<<「チリを新自由主義の墓場に」>>
12/19、南米チリの大統領選で、共産党など左派政党連合の「尊厳承認」(Apruebo Dignidad)連合の候補者ガブリエル・ポリッチ(Gabriel Boric)氏が、極右のキリスト教社会戦線の保守派ホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)氏を11.5%、100万票以上の票差で破り、勝利した。教育改革を要求する元学生運動の指導者であるガブリエル・ボリック氏が大差で勝利し、35歳、世界で最も若い大統領の一人として、来年3月に就任することとなった。
敗北したカスト氏は、市場原理主義・新自由主義的な経済秩序の維持を公約し、1980年の軍事独裁政権・ピノチェト時代の憲法を賞賛し、ブラジルの極右大統領ジャイル・ボルソナロを敬愛することを公言し、選挙最終盤、ボリッチ氏を「共産主義者、全体主義者」と反共攻撃に徹するする作戦を強めたが、票差を一層広げることとなったのである。
対して、ボリッチ氏は選挙公約で、格差拡大の自由競争原理主義・新自由主義からの転換を掲げ、グリーン投資を強化することで気候変動と戦い、社会サービスへの国家支出の増加させ、企業や富裕層への累進課税、不十分な民間運営の年金制度を公的な代替制度に置き換える、社会的抗議活動への弾圧において重大な人権侵害を行った悪名高いカラビネロ警察の改革、チリにおける地方分権と福祉国家の実現、学生ローンの廃止、女性や先住民族、少数民族の地位向上を目的としたその他の改革を実施することを公約。「チリが新自由主義の発祥地であるならば、その墓場にもなるだろう」と訴えての勝利であった。
選挙結果発表後、数十万人のチリ人が首都サンティアゴの街頭に繰り出し、ボリッチ氏の勝利を祝うとともに、「新自由主義を葬ろう!」との声が繰り返し唱和された。群衆の歓呼の声に応えて、ボリッチ氏は、市民の圧倒的な支持と大勝利に感謝し、投票妨害のために公共交通機関が当日半減させられた事態に言及、「投票しようとしたのに、公共交通機関がないために投票できなかった人たちにも感謝する」と述べ、「こんなことは二度と起こさせない 」と強調。「私たちは、富裕層のための正義と貧困層のための正義が存在し続けることを知っており、貧困層がチリの不平等の代償を払い続けることをもはや許さない」と述べ、「民主主義に心を砕き、人々が必要とするものに日々対応する大統領になる」と決意を表明。
<<「ついにチリからピノチェトの亡霊が消えた」>>
12/20、プログレッシブ・インターナショナルはチリの歴史的な選挙に関する声明「新自由主義を葬り去り、世界を再構築する」を発表し、「ついに、チリからピノチェトの亡霊が消えた」と宣言した。
ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相を共同設立者とするこの組織・プログレは、チリの選挙を監視し、公正さを確保するために選挙監視団のメンバーを送り込み、代表団は首都サンティアゴで、労働者、活動家、憲法制定会議のメンバーと会談し、公正な選挙を守るために協力。選挙当日、サンティアゴと全国のバスが突然停電したため、有権者は自由で公正な投票という基本的権利を妨害する動きに対して、チリの人々が車やバン、オートバイを提供し、隣人が投票に行くのを支援。プログレッシブ・インターナショナル・キャビネットのメンバーであるレナータ・アビラ氏は、「チリの人々は、かつてないほどの投票を行った。彼らは憎しみを打ち負かすためだけでなく、ガブリエル・ボリッチと彼の背後にある多様な連合が導く新しい進歩的なビジ
ョンを支持するために動員されたのです。私たちは、民衆によって今書かれた未来を祝福します。私たちは、世界のすべての進歩的勢力に希望と可能性のメッセージをもたらす、新政府を支持します。」と語っている。
1973年9月11日の午前9時10分、チリで民主的に選出されたサルバドール・アジェンデ大統領に対して、アメリカがサポートし背後から操ったクーデーターでピノチェトが政権を強奪し、軍の攻撃で殺害される数時間前、アジェンデ大統領が語った最後の言葉、
「歴史的な転換期に立たされた私は、人民への忠誠を命に代えて償うつもりです。 そして、何千何万というチリ人の良心に植え付けた種は、永遠にしぼむことはないと確信していることを、私は人々に告げます。社会的プロセスは、犯罪によっても力によっても阻止することができない。 歴史は我々のものであり、人民が歴史を作るのです。」「私は、若者たちに、歌い、私たちに喜びと闘争心を与えてくれた人々に語りかけます。 私は、チリ人、労働者、農民、知識人、迫害されるであろう人々に語りかける。なぜなら、我々の国では、テロ攻撃、橋の爆破、鉄道線の切断、石油とガスのパイプラインの破壊など、行動する義務のあった人々の沈黙に直面して、ファシズムがすでに何時間も存在していたからである。歴史が彼らを裁くだろう。」
この言葉が今よみがえったのだと言えよう。
しかし、アメリカを中心とする大手金融資本や大独占企業は、当然のごとくチリ経済に対する攻撃に乗り出している。これに呼応して、チリの大手企業や富裕層は歴史的なペースで資金を海外に移しており、通貨に重圧を与えている。サンチアゴの金融資本・クレディコープ・キャピタルは、「これは市場が想定していた最悪のシナリオだ」と述べており、12/20、株式市場は10%下落し、チリ・ペソはオープン時に3%以上暴落した後、1.9%の下落、終値では、対ドルで過去最安値に急落している。
本当に「ついにチリからピノチェトの亡霊が消えた」と断言できるまでには、まだまだ多くの障壁が立ちふさがる可能性は否定できない。しかし、市場原理主義・新自由主義に対する、このチリの歴史的勝利は、厳然たるものであり、資本主義経済の政治的経済的危機を乗り越える可能性と展望を明確に示したものだと言えよう。
(生駒 敬)