【コラム】ひとりごと—サブプライム問題が明らかにしたもの—-
○サブプライム問題に端を発した信用不安・住宅資産価格下落によりアメリカ住宅バブルが破綻し、2007年のアメリカ経済は、株式の大幅下落などにより大きな後退を余儀なくされた。投機資金は株式から逃避し、通貨においても円の買い戻しが進んだ。8月には、最大の下げ幅を記録したのをはじめ、円高・ドル安が、一層の原油高騰を呼び込むなど、2007年の世界経済は波乱の内に暮れようとしている。○日本においても、大幅な損失を補填するため、日本株を外国人投資家が売りに売り抜けたのである。○証券化されたサブプライム・ローン債権などを保有していた欧米の大手金融機関は、7-9月期決算で巨額の損失の計上を余儀なくされ、経営者が交代した銀行も続出した。○今後も、低利子期間が終わり、高利率が適用されるサブプライム案件・返済不能が続出する可能性が高いとも言われている。サブプライム金融危機は、まだ始まったばかり、との評価もある。(世界規模で最大44兆円の損失が発生するという予想もある)○欧米の金融機関が相次いで損失を織り込みんだこと、アブダビ投資庁が、資金をシティバンクの増資に投入するなど、金融機関の資金不足を手助けしたこと、アメリカ政府が今後発生するサブプライム関連の個人債務について、利子補填するなどの対策を講じると発表したことなどで、危機的状況については一旦落ち着きを見せているようにも見える。○しかしながら、本当の危機は、これから訪れるのではないか。サブプライム問題が引き金を引いたのは、ドル優位の現行国際通貨システムの幕ひきではないのか。○サブプライム問題によるアメリカ金融システムの不信、住宅バブルの崩壊、購買力低下による個人消費の冷え込み、経済の低成長化により、意識的なドル高政策は不可能となった。サブプライム危機の回避のためのFRBによる政策金利・公定歩合の引き下げは、一層のドル安要因となる。今後一定期間、ドル安基調が続くことは必至であろう。○NHKの報道によると、先日開催されたOPEC総会の秘密会議では、ドルに対して固定相場制を採用している産油国から相次いで、「新しい通貨システム」検討の発言があったという。ドル安によって、今後自国通貨も価値が下がる。膨大なオイルマネーは、ドル保有として蓄積されている産油国にとって、外貨準備をドルのみに頼ることはリスクが多きすぎる。ただ、急激な通貨政策の変更は、ドルの暴落を招きかねないとの危惧から、慎重な姿勢であるとの事だが、ドル離れの基調は進行するだろう。○ドル安によってアメリカの輸出が増えるのだから、アメリカ経済はまた復活するのではないか、との議論もある。しかし、アメリカに競争力のある輸出品はあるのか。自動車は環境対策の遅れから、トヨタをはじめとした日本車や欧州車に水を明けられている。80・90年代にアメリカから主要な製造業は姿を消した。IT分野と金融・投資手法が最後に残ったアメリカの売りだったはずである。アメリカが生み出したローン・不動産の証券化手法そのものが、サブプライム問題で破産に追い込まれているのである。唯一残るのは軍事産業だけではないのか。○サブプライム債権は、様々な金融商品に「分散」して組み込まれ、AA格付けであった金融商品まで5割以上の下落したと言われている。破壊的リスクがほとんどの金融商品に際限なく影響を与えてしまったのである。○本紙9月号(NO.358)で杉本氏も述べているように、基軸通貨としてのドルの地位の一層の低下を、サブプライム問題は促進していると言えるのである。○2007年はアメリカ発の金融不安が世界を駆巡った1年であった。2007年は、イラク戦争の誤りが国際社会において明らかになった事、そしてサブプライム問題でアメリカ発の金融不安が爆発した事、この二つによって、アメリカの凋落が誰の目にも明らかになった年として記憶されるだろう。○明らかに支払い能力のない人にサブプライム・ローンを組ませ、そのローンをすぐさま証券化して売ってしまった「住宅販売会社」に負債が発生しない、などという仕組みは、1980年代バブルを経験した日本もない事だったろう。まさにバブルは弾けるべくしてして弾けたのである。○ドルの地位低下、原油など資源・商品の価格高騰、経済の停滞、2008年もこの基調は続くと思われる。(佐野秀夫)
【出典】 アサート No.361 2007年12月15日