【投稿】「北京五輪外交ボイコット」を煽り歴史修正主義に転落した日本共産党
福井 杉本達也
1 自民党保守派も顔負けの日本共産党の反中国プロパガンダ
毎日新聞によると、「共産党の志位和夫委員長は13日、来年の北京冬季五輪・パラリンピックに政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」を日本政府に求める声明を発表した。中国による香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害も厳しく批判し、自民党保守派も顔負けの強硬姿勢を見せた。」とし、「五輪開会式や閉会式に政府代表を派遣した場合、『人権抑圧の黙認となりかねない』と指摘。『日本政府は中国政府に対し、従来の及び腰の態度をあらため、人権侵害の是正と(人間の尊厳の保持などをうたった)五輪憲章の順守を正面から求めるべきだ』とも求めた。」と報道している(毎日:2021.12.14)。
一方、12月17日の参議院予算委員会では、維新の鈴木宗男氏が「黒人差別をしている米国が、人権を声高に言って良いのか。それぞれの国の歴史や文化、様々な積み重ねを踏まえ人権問題は議論すべき。北京五輪の外交ボイコットを言う人もいるが、日本は【大人の対応】をすべき。平和を目指す祭典に、日本は協力すべきである」と岸田首相に迫った。どちらがまともであるかは論を待たない。
2 南京大虐殺を否定した日本共産党
12月13日は1937年に日本軍が大量虐殺を行った南京大虐殺から84年目にあたる。南京市の大虐殺記念館では追悼式典が行われ、「演説した孫春蘭副首相は『日本の侵略戦争は中国人民に前代未聞の災難をもたらし、南京では30万の同胞が無残に殺りくされた』などと非難。日本が『正しい歴史認識』を持つことを前提に『新時代の要求に合った中日関係の構築に取り組んでいく』方針を示した」(時事:2021.12.14)。ところが、日本共産党は、わざわざこの日に合わせ、「五輪外交ボイコット」を打ち出したが、それは単に米の対中封じ込め政策に同調したというものではない。志位氏がこれまで何十年も赤旗など機関紙等で広報してきた12月13日という日を知らないはずはない。香港やウイグル問題をあえて持ち出すことによって、南京大虐殺の相対化=否定を狙ったものである。安倍晋三・高市早苗や日本会議同様の「南京大虐殺はなかった」、「南京大虐殺」というのは中国のプロパガンダであるという歴史修正主義の立場に明確に立ったということである。つまり、日本が侵略戦争を行ったという事実を否定するものである。
3 ウイグル問題とは何か
トランプ政権末期:米大統領選で勝利者が“確定”する前後の2020年11月7日、AFPは「金曜日、イスラム教徒が大多数の新彊地域で厳しい取り締まりを正当化するため常に中国に非難される正体不明の党派をテロ集団リストから削除したとアメリカは述べた。新しいアメリカ法律や告示を掲載する『連邦公報』で、マイク・ポンペオ国務長官は東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の『テロ組織』指定を無効にしたと述べた。『10年以上、ETIMが存在し続けているという信頼できる証拠がないので、ETIMは、リストから削除された』と国務省報道官が述べた。」と報道した。しかし、これは全くのでたらめである。ETIMは、バス爆破、銃撃、自爆攻撃、ナイフ攻撃や他の形のテロを、20年以上にわたって実行している。2009年には、ETIMの主導で、ウイグル族と漢民族の間の緊張を高め、新疆ウイグル自治区の首都ウルムチで暴動が発生し、200人近くの人々(主に漢民族)が殺害された。2002年に国連によってテロ組織にリストされ、今日に至るまで、指名されたままである。 Wikipediaによれば、「東トルキスタン・イスラム運動(Eastern TurkistanIslamic Movement、略称ETIM)は、政党「トルキスタン・イスラム党(TIP)」を母体とする中華人民共和国からの東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)の分離独立を主張するイスラーム過激派組織である。」と書いている。米国は、対中国攻撃のために、依然活動中のテロ組織をリストから削除しただけである。むろん、ETIMを対中攻撃のために活用するということでもある。
自民党の佐藤正久外交部会長と国民民主党の玉木雄一郎代表は12月19日のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」(日曜午前7時30分)に出演し、政府が2022年2月の北京五輪・パラリンピックに政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を表明するよう主張した。また、玉木氏は「今の中国の人権状況に対して、政府、国会が明確なメッセージを出していないことは問題」と指摘した。「人権」を旗印にしているが、二重基準の全くの米国追随である。20年も戦争し、銃弾や無人機で無垢のアフガン人民を大量虐殺し、惨めな撤退をした米国・NATO諸国の侵略行為こそ人権で批判してしかるべきである。
4 米欧軍産複合体の軍門に下った日本共産党
2019年11月、日本共産党は綱領を改定したが、『しんぶん赤旗』は「中国の国際政治における問題点を事実と道理にそくして踏み込んで明らかにしたうえで、『社会主義をめざす真剣な探究が開始』された国と判断する根拠がもはやなくなったとの改定の意義です。中国の大国主義・覇権主義的行動から生まれる社会主義のマイナスイメージで日本共産党前進の障害になっている事実に対し、一部改定案がこれらの誤解・偏見を解きほぐし、日本共産党の魅力を広げていくうえで大きな力を発揮することは間違いないと指摘。」したと解説した(2019.11.6)。
浅井基文氏は日本共産党の綱領改定・特に中国に関する部分において、「21世紀における日中関係の今後のあり方如何は国際関係全体を左右する重要な要素で あることを強調しておきます。その重要性を踏まえる者であるならば、今日の日中関係の現実が主に日本側(政府及び国民全体)の偏見に満ちた対中認識によって本来あるべき姿からかけ離れた状態にあることに深刻な問題意識を持つべきです。日本における対中認識を正すべく努力することは責任ある政党の最重要課題の一つであるべきです。…広範な連合政府樹立を唱道する日本共産党が中国に対する「むき出しの敵意」(としか私には受け止めら れない)をあらわにし、あまつさえ綱領改定の柱とすることには重大な問題があります。」(2019.11.10)と批判した。ウイグル問題・香港問題・チベット問題にしても、また台湾問題にしても中国の内政問題である。他国が「人権」を旗印にして強引に介入してはならない。
孫崎享氏も指摘するように、国連憲章第2条は「この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている」としている。1972年の日中共同声明では「 六 日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する」としている。12月18、19 日に実施した朝日新聞社の全国世論調査(電話)で、来年2 月の北京冬季五輪に、政府当局者を派遣しない「外交ボイコット」について、日本の対応を聞いたところ、外交ボイコットを「するべきだ」は35%で、「するべきではない」の43%が上回っている(2021.12.22)。「人権」を前面に出すことは、アフガンやイラク・シリアそしてリビア、さらには旧ユーゴスラビアへ介入し、爆弾を雨あられと降り注いだ米・NATOの大虐殺行為を正当化しようとする米欧軍産複合体のプロパガンダの一環である。