<<「2008年の金融危機以来、破綻した最大の銀行」>>
3/9、米金融バブルの崩壊が突如押し寄せ、拡大する、その先駆けとなりかねない銀行破綻が浮上した。米カリフォルニア州サンタクララに本拠を置くシリコンバレー銀行(SVB:Silicon Valley Bank)、その親会社SVBファイナンシャル・グループの株価が60%安の暴落で取引を終え、株式の取引を停止する事態となった。3/9の営業終了時点で、SVBは「当行の現金残高は約9億5800万ドルのマイナス」となり、「急激な預金引き出しにより、当行は期日が到来した債務を支払うことができなくなり、現在債務超過に陥っています
。」という事態に追い込まれたのであった。たった数時間の内に、銀行の資金の4分の1が流出したことになる。この急激な預金引き出しには、大手メガバンク・JPモルガンなどメガバンクの加担などが取りざたされている。
3/10、直ちにこの銀行は「預金保護のため」に閉鎖され、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移行、すべての支店を一時的に閉鎖し、預金引き出しを凍結、SVBの資産を差し押さえ、預金保険国立サンタクララ銀行 (DINB) を設立、SVB銀行のすべての保険付き預金を直ちに DINB に転送、遅くとも2023年3月13日(月)の午前中には、その被保険預金に完全にアクセスできるようになると発表。ただし、このFDIC保険は25万ドルまでの預金だけををカバーするものであり、25万ドル以下であれば、月曜日の朝にはその全額が利用可能になる。しかし、SVBの顧客のほとんどは、300万ドル前後のもっと高額な残高を持つ法人企業であり、多くの企業の次の給与支給日が3/15に控え、それぞれの企業の給与支払いさえ不可能な事態が目前に迫っているのである。被害は次から次へと連鎖的に広がる可能性が高いのである。
このSVBは、米国内で16番目に大きな中堅銀行であり、預金額は 1,750 億ドル(うち1515億ドルは無保険)を超え、資産は 2,090 億ドル(約28兆円)、この資金力を背景に、ベンチャーキャピタル企業に特化して、米国のスタートアップ産業・企業の中心的な銀行と長い間評価されてきた。テクノロジー企業の半数以上(250社)が「現金の大部分を SVB に保有している」とまで言われている。SVBは米国のベンチャーキャピタルが出資するスタートアップのほぼ半数と取引しており、テクノロジーおよびヘルスケア企業で昨年上場した企業の44%は同社顧客だったと報じられている。そして何しろ、破綻直前の3/8まで、格付け会社のムーディーズは、このSVBファイナンシャルを A3 という高格付けを維持してきたのである。
しかしこのSVBの実態は、米連邦準備制度・FRBがインフレ対策の名のもとに低金利・ゼロ金利の量的緩和から、金利引き上げ・緊縮政策への転換に移行するとともに、SVBのバランスシートは、1年前にはほとんどなかった含み損が、第3四半期の時点で160億ドルにまで増えていたのである。SVBの破綻は「ハイテクブームの絶頂期に、910億ドルの預金を住宅ローン債権や米国債などの長期の有価証券に保管することを決定し、これらは安全だと考えられていたが、SVBが購入したときよりも150億ドルも価値が下がった」ことから始まったと報じられている(フィナンシャル・タイムズ紙 3/10)。
かくして、このSVBの破綻は、「2008年の金融危機以来、破綻した最大の銀行」(ニューヨークタイムズ紙)となった。もちろん、この事態は、SVB一行、米国内にとどまるものではない。
<<世界的金融危機への拡大>>
3/10、銀行のパニックは、大小を問わず他の銀行にも急速に拡大。パックウェスト・バンコープは終値で市場価値の 25.45% を失い、ファースト・リパブリック バンク は 16.51% 下落。バンク・オブ・アメリカは 6.20% を失った一方で、米国最大の銀行である JP モルガン・チェース も 5.41パーセント下落している。「2008 年よりもはるかに大きな崩壊の危機」に直面しているのである。預金引き出しは、わずか1日で記録的な 420 億ドルが銀行から引き出されたと報じられている。サンフランシスコに本拠を置くファースト・リパブリック銀行が次の破綻の第一候補なのかもしれない。
KBW・銀行株指数は15.7% 下落し、ナスダック銀行指数は 16.1% 下落、NYSE 金融指数は 7.5% 下落、ブローカー/ディーラー インデックス (XBD) は 9.3% 下落。欧州ストックス 600 銀行指数は 5.0% 下落、ハンセン中国金融指数も 5.1% 下落する、銀行パニックの世界的傾向が鮮明になりつつある事態である。。 金融危機の拡大は、カナダ、インド、中国にまで及び、英国では、SVB のユニットは支払不能と宣言される予定で、すでに取引を停止、3/11、約 180 のテクノロジー企業のリーダーが、英国のハント首相に介入を求める書簡を送っている。SVB は、中国、デンマーク、ドイツ、インド、イスラエル、スウェーデンにも支店を持っており、破綻により、政府の介入なしに世界中のスタートアップ企業が全滅する可能性があると警告している。 SVB の中国合弁会社である SPD Silicon Valley Bank Co. は、業務が独立して安定していると釈明している。
カナダでは、同国の SVB Financial Group の部門が昨年、4 億 3500 万カナダドル (3 億 1400 万ドル) の有担保ローンを報告 トロントに本拠を置く広告技術企業 AcuityAds Holdings Inc. は土曜日、SVB に 5,500 万ドルの預金があり、現金の 90% 以上に相当することを明らかにした。 同社は、シリコンバレー銀行との
「展開中の状況」を理由に、14%の下落の後、3/10、株式の取引を停止している。
アジアの銀行株も、3/10の取引で軒並み値を下げ、MSCIアジア太平洋指数で金融株指数は一時1.6%下落、三菱UFJフィナンシャル・グループは一時3.3%安、豪オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)と韓国のKBフィナンシャルグループもともに一時2.7%下げている。
今回のSVBの破綻のスピードの速さは、2008年のワシントン・ミューチュアルの破綻以来最大で、ウォール街を動揺させ、3/13、月曜日は、21世紀の最新の「ブラック マンデー」になるかもしれないのである。問題は、まだまだ気づかれていない時限爆弾がいたるところにあるある可能性が高いということでもある。金利引き上げの誤算が明確になりつつあるFRBは、SVB の崩壊を受けてこの月曜日に緊急非公開会議を開催するという。要注意であろう。
(生駒 敬)