【投稿】NATOの「自分探しの旅」の終わり

【投稿】NATOの「自分探しの旅」の終わり

                            福井 杉本達也

1 NATOの「敵国」探しの旅とウクライナ

ベオグラード在住の詩人・山崎佳代子は9年ぶりに出会ったセルビアの詩人が語った「かつては五万人、九九年のNATOの空爆前のブリシュティナ市に五千人は居たはずのセルビア人は、その後どんどん減って、最後の共同体となった正教会の記録では百四五人になっていた。人口二十万人の都市は、アルバニア人の町になっていた。三月十七日の悲劇の後、司祭も教会を追われた。…空爆の後、集合住宅から強制退去、セルビア人のゲットーとなった大学教員宿舎に住んだ。アウシュビッツみたいですって。違う。強制収容所には、スープがある。ここに、それはない。外に出たら命の保障はない。…」(山崎佳代子:『ベオグラード日誌』)というコソボ紛争のことを日記に書きこんだ。西側は、旧ユーゴスラビアがコソボ自治区で民族浄化を実施し、人道危機を起こしていると主張し、1999年の3月24日~6月10日にかけてNATOはユーゴを一方的に空爆、2,500人以上の民間人が殺された。当時、米上院議員だったバイデン氏は「ベオグラードを空爆すべき。米軍のパイロットを送り、すべての橋を爆破するのだ。そして石油を盗む」と主張した。「NATOは、もともと東西冷戦の自衛組織だ。だから1991年に敵国のソ連が崩壊してから、アイデンティティー・クライシス(自己喪失)が始まる。その存在意義を自問する 自分探しの旅だ。」(伊勢崎賢治:『長州新聞』2022.3.17)。存在意義とは新たな「敵国」を探し出すことにある。その後、NATOはリビアにも介入し、カダフィ政権を崩壊させた。しかし、絶対勝てると踏んで派兵したアフガニスタンでは、20年に及ぶ戦争の末、2021年8月には米軍と共に惨めに敗退した。その“起死回生”・第二の「渡りに船」がウクライナであった。

 

2 惨めな嘘も続けられなくなったマスコミの「大本営発表」

6月7日付けの日経新聞始め各紙は「ウクライナ軍は東部の要衝セベロドネック市で反撃 に出ている。東部ルガン スク州知事は5日「ウクライナ軍は市の半分を支配下に置いた」とSNS (交流サイト)に投稿し た。同市はロシア軍が一時は 7割を支配していたが、反撃により5割に押し戻したという。」と「大本営発表」したが、その舌の根も乾かない6月9日には「ロシア軍とウクライナ軍の激しい攻防が繰り広げられているウクライナ東部ルハンシク州について、州知事は「最後の拠点」とされるセベロドネツクの主要部からウクライナ軍が撤退したと明らかにしました。ウクライナ東部ルハンシク州のガイダイ州知事は8日、ルハンシク州について、98%以上がロシア軍の支配下にあると明らかにしました。」(TBS:2022.6.9)と報道せざるを得なくなった。何が「5割に押し戻した」だ。たったの2日間で戦況が大きく変化することなどない。嘘八百のたれ流しである。これが日本のマスコミの恥ずかしい現況である。

6月12日の『ビジネス知識源』は「米国左派の代表とも言えるNYタイムズ紙が、ウクライナ戦争でのロシアの勝利を認め、停戦と和平を薦める転向社説を書いています…開戦から100日間、ゼレンスキーを英雄にしてウクライナ軍の健闘を称え、武器支援の効果からロシア軍は退却しているという英米メディアの報道とオピニオンは、一体、何だったのか。…日本のメディアは、ウクライナ戦争に関しては英国と米国の主流メディアの翻訳でしかない…今日も、ウクライナ政府の発表、英国と米国の軍事プロバガンダを流すだけのものです。…1945.8.15まで大本営情報を流し続けていた…今回は「米英の情報が正しい」という前提です。80年前と共通しています。」と書いている。

 

3 キッシンジャーがダボス会議でウクライナの降伏について語る

5月23日、「キッシンジャーがスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの出席者たちに対して語ったのは、ウクライナ政権とロシア政権間の和平協定の合意が数ヶ月のうちになされ、ウクライナでの紛争がNATOとロシア間の世界規模の戦闘に拡大しないようにしなければならないということだった。キッシンジャーが語ったところによると、そのためにはウクライナは少なくとも『紛争前の状態』に戻すことを受け入れるか、 クリミアは自国領であるという主張を取り下げるか、ドネツクとルガンスク両人民共和国の自治を承認しなければならないとのことだった」。「キッシンジャーは8年前のことについて触れ、ウクライナ危機の端緒はキエフでの軍事クーデターにあったとし、さらにキッシンジャーがウクライナに呼びかけたのは、中立国になり、『ロシアと欧州の架け橋になるべきです。欧州内の同盟に加盟するのではなく、です』と語った」。これに対し、ウクライナはキッシンジャーを「ロシアの『共犯者』だと宣告」した(記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ:2022.6.7)。

同氏の発言より先、「米紙ニューヨーク・タイムズも5月19日の社説で、14年以降にロシアの得たウクライナ領土を全て回復するのは『現実的な目標ではない』と強調。現実離れした戦果を期待していては、米欧が『出費がかさむ長期戦に引きずり込まれる』と戒め、ウクライナ指導層は『領土に関して苦痛を伴う決断を下さ』なければならない」と論障を張った」(福井:2022.6.2)。

また、クリストファー・S・チブヴィス(カーネギー基金のアメリカ国工作プログラムのディレクター・元アメリカ国家情報将校)は「ウクライナに対する欧米の支援は、これまでのところ並外れたもので、戦争が始まる数日前には、ほとんど誰も予想できなかったレベルに達している。しかし、今日の高いレベルのサポートは永遠に続くものではありません。世界中の食料と燃料費は急騰しています。NATOは戦争の最初の100日間で統一されたが、時間が経つにつれて分裂が現れるだろう。ウクライナの大義は、今日だけのものとして広く見なされているが、戦争が長引けば長引くほど、道徳的明快さが薄れるリスクが高まる」。「ウクライナは、より多くの武器ではなく、経済、インフラ、民主主義の再建に、現在享受している善意を費やすことを好むべきだ」。「分裂したウクライナを事実上受け入れること」、「復興への移行は、ウクライナのより多くの都市が平坦化し、何百万人もの市民が海外で難民として生活している終わりのない戦争よりも、今や課題が少ない」。「戦争は他の手段による政策の継続であるべきだということです。欧米指導者達は、ウクライナは、軍事戦場で、この戦争に勝てないのだ」(『ガーディアン』:2022.6.9)と主張している。

極めつけは「『プーチン(露大統領)のせいで物価が上がり、米国は打撃を受けている』。バイデン大統領は10日の演説で、ロシアのウクライナ侵攻でエネ ルギーと食料価格が高騰し、インフレの再加速を招いていると訴えた」(読売:2022.6.12)ことである。このまま戦争が長引き、物価が高騰すれば中間選挙は戦えない。事実上のバイデン氏の敗北宣言である。明らかに潮目は変わった。それを正しく“報道”するかどうかだけが問われている。ネオコンはウクライナのアゾフ大隊らのネオナチと共に切り捨てられようとしている。

「ウクライナでの戦争は世界貿易の衝撃的な崩壊、重要な供給ラインの大きな崩壊、前例のない食糧とエネルギーの不足、そしてソビエト連邦の崩壊以来最大の世界の再分割を引き起こしたのだ。米国は米国史上最大の戦略的大惨事となりかねない無意味な地政学的策略に自国と米国民の将来を賭けることを決定」してしまった。「ロシアの膨大なエネルギー資源、鉱物資源、農産物は、より友好的な国へと永遠に東に向かうことになる」。そして、「ヨーロッパは、世界のどの国よりも高いエネルギー料金を支払うことになる。それは、ロシアの正当な安全保障上の要求を無視することで選んだ道であり、その結果に耐えなければならない」(耕助のブログ:「キッシンジャーの言う通りだ」by Mike Whitney 2022.6.12)。NATOの「自分探しの旅」は“暗闇の中の凍死”で終わる。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 平和, 政治, 杉本執筆, 経済 パーマリンク

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