【投稿】コロナ5類移行と失敗続きで反省なしの日本のコロナ対策
福井 杉本達也
1 コロナ「空気感染」をいまだに認めない厚労省
4月30日の福井新聞は、コロナ5類何が変わると題して「5類には法律に基づき実施できる措置がほとんどありません。感染対策は個人や事業者の判断が基本となります。…受診の流れや療養期間の考え方も変わります。」と書いている(福井:2023.4.30)。いかにも日本流の曖昧ななし崩し的緩和という印象を持たざるを得ない。
この間、特にオミクロン株発生以降の政府のコロナ対策はどこでどうなったのか。北村滋人東大大学院教授は「欧米各国は2020年に大量の感染者・死者を出したものの、その後は比較的抑え込みに成功…2022年後半にはマスク着用義務が解除されるなどほぼコロナ前の生活状況に戻った」。一方、「日本は2022年に入っても基本的に2021年と同様の対策を継続…『第7波』の『世界最多』と言われるほどの感染者数を記録し…感染症対策は明らかに失敗だった」と書いている(『世界』:2023.2)。
では、なぜ、日本の感染対策は失敗したのか。2021年8月には、東北大学の本堂毅准教授らが、新型コロナウイルスは「空気感染する」と定義するように求めていた。感染研は「感染経路は主に飛沫感染と接触感染」としている 。感染経路が飛沫感染と接触感染なら感染の起こりやすさは換気とは関係しない。本堂氏は「日本では未だに接触感染と飛沫感染を主たる感染経路としこれを前提とした感染対策が行われている。」「必然として多くの的外れな感染対策を生み出してきた。そのミスリーデイ ングが,現場での無用な感染拡大を招い てきたと考えざるを得ない」と指摘していた(本堂毅『科学』:2022.4)。「空気感染」では「人流抑制」や「3密対策」だけで感染を防ぐことはできない。換気するしかない。建築基準法上は、2003 年7⽉以降に建てられた住宅では通常0.5[回/h]以上となる機械換気設備の設置(いわゆる24 時間換気設備)が義務づけられている。しかし、現実には守られない。こうした議論が一切なされずに、なし崩し緩和だけがなされようとしている。
2 感染症の専門家ではない行政官が専門部会長
児玉龍彦東大先端研教授は、そもそも感染症の専門家でもない「行政官が専門部会長」になったことが日本の感染症対策の根本的誤りだったと指摘している。尾身茂部会長((独)地域医療機構(JCHO)理事長)のことであるが、氏はこの間、何の科学的な査読論文も出していない単なる行政官であるとし、専門部会に、行政官のような専門家でもないものが入るから専門家同士の議論が捻じ曲げられ、まともな議論が成り立たなくなったと批判した(児玉龍彦+金子勝『ARC TIMES』2023.2.22)。また、北村氏は「従来の日本の感染症対策は、緊急事態宣言と人流抑制などのマクロ対策に大幅に依存しており、ミクロ対策はなおざりにされてきたという点である。…日本では、2020年4月から現在に至るまで、一貫してマクロ対策中心の規制方針」が継続されてきたと指摘している(北村:同上)。社会経済的な損失が大きい割に、予想される効果が小さい接触機会削減を中心とするマクロ政策が採用されてきた」が、「政策決定の根拠となる基礎データが不適切・不正確であること」を、外部専門家から指摘を受けても、感染研は、「誤りを認めず訂正も行わないのみならず、その判断に至った理由や根拠等についての説明もほとんど行っていない」など(北村:同上)、また、空気感染が感染拡大の主因であれば、保健所の積極的疫学調査による濃厚接触者探しは無意味である。それは厚労省や、国立感染症研究所や保健所の権限縮小につながる。政府の専門家の多くは、このような組織の関係者である。
3 ウイルス進化のメカニズムに対応しない泥縄対策
厚生労働省クラスター対策班で西浦博北大教授(当時:現在京大)は「人と人との接触を減らすなどの対策をまったくとらない場合、国内で約85万人が重篤になるとの試算を公表しました。うち約42万人が死亡する恐れがあるといいます」(しんぶん赤旗:2020.4.16)」と強調した。日本では、「緊急事態宣言」と「人流抑制」など、一般住民の行動を制限する対策がとられてきたが、その過程で影響力を持ったのが西浦氏の「数理モデル」であった。国民に恐怖心を与え、飲食機会の感染防止が中心的な目的となったが、飲食による感染の比率は1~2割程度というわずかなものであった(北村:同上)。飲食店にだけ営業制限をかける合理的理由は全くなかった。
我々はこれまで試験管内で行ってきたような進化をリアルで見ている。繰り返しながら変わっていく、進化が初めて世界的にリアルタイムで観測された。ウイルスのタイプが変わってきていることであり、当初のα型までは抗体薬品がよく効いたが、逆にその時期に、政府はPCR検査を制限し、また維新の橋下徹氏らはそれを当然視する発言を行った。 また、尾身氏は無症状者の存在を否定していた。その後、VOC型となると抗体薬品が効かなくなくなり、ワクチン一本やりとなったが、8か月間間隔を空けるという指導を行った。現在のBA亜種(オミクロン型)ではワクチンは細胞性免疫で重症化リスクを低くしている。そこでは中国も「ゼロコロナ政策」の終了を宣言し、世界的には集団免疫論となっている。しかし、日本ではmRNAワクチンを何回打てば良いかという評価もしていない(児玉・金子:同上)。ウイルスの変化に対応していかない科学的に合理的でない対策は日本社会に大きな負の結果を残した。
4 「緊急事態宣言」一本鎗の対策と公的医療機関の少なさ
日本は人口あたりの病床数が世界一で、OECD平均の2倍以上となっているが、その多くが民間医療機関である。日本は民間医療機関が多く公的医療機関が少ない。日本は自由開業医制となっており、自由に開業できる。これは、戦後、国民皆保険制度導入にあたり、開業医を制度に取り込むために開業医優先の医療制度としたことによる。その為、病院の規模も小さく、10万人あたりのICU(集中治療室)は米国の34.7人、ドイツの29.2人、イタリアの17.5人と比較して、日本は4.3人であり(厚労省医政局 2020.5.6)、新型コロナの初期の2020年4月1日において、「集中治療体制の崩壊を阻止することが重要」「マンパワーのリソースが大きな問題」だと日本集中治療医学会が、理事長声明を出さざるを得なかった要因である。感染防止対策と称して、政府が「緊急事態宣言」を連発し、宣言を終了しても「マンボウ」(「まん延防止等重点措置」)という愚策を続けた理由である。
民間医療機関は感染症病床を空けておくよりも1床でも稼働させる方が得であり、本来は公的医療機関である(独)地域医療機構(JCHO)や自治体病院が感染症病床を主に担うところであるが、かつての陸海軍病院や結核療養病院の後継であるJCHOは独法化によって規模を大きく減らし、一部の公的病院に負荷が大きくかかり大混乱することとなった。また、大阪などでは当時の橋下徹大阪市長による二重行政批判で市立住吉病院の廃止などが行われた。5類移行後も、こうした日本の医療体制の弱点はそのままであり、何らの対策も取られてはいない。
5 政策の検証を
コロナ第8波の2022年の暮れから2023年の初めにかけ、オミクロン型で高齢者施設が最もダメージを受けた。多くの高齢者施設でクラスターが発生した。職員の感染が増え、離職者も多数出て、介護施設が成り立たなくなった。福井新聞によれば、「第7波以降にクラスターが発生した県内の高齢者施設は延べ132カ所(4月4日時点)、障害者施設は24カ所(同)。医療体制の逼迫を背景に、軽症の入所者は、感染後も施設内での療養が始まった。症状が悪化し、そのまま施設でみとるケースもあった。」「県老人福祉施設協議会の小川弥仁会長は『入所者の多くは基礎疾患がある。本来、施設は治療や療養の場ではない。』と語る(福井:202.4.20)。こうして、介護保険自体が機能しなくなりつつある。感染しても無症状あるいは軽症で、逆にワクチンの副作用が強い若い人にむやみに回数を打つという選択肢は成り立たない。高齢者もむやみにワクチンを打てば免疫機能が低下し、帯状疱疹などが発生する。高齢者施設の防護に医療資源を持っていく必要があったが、政府は何の対策を行わなかった。逆に高齢者の「集団自決論」などが出てくる(成田悠輔)。この間の政策の検証をしっかり行う必要がある。しかし、厚労省・感染研などからのデータは全く出てこない(児玉・金子:同上)。こうした基本姿勢が、わが国のコロナ対策を非科学的なものにして、進歩を阻んでいる。