【投稿】迷走する日朝関係
「歴史的」と称される9月17日の日朝首脳会談は、小泉首相にとって満足のいくものであっただろう。 それは、「平壌宣言」としてまとめられた会談の成果という問題においてではなく、会談自体がもたらした、内閣支持率の回復という結果においてである。
古今東西、内政に行き詰まった政治家(政権)は、戦争を含む外交によって失地回復をめざすものと相場が決まっている。
今回の訪朝もそうした例に洩れず、構造改革と景気回復が、いっこうに進まない中で、起死回生をねらった「ウルトラD」だったことは疑うべくもない。
一方の金正日総書記にしても、破綻した経済と、続発する亡命事件から垣間見える支配体制の綻び、さらにはアメリカ・ブッシュ政権による圧力という、国内外の危機的状況を回避していくために是非とも必要だったのが、今回の会談である。
このように、今回の首脳会談は小泉、金両政権の延命策として設定されたものであるがそれをより活用しているのは、小泉首相のほうである。想像以上の悲劇的な結果が判明した拉致事件にしても、小泉政権は北朝鮮カードとしてあからさまに政治利用をしてはばからない。
小泉首相は10月14日、山形県鶴岡市での衆院補選の応援演説で「北朝鮮は拉致して殺す」などと発言、有権者の反北朝鮮感情を煽り、自民党への投票へ誘導しようとした。
これにはあまりに露骨であると、批判が集中したため、小泉首相は「そういうことを言う人がいる」と取り繕ってはいたが、翌日は拉致被害者5名の帰国予定日であった。本当に国交正常化をすると決断し、また拉致被害者や家族の心情を考慮していたなら、微妙な時期にそうした発言は出なかったはずである。
補欠選挙の結果如何では、現在開会中の臨時国会で、経済政策など難題を抱える連立政権は窮地に追い込まれる可能性がある。その場合小泉首相は、さらに徹底して北朝鮮カードを利用するだろう。小泉首相にとっては、首脳会談の探究の目的であったはずの日朝国交回復もカードの一つにすぎない。
国交回復に固執することが批判を招き、自らに不利と判断すれば、正常化交渉の中断と言う形で、いとも簡単に切ってしまうだろう。
事実「平壌宣言」では、国交正常化の早期実現に、拉致問題に関する前提条件は付けられていなかったのが、再び拉致問題の解決なくして国交正常化はあり得ない、というトーンに変化してきている。
なにをもって拉致問題の解決とするのかを示さないで、それを条件にするのでは国交正常化は不可能、と言うことである。
ここに来て、国交正常化を至上命題とし、被害者の安否確認と「平壌宣言」第3項目の確認=「日本人の生命と安全にかかわる懸案問題」で、拉致問題の収束を目論んだ外務省の目論みもはずれた。その意味で外務省も会談のお膳立てに使われただけだったと言えるかもしれない。
こうした中10月3日、北朝鮮は訪朝したアメリカのケリー国務次官補に対して、核兵器用高濃度濃縮ウラン開発を継続していたことを明らかにした。この事実は「平壌宣言」第4項目の核、ミサイル開発についての確認に相反するものであり、日朝双方の背信行為によって「平壌宣言」は、発表後一月あまりで効力を失ってしまったと言っても過言ではない。
10月29日にはマレーシアで国交正常化交渉が再開されるが、すでに日本政府は核問題を巡り、北朝鮮が開発中止と、国際機関(IAEA)の査察を認めなければ、交渉中断もあり得ることをほのめかしている。
こうしたことから、日朝交渉は振り出しに戻る可能性が高くなっている。そもそも首脳会談自体が両政権の利害を最優先するものであった以上、利用しつくして終わるのは当然の結末ではある。
ただ、現時点での中断は経済支援を求める金正日政権には、ほとんどメリットがないまま、と言う状態であり、さらなる対日不信の拡大と、北東アジアの緊張激化=「不審船」活動の再開、「テポドン」の再発射などを招く結果となろう。
しかし、そうした事態さえも小泉首相は巧みに、有事関連法案の成立など政権運営に利用していくのであろう。
狐と狸の化かし合いでは、いまのところ狐が一枚上手と言うところだろうか。
(付言)拉致事件が明らかになって以降、各政党が見解を明らかにする中、社民党は右往左往したあげく、朝鮮労働党に抗議するという醜態を見せた。
しかし社民党の問題点は拉致問題だけではない。社民党は社会党時代から最近まで積極的に北朝鮮、朝鮮総連の意を受け、時として外国人登録法改正ー指紋押捺廃止や地方参政権確立など、民主主義・人権運動に混乱を持ち込んできた事についても、この際自己批判すべきではないか。(大阪O)
【出典】 アサート No.229 2002年10月26日