治会による構改派組織となることによって分裂の促進と空中分解の末路を辿り、単一全学連再建を一層困難にするであろう。
共労党系学生の指導者白川真澄君は、63年8月、京都平民学連協(民青「全学連」の前身)議長として、日共京都府委員会の決定に屈して、ボイコット=分裂戦術の採用によって京都学生運動を分裂させた当の指導者であった。彼らはその後それを自己批判したはずだが、いま再びかつての誤謬を繰り返そうというのだろうか?

五、おわりに
単一全学連再建の闘いは、分裂と混乱の中で、日本学生運動の伝統の灯を絶えることなく継承してきたわれわれの双肩にかかっていることを自覚せねばならない。
いま全国の民主勢力は、ベトナム反戦勝利、佐藤内閣打倒にむけて戦列を速めつつある。この闘いに連帯し、関西自治代での強固な意志統一の上に、6・15全関西学生総決起六〇〇〇名集会を軸に、全国、全自治会の共同闘争に前進すること-かかる闘いの粘り強い
展開こそが単一全学連再建への展望をを切り開くのであろう。この長期的闘いに絶望することなく、たゆみなく前進するとき、日本学生運動の輝ける伝統は、言葉の真の意味で再生するであろう。

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