【投稿】債権者(債権国)の請求権を債務者(債務国)の財産に優先させない―現代の『徳政令』(マイケル・ハドソン教授らの論稿紹介)

【投稿】債権者(債権国)の請求権を債務者(債務国)の財産に優先させない―現代の『徳政令』(マイケル・ハドソン教授らの論稿紹介)

                              福井 杉本達也

1 ロシアへの経済制裁の結果、BRICS諸国などが雪崩を打つようにドル離れ

エマニュエル・トッド氏は池上彰氏との対談『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』 (朝日新書:2013.6.13)の中で、「ヨーロッパ人は現実を直視していない」として、「インフレもあり、生活水準もだんだんと下がってきてしまっています」と述べ、一例として「ICCがプーチンに逮捕状を出すといったようなばかげた行動」などをあげ、西欧の「世界支配の終焉」を迎えている中で、「ヨーロッパ人も病んでいる」と書いている。

G7の構成国であるフランスのマクロン大統領は8月に開催されるBRICSの会議に参加したいと主催者の南アフリカに申し入れている。また、マクロン大統領はG7が一致して攻撃する中国に対しても非難しないとした。さらには、中国からガスと石油を購入し人民元で支払うと表明している。ロシアへのウクライナ侵攻に対抗して、ドル決済システムであるSWIFT電子銀行清算システムから排除し、ロシアの資産を凍結し、G7諸国やEU諸国による原油や天然ガスの禁輸などの経済制裁を行って、ロシアを破綻させようとした。しかし、ロシア経済は大きな打撃を受けなかった。ロシアの石油は中国やインドが大量に買い付け、ロシアはドルという基軸通貨がなくても経済は正常に機能することを実証した。逆に制裁を行った側のG7やEU諸国の方がインフレの高進などで大きな打撃を受けている。ドルは世界から疎まれ、他方では国際社会における中国の影響力をさらに増大させた。これからさらに何が起ころうとしているのか。ドル体制の崩壊とその後の世界経済の動向について、最近、ミズーリ大学カンザスシティ校のマイケル・ハドソン教授らが示唆に富む論陣を張っているので紹介する。一部機械翻訳であり、引用文面のみで読みにくいが、お許し願いたい。

レーガン政権下で財務次官を務めたポール・クレイグ・ロバーツ氏は「米ドルが全ての国で準備通貨として需要があり、彼らが国際取引の支払いのために使用する限り、それはアメリカにとって問題ありません。また、貿易黒字を持つ国々は自国の通貨余剰を米国の国債に保持することで、アメリカの貿易赤字と予算赤字の両方の資金調達を行っています。信じられないほどの愚かさで、ワシントンは世界の基軸通貨である米ドルの心臓を短剣で突き刺し、結果としてワシントンのお金を刷り増すことによる支払い能力を終わらせました。その短剣とは、バイデン政権によるロシアをはじめとする制裁とロシアの中央銀行預金の差し押さえです。これにより、ドル残高を保有することはその国がワシントンに収奪されたり支配されたりするリスクにさらされることを世界の他の国々がついに確信したのです。その結果、世界はドルの使用から離れ、代わりに自国通貨または他の通貨で貿易収支を決済するようになりました。したがってドルの需要は減少しているが、米国の貿易赤字と財政赤字のために供給は増加している」と述べている(『耕助のブログ』「アメリカは支配者層エリートによって破壊された」The United States Has Been Destroyed by Its Ruling Elites by Paul Craig Roberts2023.6.13)。また、イエレン米財務長官も6月13日の米下院財務委員会の公聴会で、米国が制裁を発動した場合、制裁の対象となる可能性のある国は「ドル以外の決済手段を模索する動機があるだろう」と述べた。

スプートニクス日本によると米ユーチューブの番組「Redacted News」の司会者であるクレイトン・モリス氏は、ロシアと中国は、BRICSの枠組みの中でドルに取って代わろうとすることで、ドルに壊滅的な打撃を与えた。さらにラオス、パキスタン、アルゼンチンなど取引に米ドルを使わないことを決めた国が最近増えつつあるとモリス氏は指摘している。米国通貨の魅力が低下しているのは、貿易赤字とだという。同時に、米政府は中国から資金を借りて軍産複合体に費やしているが、これは公的債務の状況を悪化させると述べた(Sputnik日本:2023.5.30)。これより先、南アフリカは、相互決済のための単一通貨創設の可能性について議論する計画があると明らかにした。

2 債権者の請求権を債務者の財産に優先させない―現代の『徳政令』

マイケル・ハドソン教授は、「バビロニアの律法学者が最初に行った数学の練習は、「負債が2倍になるのにどれくらいの時間がかかるか」というものでした。どんな借金でも、有利子負債でも、2倍になる時間がある。それが指数関数的な成長であることを彼らは発見した。倍増、倍増、倍増、倍増。それがS字カーブです。指数関数的な上昇曲線を描いている」「債務の数学は生産と消費の経済を記述する数学とは異なる」「負債は、実体経済の成長能力を超えて、指数関数的に、そして不可避的に成長する」「ギリシャやローマでは…人々が支払えなくなると、土地を失い、自由を失う。債権者の束縛」に陥いる。これが、西洋文明であると述べる(マイケル・ハドソン:負債と古代の崩壊:2023.4.21)。

ビジネス知識源はこれを『羊毛刈り』という言葉で表現している。「通貨の増発と、金利を下げた貸付金の増加によって、 国民経済に、インフレから資産バブルを作って・インフレ対策として、金利を上げ(金融を引き締めて)、 ・不況を作り、資産価格(株価、不動産)を暴落させて、 結果として、銀行が担保の資産を接収することです。 国民経済の果実を刈りとる。これを『羊毛刈り』といったのです」。「『羊は太らせて食え』」ということである(ビジネス知識源:2023.5.30)。

マイケル・ハドソン教授は新著『The Collapse of Antiquity(古代遺物の崩壊)において、「すべての欧米の金融システムに共通するものがあることだ。それは負債であり、複利によって必然的に増大する負債である。」西アジアでは「借金を帳消しにすることの重要性を知っていた。さもなければ臣民は束縛されることになるだろう。抵当権を持つ債権者たちに土地を奪われ」ると。しかし、ギリシャ・ローマででは「債権者が融資を始め、債務者が支払えなくなり、債権者はますます多くのお金を得るようになる。そして寡頭制は世襲制になり、貴族制になる」(『耕助のブログ』「崩壊に向かう借金帝国アメリカ」US Empire of Debt Headed for Collapse by Pepe Escobar 2023.5.28)。

「ローマの契約法は、債権者の請求権を債務者の財産に優先させるという西洋法哲学の基本原則を確立した(今日では「財産権の保障」と婉曲に表現されている)。社会福祉への公的支出は最小限に抑えられ、それを今日の政治イデオロギーは『市場』に問題を委ねるという言い方をしている。その市場とは、ローマとその帝国の市民が基本的な生活必需品を裕福なパトロンや金貸しに依存し、パンとサーカスについては公的な給付金や政治候補者によって負担されるゲームに依存し、政治候補者自体もしばしば裕福なオリガルキーたちから資金援助を受けて選挙活動を行った。」このローマの契約法こそ今日、米国が強調する『法の支配』といわれるものである。そして、ローマは「奪うべき土地と略奪すべき貨幣がなくなったとき、西の帝国が崩壊した」。「今日の銀行危機で起きているのは、経済が支払える速度よりも借金の方が速く成長すること」だと述べている(『耕助のブログ』同上)

「多くの人々は、借金、利息の支払い、そしてすべての債務者が借金を支払わなければならないという事実は、金融のルールが普遍的であると想定されていると考えています。」「現代経済史の政治的メッセージは…すべての債務は支払われなければならず、債権者の利益は債務者の利益、および債務社会全体の利益よりも優先されなければなりません。」(『耕助のブログ』同上)と。

しかし、いま、この2000年にわたる『法の支配』は『法の支配者』自らによって破られようとしている。EU委員長のフォンデアライエン氏は「ロシアは大規模な破壊の代債を払うべきだ」とし、約2000億ユーロの「ロシア資産をウクライナ復興に活用する」ために「強力な法的手段」をとると言明し、ローマの契約法を自らが破ると宣言した(日経:2023.6.28)・。

 

3 不均衡をどのように是正するか:BRICSがドル基軸体制以外のまったく新しい金融システムを作る可能性

マイケル・ハドソン:「重要なことは、…実際に通貨の相対為替レートを決定するのは貿易ではないということです。」「為替レートは実際には金融市場の関数であり、特に貿易、特に対外債務返済ではありません」。

ラディカ・デサイ「投機的な資産市場」「ある人々から他の人々に収入を移すことによって少数の人々を非常に豊かにすることを除いて、誰も養わないだけでなく、生産を絞め殺します」「それに加えて、本質的には金持ちや大きな機関が供給する需要であるドルの需要を生み出すことによって、このシステムが行ったことは、ドル以外のほとんどの通貨の交換価値を下げた」「ドルは他のすべての通貨と比較して過大評価されており、貧しい国の一般の人々はドルを稼ぐために一生懸命働かなければならないだけでなく、ドルが不当に過大評価されているので不当に一生懸命働かなければなりません。」

連邦準備制度の量的緩和は「資産市場を支えるために使用している」「外貨はもはや資産市場を維持するために必要なほど入ってこない」「もしこれらの資産価格が下落すれば、連邦準備制度の介入がなければ、もちろん、最も裕福なアメリカと世界のエリートの富は一掃されるだろう」

ラディカ・デサイ:「インフレの復活はドルシステム自体の危機です。そしてまた、帝国主義の重要な基盤の一つは、豊かな国々、特に米国に来る資源を安く保つことであるという単純な意味での帝国制度の危機である」「ドルの価値が下がるにつれて、インフレが上がるにつれて、これらのものはもはや安くはなく、これらの国々の生活費と生産コストを本質的に低く抑えることはもはやできません。」「世界の準備通貨に占める米国のシェアが大幅に低下している」

ラディカ・デサイは他の解説でも「米国はすでにインフレに苦しんでおり、それはすでにその帝国の力が低下しているという事実の印です。結局のところ、なぜ米国はインフレに苦しんでいるのでしょうか。なぜなら、世界の他の国々に商品やサービスを無料で販売することを強制する能力が低下しているからです。」と述べている(「中国は米国主導の金融秩序の崩壊としてグローバルな代替案を構築」China builds globalalternative as US-ledfinancial order decays:マイケル・ハドソン×ラディカ・デサイ×ミック・ダンフォード:2023.5.28)

マイケル・ハドソン:「米国債が、アメリカ人と友好的なヨーロッパ人にとって、あらゆる投資の中で最も安全であることは間違いありません。」「米国はいつでもドルを印刷でき、アメリカ人であれば安全であり、上下する株を保有するよりも安全ですが、外国人の場合、連邦準備制度は外貨を印刷できません。」アメリカ人にとって米国債は「『良い債務』です。アメリカ人が外国人に所有している国庫による債務は『不良債権』です。お支払いはできません。」「それが彼らが金に移行している理由です」

ラディカ・デサイ:「世界の他の地域がまったく新しい金融システムを作る可能性です」「この壊れたシステムを、まったく新しい原則に基づくまったく新しいシステムに置き換えることです。」

マイケル・ハドソン:「それ自体は脱ドル化ではありません。それは脱新自由主義です」、「解決策は明らかに次のようになります:あなたは人工通貨を作成します。前にも言いましたが、金ではないことを除いて、それは紙の金のようなものです。」「ケインズのバンコールのようなもの(バンコールと国際通貨同盟(ICU)に対するケインズの提案)、または中央銀行間、政府間でのみ独自の目的のために使用できる一種のクレジットとして政治的に定義されるものです。そして、これは米国が本当に恐れていることです。」

「世界経済は、通貨をフリーランチとして印刷するだけで他の経済を犠牲にして利益を得る特定の経済に集中することなく、私たちに利益をもたらし、相互に利益をもたらす方法」

ラディカ・デサイ:「バンコールと国際通貨同盟の原則を受け入れた場合、その考えは、大手金融企業を含む大規模な民間企業の力を増やすことではなく、逆に、経済は生産、生産性、および広範な繁栄の創造に焦点を当てるように運営される」「ドルシステムは、本質的に米国の経常赤字に基づいているため、体系的には不均衡の生成に基づいています。不均衡が大きければ大きいほど、世界のシステムに提供される流動性は多く」なる。ケインズの、「ICUの設計方法は、不均衡が持続しないようにすること」「世界貿易、世界の投資関係のバランスが多ければ多いほど、それは実際に通貨の使用の必要性を減らすことです、なぜなら解決する不均衡がなければ、お金は必要ない」

マイケル・ハドソン:「どんな経済でも、特に債務のために、自然な傾向は二極化することです。債務が経済よりも速く成長する」それが不均衡な場合、「債権国による債務の蓄積をキャンセルし、債務国の債務を一掃」する。緊縮財政を押し付けず、「不均衡の結果は一掃されます。不均衡自体は治りませんが、不均衡の結果は一掃され、世界は秩序をある程度回復し、正常と支払能力を回復することができます。」「唯一の解決策は金融債権者によって蓄積された債務を一掃することです。」(「脱ドル化は通貨以上のものですードルシステムが衰退するにつれて、次に何が来るのでしょうか?―」(De-Dollarization Is About More Than Currencies As dollar system declines, what comes next?)マイケル・ハドソン×ラディカ・デサイ:2023.4.28)。

 

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