<<パウエル発言で急騰、急落>>
7/26、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利をさらに25ベーシスポイント引き上げた。結果、16ヶ月で11回目となる利上げによって、借入コストは、5.25%〜5.5%のレンジに押し上げられ、2001年初頭以来の高水準となった(下図の通り)。
この日、株価はパウエル議長が「インフレ率は予想よりやや改善している」と発言するや、S&P500種株価指数はすぐさま急騰、最高値を更新、4月上旬(FRBが初めて利上げを開始した2022年3月)以来の高値を記録、ダウ平均株価も上昇、1987年1月以来の記録を更新した。ところがである。同じ発言の続きで、パウエル議長が「FRBはもはや景気後退を予想していない … 2025年までインフレ率が2%になるとは見ていない」と発言するや、ダウは4,600ドル超の高値から急落する、異常な事態が展開された。しかしこれは、異常でもなく、根底にあるFRBへの信頼の崩壊、結局はFRBは無為無策、無能であった、何の成果もあげられなかったことへの当
然の反応でもあった、と言えよう。
バイデン政権は経済は好調であり
、その努力により状況は改善されていると主張し続けている。インフレ率が改善していると言いながら、なぜFRBはまたもや利上げを続けるのか?
実際は、インフレは収まっているどころか、一次産品価格は上昇し始めており、先月、すべてのサービス(米国経済の80%)の価格が6.2%上昇し、前月の5.3%を上回っているのである。
第二に、 FRBは依然として急増する赤字(1兆ドル超)をカバーするために、たとえインフレが鈍化しても金利はしばらく高止まりすると発言しているが、これは、投資家に国債を買わせるために必要な慢性的な高金利を示唆しているものでもある。そうしなければ、米国は慢性的な年間10億ドル超の財政赤字をカバーできないことを吐露しているものでもあろう。
<「差し迫った景気後退の強力な予兆 」>>
失業率は、FRBが昨年3月に利上げを開始したときと全く同じ水準にある。エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)は7/25、パウエルに送った書簡の中で、黒人労働者の失業率が6月に1.3ポイント上昇して6%となり、労働市場全体に差し迫った問題を示唆する可能性があると指摘。「この最近のデータは憂慮すべきもので、FRBの積極的な利上げキャンペーンの危険性を浮き彫りにしている。広範な調査によれば、労働市場が低迷した場合、黒人労働者は通常真っ先に職を失う。従って、黒人の失業率の急激な上昇は、”差し迫った景気後退の強力な予兆 “となりうる。」と警告している。
同日、利益相反、責任追及の調査を行っているAccountable.USは声明を発表、「FRBによる前例のない利上げの乱発は、企業の価格高騰をほとんど抑制していない」、「それどころか、多くの平均的なアメリカ人にとって、お金を借りるには高すぎる金額になってしまった。FRBのおかげで、住宅や新車を購入できるアメリカ人は減り、製造業の仕事は需要が減少している。FRBが一時利上げを見送った後、再び利上げに踏み切るのは、癒えかけていない経済の深い傷から包帯をはがすようなものだ。」と指摘している。
グラウンドワーク共同体のリンジ・オーウェンズ事務局長は7/25の声明で 「パウエル議長とFRBは、強い労働市場と物価下落のどちらかを選ばなければならないという、インフレタカ派が売りつける誤った選択を押し付け続けている」、「データは、我々は両方を手に入れることができることを示している。」、「インフレの原因が何であれ、金利を引き上げようとする危険な反応は、政策の失敗であると同時に、労働者が消耗品以外の何物でもない世界を想像することの失敗でもある。」、「FRBは利上げキャンペーンを永久に終わらせるべきだ。」と明確に要求している。
FRBと同様、欧州中央銀行(ECB)も利上げ継続を宣言する中、ドイツとフランスはともに、EU最強の経済大国の座から滑り落ち、今や最弱とも言える経済後退に直面している。それは、米英ネオコン勢力の対ロシア経済制裁に同調し、より安価なロシアのエネルギーを、より高価な米国の石油/ガスと交換した直接的な結果でもある。
ウクライナ戦争という泥沼の落とし穴にEU諸国が閉じ込められ、経済の疲弊をさらに推し進めるかぎり、米英、EU、日本を含むG7の政治的経済的危機の深化は避けられないであろう。危機打開の道は、緊張緩和・平和政策以外にないのである。
(生駒 敬)