【投稿】インフレ高進とバイデン政権--経済危機論(85)

<<「プーチンのインフレ」>>
6/10に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)の伸び率は、大方の予想に反して幅広い項目で上昇がさらに加速し、前年同月比の伸び率が40年ぶりの大きさを更新。総合CPIは前年同月比8.6%上昇(前月は8.3%上昇)、インフレがピークに達して落ち着き始めているとの希望的観測を打ち砕くものであった。
生活必需品が引き続き2桁の上昇を記録、エネルギー価格は前年比34.6%もの上昇、食品は前年比11.9%上昇、電気代は12%上昇。サービス分野で最大の構成要素でCPI全体の約3分の1を占める住居費でも、前年比5.5%上昇し、1991年以来の上昇である。
逆に、インフレ調整後の実質平均時給は前年同月比3%減と、昨年4月以来の大きな落ち込みを記録、実質賃金はこれで14カ月連続のマイナスである。
実際の消費者の実感は、より厳しいものである。そのことを裏付けるのが、インフレ率を意図的に低下させている、1990年代に改訂された現在のCPIの計算方法である。1980年代と同じ計算方法を用いているShadowstatsの数字による

CPIは実際には実に17%に近い

と、CPIは実際には実に17%に近いことがわかる。1970年代のインフレ危機は14.5%程度がピークであったことからすれば、危機的な状況と言えよう。

「プーチンの値上げがアメリカに大きな打撃を与えている」

バイデン大統領は、この事態を受けた声明の中で、「プーチンの値上げがアメリカに大きな打撃を与えている」と述べ、「プーチンの値上げ」(Putin’s price hike)という言葉が繰り返され、物価上昇はすべてロシアのせいだと責任転嫁をしている。もちろんそれだけではまずいと考えたのであろう、エクソンモービルなど石油会社がガソリン価格の高騰につけ込んでいると批判し、「われわれはエクソンの利益を周知させるつもりだ。エクソンは昨年、神より多く稼いだ」とも発言している。
しかし、そもそもインフレの高進はロシアのウクライナ侵攻以前、バイデン政権の対ロシア・対中国緊張激化路線と随伴してきた、昨秋以来の事態である。さらにそれを高進させたのがロシアをウクライナ侵攻に引きずり込み、外交交渉で解決できていたはずのものを、逆に対立を激化・拡大させ、全面的な経済制裁・経済戦争にまで推し進めたバイデン政権が直接招き入れたものである。このいわば仕組まれた制裁で、大手金融独占資本とエネルギー資本、軍産複合体は莫大な利益を手に入れ、その見返りとして、ブーメランに襲われ、さらなるインフレの高進をもたらしたのである。バイデン氏は、「価格高騰に付け込んでいる」と表面上エネルギー資本を批判しているが、とんでもない。裏で手を組んで、EU諸国のエネルギー市場をロシアからもぎ取り、EUを屈服させ、実は二人三脚でインフレ高進を推し進めてきたのである。

<<バイデン再選、民主党に「ノー」の声>>
Data for Progressが5月に実施した世論調査では、米国の全有権者の71%が、企業の利益追求がインフレ上昇の原因であると指摘している。ところが、バイデン政権のイエレン財務長官は、以前のインフレは「一過性」に過ぎないとの発言が間違っていたことは認めたものの、企業の貪欲がインフレのせいであるという考えを完全に拒否し、言うに事欠き、「需要と供給が主にインフレを促進している」と開き直っている。さらに、米中央銀行・連邦準備理事会のパウエル議長に至っては、「賃金の引き上げが問題の一部である」と公然と示唆し、記者会見で、インフレに取り組むために国は「賃金を下げる」必

バイデン支持率:黒線=支持、赤線=不支持

要があると語る始末である。
6/11、サマーズ元米財務長官はブルームバーグテレビで、「3月時点の予想で金融当局は年末までにインフレ率が2%台に下がるだろうとしていたが、率直に言って、その時点で妄想だったし、今となってはさらにばかげたものにさえ見える」と語り、さらに「金融当局はうまい言葉を並べている」ものの、昨年から今年初めにかけて犯した過ちのダメージが「どれほどかを理解していないのではないか」と発言。「それらのミスは、当局が根本的に信頼を得ていないことを意味する」、当局者の予測がなぜ「こうも劇的に」かつ何度も間違っていたのか調査するよう金融当局に促している。

当然、バイデン政権の支持率は低下する一方である。
6/8、クイニピアック大学(Quinnipiac University)による世論調査によると、回答者の64%がバイデン氏の経済への対応を不支持とし、34%がインフレが最も緊急な国家的課題であると回答している。バイデン政権全体の支持率はわずか33%にまで低下し、18〜34歳の人々の間では22%という事態である。(大統領就任の同時点での支持率はトランプ氏は42.2%、オバマ氏は48%であった。) バイデン政権の対ロシア制裁政策に対しては、42%が支持、50%が不支持と逆転している。

パブリックシチズン調査「アメリカ人の63%がペンタゴン予算増額に反対、だが、議会はすでに数十億ドル以上の予算を要求している。」

6/11のニューヨークタイムズ紙は「2024年、バイデンは出馬すべきか? 民主党の「ノー」のささやき声が上がり始める」(Should Biden Run in 2024? Democratic Whispers of ‘No’ Start to Rise.)と題して、50人の民主党幹部や、2020年にバイデン氏を支持し失望した有権者へのインタビュー記事を掲載。その中で、マイアミの民主党全国委員会のメンバーであるスティーブ・シメオニディス氏は、バイデン氏は「再選を求めないという意思を表明すべきだ」と述べている。

バイデン氏は明らかに追い込まれていると言えよう。危機打開策としてさらなる対ロシア・対中国緊張激化政策、より一層の軍事費拡大・軍拡経済、核戦争をまで想定した軍事的冒険主義が台頭しかねない事態である。暴発させない包囲網が要請されている。
(生駒 敬)

 

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