【投稿】米国の圧力で借金してでもポンコツ兵器を爆買いする日本
福井 杉本達也
1 防衛費の全てを借金で賄うのか
2021年度の防衛費は補正予算分を含め6兆1160億円である。これはGDP比で1.09%になる。岸田首相は11月28日、2027年度には防衛費をGDP比2%=約11兆円とするよう指示を出し、12月5日には2023年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とすることを決定した。現行の中期防衛力整備計画5年間の27兆4700億円から5割以上増えることとなる。しかし、その増額分の財源のめどは全くたっていない。岸田首相の側近と言われる木原誠二官房副長官は12月4日のフジテレビの番組において、防衛費の増額に充てる財源について、「いま決め打ちする必要はない」、23~27年度の5年間は「財源の有限にかかわらずやる」として全てを国債の借金で賄う方針を示した(日経:2022.12.5)。
植草一秀氏はブログ『知られざる真実』において、「2021年度の日本のGDPは542兆円。これが、日本人全体が1年間に生み出す経済的果実だ。財政は270兆円ものお金を動かしている。国債費の93兆円の多くは国債償還費で、償還する資金の多くは新しい国債の発行で賄われる(借り換え国債)から、この数字は見かけ上のものに過ぎない。また、社会保障支出のうち、国費を投入している部分は約36兆円で、多くは年金保険料、健康保険料などの保険料収入によっている。社会保障支出以外のすべての政策経費が1年間で約34兆円なのだ(この政策支出の中に、公共事業、文教および科学振興 防衛関係、食料安定供給、エネルギー対策、中小企業対策、その他のすべての政策が含まれる。)。このなかで、防衛費だけが突出して激増される。この論議の先に国民負担の増額、増税も浮上すると見込まれる。」と書いた(2022.12.1)。
2 新「防人の歌」
万葉集に「防人の歌」がある。「韓衣(からころも) 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来ぬや 母(おも)なしにして」((現代語訳) 韓衣にすがって泣きつく子どもたちを(防人に出るため)置いてきてしまったなあ、母もいないのに。)(巻20-4401)
日経新聞の論説フェロー:芹川洋一氏は『核心』欄に、「令和の国難に防人の備え」と題して、「歴史が教える負担の覚悟」として、「白村江の戦い」・「蒙古来襲」・「黒船~日露戦争」の過去の3度の「国難」をあげ、「中国の軍拡で東アジアの軍事バランスがくずれた」、「台湾有事になれば…南西諸島が戦域に入るのは必至で、そうなるとおのずと日本有事になる」「令和の国難に必要なものもまた、それぞれの立場で負担を受け入れる覚悟と気概のはずだ」と書いている(日経:2022.12.5)。しかし、台湾有事がどうして日本の「国難」となるかの説明は一切ない。しかも、芹川氏は奇妙なことに、「現実を直視しない政治指導者たちによって国が滅んだ1945年は別にして」と、過去の「国難」の事例から外してしまった。77年前の過去に学ばず「台湾有事」を煽り、「現実を直視しない」のは芹川氏ではないのか。
3 米国の圧力―岸田首相は防衛費の財源を指示したが、自民は無視
11月28日、GDP比2%の防衛費を指示した岸田首相は同時に、浜田防衛相・鈴木財務相に「防衛力強化に向け、歳出、歳入両面での財源確保の措置を年末に一体的に決定する」よう指示した(福井:2022.11.29)が、自民党内は完全無視を決め込んでいる。「『増税ありきは駄目。赤字国債を発行すればいい』。29日午前、自民党本部。国防部会・安全保障調査会の合同会議て、増税による財源確保に対する批判が噴出した。…『首相は財務省に振り付けられているのだろう。支持率が低いのに増税なんでできない』」と(福井:2022.11.29)。追い詰められた岸田首相は12月8日の政府与党懇談会において、2027年度以降の必要となる防衛費増額の財源について、3兆円の歳出削減と1兆円の法人税を中心とする増税を表明したが、決算余剰金や税外収入などという財源とはいえない“カスミ”を積み上げ、後退に次ぐ後退を重ねている(日経:2022.12.9)。しかも、西村康稔経済産業相は9日の閣議後の記者会見で、「このタイミングで増税については慎重にあるべきだと考える」と、ついに閣内からまで“異論”が出た(朝日:2022.12.9)。自民党内が岸田首相を完全無視するのは、首相権限を上回る米国からの強い圧力による。
4 「敵基地攻撃能力(反撃能力)」という自己欺瞞で米製トマホークを“爆買い”
敵基地攻撃能力(ごまかし用語の「反撃能力」)の手段として、射程1600kmで、上海までもが攻撃範囲に入る米国製巡航ミサイル「卜マホーク」を500発も“爆買い”するという(日経:2022.12.1)。しかも、迎撃に特化した現在のシステムから「米軍が掲げる『統一防空ミサイル防衛(IAMD)』に移行する」。IAMDは「陸海空や宇宙、サイバーなどあらゆる手段を用いて空からの攻撃に対応する体制」であり、「ミサイル発射基地への反撃を含む」(日経:2022.12.8)としており、発射権限は米軍が握ることとなる。他にも、自衛隊が要求せず官邸案件として内局が要求した既に米軍が運用停止した旧式の無人偵察機グローバルホーク(ブロック30)3機を629億円で買う契約や、クラッチの不具合で飛行停止となったオスプレイの購入、秋田・山口で中止した陸上イージスを海上に浮かべる洋上イージスに9000億円もの巨費を投ずる契約など掴み金で米国製ガラクタ兵器の数々を爆買いする契約(いずれも後年度負担が大きい)が目白押しである(半田滋「デモクラシータイムス」2022.11.29)。
9月2日付けの日経のコラム『大機小機』は、昨今の防衛論議は、財政赤字も膨れるままなど、基本的な問題を放置して、いきなり尖閣諸島や台湾有事対応のシナリオ、『宇宙・サイバー・電磁波』といった具体論に入っている。しかも『額ありき』の議論を急いでいる」とし、「安全保障の議論にはもっと大きな視野が必要であろう。食料やエネルギーの安定供給も含めて論じるべきではないか。いわばまっとうな保守主義が欠けている」と述べている。
「台湾有事」を声高に騒ぐが、そもそも、1972年9月29日の『日中共同声明』において、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。」「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」と書かれている。台湾問題はあくまでも中国の内政問題である。そして、1978年10月署名の日中平和友好条約の第一条には「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。」とうたわれている。さらに台湾は1895年・日清戦争により、1945年まで日本が植民地にしたが、ポツダム宣言の結果中国に返還されたものであることを忘れてはならない。もし、日本が台湾問題に介入するなら、中国の内政に対する露骨な干渉であり、平和友好条約を破棄し、再び中国との戦争を行うということになってしまう。
5 「ルールに基づく国際秩序」という属国の思考から離脱を
12月5日、参議院で、「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が自公・維新・立憲民主・国民民主党などの賛成多数で採択された。決議は「人権問題は、人権が普遍的価値を有し、国際社会の正当な関心事項であることから、一国の内政問題にとどまるものではない。」と、「普遍的価値」という言葉を持ち出して自らの論理のみが“正義”であり、後進国はその「ルール」に従うべきだとする高慢な論理に貫かれている。賛成した共産党は、日本が中国に対して、「人権侵害の是正を働きかけることを求める」よう主張した(赤旗:2022.12.6)。決議には反対したれいわ新選組は、輪をかけ、「日本政府は中国へ、そのような行為を直ちに停止し、抑圧・拘束された人々を解放するよう求めるべきである。」との声明を出した(2022.12.5)。日中共同声明など読んだこともないであろう。西洋諸国の価値観は上位にあり、中国などの“人権意識”の遅れた諸国に強制すべきとする150年前の独善さそのままである。これが今日の米欧の価値観に洗脳された与野党の思考水準である。こうした思考回路では、財政が破綻してでも膨大な武器を買わされる属国の立場から抜け出すことなどできない。
浅井基文氏は、「アメリカを先頭とする西側諸国が唱えるのは『ルールに基づく国際秩序』という名の覇権的一極的秩序です。」「しかし、『ルールに基づく国際秩序』における『ルール』が具体的に如何なる内容であるかに関しては、アメリカ以下の西側諸国は一度として明確に説明したことがありません。有り体に言えば、”弱肉強食の世界を認めろ、西側支配の旧秩序にこれからも従え”と言っている」「岸田首相はことあるごとに『ルールに基づく国際秩序』の重要性を強調します。これほど岸田首相の見識のなさ、というより無知をさらけ出すものはありません。対米一辺倒外交の醜悪さの極致というべきです。しかし、日本国内にはそのことを指摘するだけの成熟した世論も不在であるという悲しい現実があります。実は、そのことこそが真の問題の所在なのです。政治の貧困と世論の未熟が相乗作用を起こし、『井の中の蛙大海を知らず』の日本が再生産され続けているということです」(浅井基文 2022.12.5)と述べる。
「海(うみ)行(ゆ)かば、水漬(みづ)く屍(かばね)、山行かば、草生(くさむ)す屍(かばね)、大君(=米国)の、辺(へ)にこそ死なめ、かへり見は、せじ」(大伴家持:万葉集 巻18―4094)とはならないようにしなければならない。