<<統一地方選・自民、かろうじての辛勝>>
今回の統一地方選、岸田政権にとって、内閣支持率が45%、一部では50%超えなど復調傾向にあるなかにもかかわらず、想定外の大接戦・辛勝となったことは、政権運営、今後の解散・総選挙戦略にとって不安定要因をいくつもさらけ出したものと言えよう。
まず第一に、岸田政権は安倍政権以上に明確な大軍拡路線と原発推進政策、増税路線に大転換したにもかかわらず、直面する選挙戦ではどれ一つ前面に打ち出すことができず、むしろ意図的に封印し、最重要課題として、少子化対策を提起したが、具体政策で混乱し、結果として争点回避と逃げの選挙戦に終始してしまった、そうせざるを得なかった、と言えよう。
そうした象徴が、衆院・山口2区、4区の補選であった。それぞれ岸元防衛相、安倍元首相が、10万票前後で圧勝の選挙区、後継の吉田氏は5万票、岸氏は6万票しかとれなかったのである。岸氏が6万1369票、元衆院議員で民主党・野田政権の法相であった平岡秀夫氏が5万5601票、その差、5768票に迫られたのである。
安倍氏後継の吉田氏は、「安倍先生の無念晴らす」「弔い選挙」「安倍イズムの継承」を掲げ、それに対し立憲民主の有田芳生氏は「安倍政治の検証」を正面から問い、アベノミクスの批判と統一教会との癒着を争点に挑み、吉田氏は安倍昭惠氏が期待した「圧勝」どころか、5万1961票にとどまり、有田氏はこの選挙区では初出馬にもかかわらず、2万5595票獲得している。投票率は、過去最低、前回より13.93ポイント低い34.71%であった。
第二の象徴が和歌山1区の補選である。自民候補は、衆院議員を3期務めた門博文氏で、統一地方選前半の和歌山県議選では、公認と推薦の自民候補を全員当選させている。選挙中は、茂木敏充・幹事長、萩生田光一・政調会長ら党幹部がこぞって応援に入り、4/15には岸田首相が応援に駆け付け、しかも難を逃れしも、雑賀崎漁港・首相への爆発物テロ襲撃事件で「通常は同情票が集まる」はずが、6千票以上の差をつけられて維新候補に敗北したのである。選挙戦最終日には小池都知事までサプライズ応援に駆けつけ、JR和歌山駅前に1500人も集め、圧勝して当たり前のはずの選挙区であった。それが、昨年8月の和歌山市議補選で初当選したばかりで、自民内の確執から勝機ありと急きょにわか仕立てで立候補した日本維新の会の林佑美氏に敗北したのである。
そして第三の象徴は、野党の候補者乱立で救われた千葉5区での自民党の辛勝であった。この衆院千葉5区補選では、立憲民主、日本維新の会、共産、国民各党が公認候補を擁立、自民新人・英利アルフィヤ=50,578票に対し、立民・矢崎氏=45,635票、国民・岡野氏=24,842票、維新・岸野氏=22,952票、共産・斉藤氏=12,360票という結果から明らかなように、わざわざ自民に、どうぞと議席を提供したような野党のふがいなさである。「(候補者を)一本化できていれば、かなり余裕を持って勝てた選挙だった」(4/23、NHK番組で立憲・岡田氏)ことは、「野党共闘」を掲げながら独自候補を擁立し、低迷を象徴するような共産党も含め、それぞれの党の責任問題でもあろう。有権者は、さじを投げたのであろうか、ここでも投票率38.25%で過去最低を記録している。
<<対決軸の設定こそがカギを握っている>>
参議院大分選挙区の補欠選挙は、千葉5区の補選とは打って変わって、今回の衆参5補欠選挙で唯一、事実上の「野党共闘」を実現した選挙戦であった。結果は、自民・白坂亜紀氏=196,122票に対し、立憲・吉田忠智氏=195,781票、「わずか341票という差」の大激戦であった。しかしここでも、投票率は42.48%、県内の国政選挙では過去最低、有権者の4割あまりを占める大分市では33%ほどまで落ち込んでいる。「野党共闘」も無党派層を引き付ける魅力と政策を発揮しえなかったのである。
今回の補選は、大分県知事選出馬のために3月に辞職した野党系無所属の安達澄氏の議席をめぐる補選で、実施は与野党ともに10月になると期待していたものが、安達氏が知事選告示を待たずに辞職したことにより、「超短期決戦」となり、共闘関係を構築はしたものの、準備もすり合わせも不十分、共闘への温度差、対決政策の不明瞭さ、国民民主党は県連による支援にとどまったこと、など、あと一歩のところで「野党共闘の勝利」を逃してしまったのであった。それでも、肉薄し、勝利できる展望は明らかにし得たと言えよう。
問題は、たとえ「短期決戦」ではあっても、決定的なのは、有権者に明確な政策を訴えられる、対決軸の設定、その政策に基づいた共闘、統一戦線の形成こそがカギを握っている、ということであろう。
こうした野党共闘側の弱点とは対照的に、維新は、新自由主義的改革、自由競争原理主義、規制緩和の幻想を対決軸に据えている。その幻想がいまだ暴かれず、立憲民主党までが維新との共闘に未練を残している現状こそが、維新の躍進を許しているものであろう。
日本維新の会の馬場伸幸代表は、「統一地方選挙で600議席」を目標に掲げていたが、今回の統一地方選で、首長や地方議員が計774人になったと発表している。しかし、774人のうち、505人が近畿2府4県内で、”維新のお膝元”である大阪府内でも、高槻市長選挙や、寝屋川市長選挙など維新新人候補が現職に挑み敗北している。すでに周知のとおり、大阪市の都構想・住民投票では二度も敗北しているのが現実である。
維新の政策の基本は、「身を切る改革」の名のもとに、行政改革=緊縮政策と公務員削減、議員定数削減、行政区統合による自治の縮小と独裁化、医療・公共サービスの縮小と民営化、公教育への支出削減と塾通いへの補助金、カジノ誘致などに重点が置かれ、危険なネオリベ政策を手を変え、品を変え、融通無碍、無責任に提起し、一方でウソと空手形に包まれた教育無償化を前面に掲げる、こうした路線が、改憲・軍拡・右翼路線と一体となっているのである。立憲がこうした路線を不問にした維新との共闘を模索し続ける限り、立憲は衰退・自滅する一方となろう。
一方、「野党共闘」をしっかりと構築し、前進させなければならない共産党は、これまでにない後退、敗北を鮮明にしている。4/24の記者会見で小池書記局長「おわびを申し上げたい」「期待に応える結果を出すことができず、奮闘している多くの候補者を落選させてしまったことは悔しく残念であり、おわびを申し上げたい」と言わざるを得ない事態である。
4/25付け、しんぶん赤旗トップに掲載された日本共産党中央委員会常任幹部会の、「130%の党」づくり、岸田政権の暴走とのたたかいに立ち上がろう――統一地方選挙後半戦の結果について、という声明では、「23日、投票が行われた統一地方選挙の後半戦で、日本共産党は、東京区議選挙で94議席、一般市議選挙で560議席、町村議選挙で255議席、合計で909議席を獲得しました。補欠選挙では、3市1町で4議席を獲得しました。4年前の選挙と比べると、東京区議選挙で13議席減、一般市議選挙で55議席減、町村議選挙で23議席減となり、合計91議席の後退となりました。議席占有率は前回の8・08%から7・28%に後退しました。」と述べ、「統一地方選挙の全体からどういう総括と教訓を引き出すかは、党内外の意見に耳を傾け、次の中央委員会総会で行います。そのなかでも、私たちは、最大の教訓にすべきは、党の自力の問題にあると考えています。3月末までに4年前の党勢を回復・突破するという目標は達成できず、私たちは、4年前に比較して91%の党員、87%の日刊紙読者、85%の日曜版読者でたたかうことになりました。統一地方選挙の結果は、「130%の党」づくりの緊急で死活的な重要性を、明らかにするものとなりました。選挙の後退の悔しさは、党勢拡大で晴らそうではありませんか。」とむすんでいる。
これまでの敗戦の弁と同様、またもや、「最大の教訓にすべきは、党の自力の問題」だという。選挙の政策的対決やその政策に基づいた幅広い統一戦線の形成、大衆運動の盛り上がりに党の力を傾けることよりも、党員拡大や読者拡大を上位に置く、まずは主体形成という、責任を下部に押し付ける責任回避路線である。
下部党員の真摯な声が反映されない、共産党の体質的弱点は、大阪・富田林市の共産党現職であったパワハラ市議の岡田ひでき氏が、同数最下位(18位)のくじ引きで落選し、議席が減少したにもかかわらず、4/24付け・しんぶん赤旗一面トップに臆面もなく、「市町議選の全員当選」に富田林を見出しに入れてい
ることに象徴的である。こんなことが党内でまかり通っている限り、党勢回復さえできないであろう。
今回の統一地方選、それぞれの既成政党に深刻な問題を提起している、と言えよう。まずは「野党共闘」の再建に向けて、一から出直すべき課題が山積しているのではないだろうか。
(生駒 敬)