【投稿】BRICS通貨の誕生

【投稿】BRICS通貨の誕生

                       福井 杉本達也

1 BRICS通貨の登場

8月22日、国際金融で、1971年以来の重要な進展がある。7月7日付けのRTによると、BRICSのブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが、金に裏打ちされた新しい貿易通貨を導入することを明らかにした。BRICS 通貨はドルのような紙幣通貨としてではなく、IMF が各国に貸し付けているSDR(特別引き出し権)と同じ国際通貨として構想されている。BRICS 通貨はユーロのように、加盟国の通貨をなくすものではなく、各国の中央銀行と通貨は残る。SDRは貿易と所得収支の赤字で、外貨準備が足りなくなった国に現在、3000 億ドルが貸し付けられている。

2 BRICS通貨は米ドルに置き換わるか

米ドルは、世界の支配的な通貨であり、国際取引におけるその利用は、世界経済に占めるアメリカのシェアをはるかに上回り、現在約24%となっている。また、通貨別の中央銀行の外貨準備はドルが58.4%を占めている。しかし、BRICS通貨は、ドルの基軸通貨としての役割を弱める。最終的には、米ドルに、BRICS新通貨が、置き換わる可能性がある。

「この新しい通貨を使う国が増えれば増えるほど、対外貿易のために米ドルを保有する必要がなくなった国から、外国で保有されていた米ドルがアメリカに戻ってくることになる。 米ドルがアメリカに戻ってくると、アメリカではかつてなかったようなインフレが起こるだろう。アメリカではもうほとんど何も製造していない。 アメリカで売買されるものは、ほとんどすべて海外で製造されている。 米ドルが海外から戻ってくると、米ドルの価値は他の通貨に対して急落する」。米国は、イラクやリビアが米ドル以外の通貨構想を立ち上げようとしたとき、「事態を食い止めるために実際の戦争に踏み切った」(「ロシア、『BRICS』が金裏付け通貨を立ち上げることを確認」:RT速報:2023.7.7)。「ロシアとBRICS諸国が発表したことを実行に移せば、アメリカの世界支配は完全に崩壊する。アメリカ政府内部には、世界の支配権を失うくらいなら、むしろ世界全体を焼き尽くすことを望む人々が大勢いる。 簡単に言えば、彼らは自分たちの金融支配力を維持するためなら手段を選ばず、自分たちの権力を脅かすあらゆるものを、積極的に、悪意を持って、残忍に、破壊する」(RT速報:同上)。

3 なぜBRICS通貨なのか

脱米ドルの背景には、米国が経済制裁という手段を使って、ドルを武器化していることにある。ロシアへのウクライナ侵攻に対抗して、ドル決済システムであるSWIFT電子銀行清算システムから排除し、ロシアの資産を凍結し、G7諸国やEU諸国による原油や天然ガスの禁輸などの経済制裁を行って、ロシアを破綻させようとした。また、EUは、凍結された約2000億ユーロ(約31兆5000億円)のロシアの資産没収とそのウクライナへの譲渡について合意できない。もしそのようなことをすれば、世界の中央銀行からの預け金としてのユーロと国債に対する信頼性を損なうおそれがあるからである。

米国はこれまで、イランやベネズエラのような国々を罰するために制裁を行ってきた。グローバルサウスの国々は、米国に逆らえば、次は自分たちの番だ、という結論に達した。そのためドル体制から脱却しようとする動きを加速させている。

4 赤字を40 年も垂れ流してきた国の通貨が、もっとも信用の高い基軸通貨であるという矛盾

米国という赤字国が発行するドルがもっとも信用される通貨だというは矛盾である。第二次大戦後の経済体制を決めた1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。だが、ベトナム戦争により米国経済は大きく傾むいた米国はドルの金兌換を要求されても支払うべき金はなくなっていた。そこで、1971年のニクソンショックにより、金・ドル交換停止され、ドル紙幣は金という「貨幣としての貨幣」の裏付けのないただの紙切れとなった。金という錨がなくなれば、インフレーションによってその価値はどんどん下落し続ける。そこで米国は、産油国のリーダーのサウジと「『原油はドルで売る、代わりに米国は王家の体制の維持を米軍が守る』とするキッシンジャー・ヤマニ密約」をし、「信用通貨になったドルが、基軸通貨であることを続けた」。石油を持たなに非資源国は「産油国から原油を買わねばならない。その決済通貨はドルである。従って、世界はドル準備(外貨準備=ドル預金またはドル国債)をもたねばならない。これが世界に、赤字通貨のドル買いとドル貯蓄(外貨準備)を促してきた」・いわゆる『ペトロダラー・システム』である(「ビジネス知識源」:2023.7.17)。世界はこれを1971 年から52 年も是認してきた。

5 ドルは過大評価されている

ドルは他のすべての通貨に対し不当に過大評価されており、グローバルサウスの人々はドルを稼ぐために一生懸命働かなければならない。米国は米ドルをフリーランチとして印刷するだけで他の経済を犠牲にして利益を得ている。FRBの量的緩和は資産市場を支えるために使用しているが、外貨はもはや資産市場を維持するために必要なほど入ってこない。米ドルの需要は減少しているが、米国の貿易赤字と財政赤字のために供給は増加している。米国が他の国々に貯蓄をドルで保持させること、つまり財務省証券を購入させなければならないが、もし、それが不可能な場合、彼らは軍事費の国際収支コストを支払うことはできなくなる。もはや、彼らは海外で軍事大国でいることはできなくなる。解決できる唯一 の方法は、輸入を大幅に削減することである。

BRICSは国際収支の黒字化に伴い、より多くのドルを得る代わりに、彼らは金を購入し、お互いの通貨を購入している。本当のBRICS銀行ができるまでにはしばらく時間がかかる。どのような種類の通貨が生み出されるのかについて、国々の間で政治的合意を持たなければならない。

7月20日、100才のキッシンジャーが老体に鞭打って中国を訪問し、1971年からの「古い友人」として、習近平氏の歓待を受けた。米国の債務は31兆4000億ドルまで膨らんでいる。米国債を売らないでくれと習近平氏に懇願したことであろう。今、米国債価格は必然的に暴落し、多くの国の経済を破壊しようとしている。何億人もの雇用と何兆ドルもの年金が失われる。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 杉本執筆, 経済 パーマリンク

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