<<バイデン「(プーチンは)すでに負けた」>>
7/13、リトアニアのヴィリニュスで開かれたNATOサミットを終えたバイデン米大統領は、NATOの新加盟国フィンランドを訪問。ヘルシンキでの記者会見で、フィンランドの若い女性記者から、ウクライナのNATO加盟への希望が打ち砕かれ、あいまいに先延ばしにされたのは、NATO内部の亀裂、そして米国内の政治的不安定性が将来同盟関係に問題を引き起こすのではないかと危惧しているからでしょうか? と質問された。バイデン氏は、このジャーナリストとしては当然な質問に、急に怒りだし
、「将来の保証ができないとは言ってないよ!」と叫び、「今晩家に帰れるかどうかも分からないんだよ!」と突飛もない発言をし、その冷静さを失ってしまった事態を取り繕うために、プーチン大統領は「すでに負けている」と宣言したのであった。
プーチンが「すでに負けた」のであれば、すぐにでも停戦交渉に入るべきであろう。しかし実態は、逆にNATOにとって深刻であり、大規模な軍事支援にもかかわらず、ウクライナの巻き返しは失敗していることが明瞭になりつつある。こうした事態を逆転させるには、ウクライナへの大規模な軍事支援、世界大戦への戦線拡大、さらには、核戦争への危険なエスカレートをさえ排除しない、挑発的・冒険主義的路線さえ浮上していると言えよう。
プーチン敗北宣言の同じ7/13、バイデン大統領は、ヨーロッパへの米軍増派を明らかにし、国防総省が3000人の予備役を動員することを認める大統領令に署名した。すでにアメリカはヨーロッパに20,000人以上の兵力を追加配備しており、ヨーロッパ大陸における米軍の兵力レベルがすでに100,000人を超えている。
今回のサミットで、ウクライナのNATO加盟を見送る代償として、新たに「NATO・ウクライナ評議会」なるものを設立、「対等な立場で会合し、危機協議を行い、共同で決定を下す」とし、ウクライナ軍がNATO軍と完全に相互運用可能になるよう支援する複数年にわたる支援プログラムに取り組むことを明らかにした。フランスは長距離SCALP-EG巡航ミサイル(ストームシャドウミサイル)を送ることに合意し、英国は装備修理費として6,500万ドル、追加の軍用車両70台とチャレンジャー2号戦車用の数千発の弾薬を保証、ドイツは追加のマーダー歩兵戦闘車40台、レオパルト1 A5主力戦車25台、パトリオット防空システム用発射装置2台を含む7億7,100万ドルのパッケージを約束、ノルウェーは小型偵察無人機1,000機をウクライナに供与する、とメディア報道が伝えた。 米、英、NATOは、核爆弾搭載可能なF-16戦闘機パイロットの訓練を加速することで合意した。かくして、NATOの即応兵力は4万人から30万人に増強される。
さらに、日本の岸田首相を含むG7は7/12、共同声明を発表し、「本日、我々はウクライナとの交渉を開始し、この多国間の枠組みに沿った二国間の安全保障の約束と取り決めを通じて、それぞれの法的・憲法的要件に従い、ウクライナに対する我々の永続的な支援を正式に表明する」と述べ、より多くの軍事援助、訓練、情報共有、サイバー協力、ウクライナの軍産複合体への支援などが含まれることを明らかにした。しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「G7の約束はNATO加盟の代わりにはならない」と不満を表明している。
つまりは、米国とNATOの中枢は、停戦や平和的解決などまるで眼中になく、ウクライナがどれだけ犠牲を被ろうと、ロシアを出口の見えない罠に追い込み、泥沼の戦争を永続させるために全力を尽くそうとしているのである。大規模かつ世界的な軍事エスカレーションを組織し、世界大戦化と、原発の破壊攻撃を含む核戦争さえも、すでに射程に入っているのだとも言えよう。
<<「武器よりも平和が必要だ」>>
NATO内部の亀裂に関して言えば、ハンガリーのオルバン首相が、「ウクライナでは武器よりも平和が必要だ」と明確に述べ、「我々が代表するハンガリーの立場は変わらない。ウクライナに提供されるべきは、武器よりもむしろ平和である」と語り、停戦と和平交渉の緊急開始を求めたのである。「戦争は我々の隣で起こっており、トランスカルパティアに住むハンガリー人のために、何万人ものハンガ
リー人が直接的な危険にさらされている。ハンガリーは、NATOが以前の立場を堅持することを望んでいる。NATOは加盟国を守るために設立されたのであって、他国の領土で軍事作戦を行うために設立されたのではないとオルバン氏は述べている。
ヴィリニュスのアメリカ代表団は、NATOサミットのコミュニケに失望を表明し、批判したゼレンスキー大統領に対して「激怒」しているとワシントンポスト紙は報じている。ベン・ウォレス英国防長官は、ウクライナは恩知らずで、NATOの支援者をアマゾンの倉庫のように扱う癖があると揶揄している。
共和党のランド・ポール米上院議員は、「われわれは1000億ドルを彼らに与えたのに、彼はわれわれに、もっとスピードアップしたほうがいいと言うような図々しさを持っているのか? 大胆としか言いようがない。図々しいとしか言いようがない。これまで彼に与えた1000億ドルに対する感謝もない。」とこきおろし、さらにバイデン大統領がウクライナにクラスター爆弾を送る決断を下したことを批判し、「紛争は交渉による解決によってのみ終わらせることができる。我々がゼレンスキーに無制限の武器を供給し続ける限り、彼は交渉する理由がないと思う。だから交渉を先延ばしにしているのだと思うが、最終的に敗者となるのはウクライナの人々だ」と批判し、バイデンは代わりに流血を長引かせないよう外交的解決策を模索することに集中すべきだと、バイデンの最も痛いところを鋭く突いている。
今回のNATOサミットでさらに問題なのは、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの「アジア太平洋パートナー」4カ国を特別に招待し、これら4カ国の新たな名称を特別に創設し「アジア太平洋4カ国(AP4)」と称し、アジア太平洋地域における事実上の「NATO+」の新たな同盟国とすることを明らかにしたことである。NATOの共同声明発表の段階では、「インド太平洋4国(IP4)」に変更されているが、これは明らかに、バイデン政権の対中国緊張激化政策と連動するものであり、日本の岸田政権が果たしている極めて悪質な役割が厳しく指摘されるべきであろう。
(生駒 敬)