【翻訳】「海中火山と2023年の暑さとの関連」

Japan Times on September 16-17
 Incorporating The New York Times International Edition

“An undersea volcano and its link to 2023 heat”
「海中火山と2023年の暑さとの関連」
By Alister Doyle, Oslo : Thomson Reuters Foundation

 記録的高温よりの世界的蒸し暑さについて、科学者たちは、部分的に責めるべきかもしれない、興味ある容疑者として、昨年、南太平洋にある Tonga 近くで起こった海中/海底火山の爆発/噴火を挙げている。
 ほとんどの大噴火は、太陽を薄暗くする靄/霞によって地球を冷やす一方で、2022年1月に噴火した Hunga Tonga-Hunga Ha’apai (訳者:以下「トンガ火山」と称する)は、オリンピック用水泳プール 6万個に等しい水を地球上空の成層圏に吹き上げた。
  (訳者: 地球を取り囲む大気は、500 Kmまで存在すると言われている。
       0 ~ 10 Kmは対流圏、10 ~ 50 Km までは成層圏と呼ばれている。)

 水蒸気は、自然の温室効果ガス (“greenhouse gas”) である。地球の周りを渦巻くように熱を閉じ込める。対照的に、地上での噴火は、— 例えば、1991年に起きた Pinatubo,Philippines の噴火のように — 一時的に火山灰による日よけ効果によって、地球に降り注ぐ前に、日光を薄暗くする。
 Mr. Peter Thorne, a professor of climate science at Maynooth University in Ireland は述べている。「火山の大半は、冷やす効果を持つであろう。トンガ火山は、ルールの例外であり、我々はかって経験したことがない、意味ある wild card (予測できない要因) である。」と。 今年の 6 -8 月は、世界中で最も暑い記録だった。不可解なほどの大きい差をつけて、日本から米国にかけての熱波でもって。
 科学者たちは述べている。即ち、太平洋を温める El Nino 現象、船舶の燃料よりの光を反射する排気ガスや火山による小さい影響もあるが、人間による温室効果ガスの放出は、圧倒的に責任を負わされるべきである、と。
 多くの科学者たちは、地球の温暖化はまず第一に化石燃料(”fossil fuels”)を燃やすことによって、もたらされるのであるが、火山の噴火が温暖化の長期トレンドに、どれほど長く影響を与えているのかを、計測し判断するに、火山のさらなる調査が重要である、と述べている。 2015年のパリ協定は、産業革命以前の気温より、できるだけ上昇をプラス 1.5℃程度に止めることを求めている。気温は、すでに 1.2℃ 上昇している。

Past huge eruptions [ 過去の巨大噴火]
 ポリネシア諸島における噴火(訳者:昨年のトンガ火山の噴火のこと)は、約1億5千万トンの水蒸気を成層圏に吹き上げ運び込んだ。これは、成層圏を取り巻いている 10.4 億トンの水蒸気のおよそ 10 % に相当している、と Margot Clyne, an atmospheric scientist at the University of Colorado, Boulder, in the U.S. は、述べている。さらに、「我々は、かなり自信をもって言える。即ち、1883年の Krakatoa 火山の噴火に遡るまで、昨年のトンガ火山のような噴火は、起こっていなかった、と彼女は述べている。
 (訳者:Krakatoa 火山:Indonesia スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡にある小さい島の火山で、 8/26日に噴火して津波も発生したことより、
             36,417人が死亡したと伝えられている。)
 その噴火は、同時におよそ 50万トンの二酸化硫黄(Sulfur Dioxide”)を成層圏に吹き上げた。これは地球を冷やす傾向にある。水と硫黄の混合は、火山の影響を理解しにくくする。

 定期刊行誌 “Nature” の一月号のある論文は、地球の気温は今後五年間のうちの少なくとも一年は、一時的に、1.5℃を超えて上昇するであろう、と述べている。
「このトンガの噴火は、地表を冷やすよりは、むしろ温めるであろう観測史上最初の噴火である」と Luis Millan, a scientist at NASA’s Jet Propulsion Laboratory at the California Institute of Technology は述べている。さらに、予備的研究であるが、水蒸気は、成層圏において、最大8年間持続して留まる可能性がある、と彼は述べている。
Holger Voemel, a senior scientist at the U.S. National Center for Atmospheric Research (NCAR) は、その噴火は、地球の温暖化に何らかの効果をもたらすであろう可能性はある。しかし、その判断/判定は、まだ出ていないと考える、と述べている。
U.N.’s Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) によれば、太陽を暗くする噴火は、過去 2,500年以来、大まかに言って 100年に二回ペースで起こっていて、最近のものは、Pinatubo, Philippines である。この噴火は、曇らせた太陽によって、地球の平均気温を、一年以上約 0.5 ℃押し下げた。 IPCCによれば、過去2,500年間に、およそ8回大きな噴火があった。これらの中では、 1815年の Indonesia での Tambora 噴火は、「夏のない一年」をもたらし、フランスから米国まで収穫できずにいた。 
  (Tambora 火山 : バリ島東側のロンボク海峡近くのSumbawa島にある火山で 4/10-4/12の噴火で死者約 1 万人、その後の飢饉、疫病で 7~ 12万人が死亡したと伝えられている。) )

 さらにもっと酷いケースでは、1257年頃の、Indonesia の Samalas 噴火は、飢饉を引き起こし小氷河期(”little ice age”)のきっかけとなったであろうし、その異常な寒冷期は 19世紀まで続いた可能性がある。
   ( Samalas 火山 : ロンボク海峡にあるロンボク(“Lombok”)島の火山。年代古く
             被害の詳細は定かではない。)   

 かっての噴火の規模は、グリーンランドや南極の氷の中に捕えられ見つけられる硫黄から判定される。 トンガ火山のような、水を吹き上げた何百年前の大きな火山の数は、水がシミや汚れを氷の中に残さないので、未知である。 噴火前、トンガ火山は、海面下およそ 150mにあった。どれくらいの火山が、もし噴火した時に物質を大気まで吹き上げるに十分な海面下の浅さにあるかは、不明である。

Catastrophic risks [ 壊滅的なリスク]
 IPCCは述べている。少なくとも今世紀中には、Pinatubo クラスの噴火は、一つは起こると。しかし、そのような噴火は地球規模の温暖化 — 産業革命以来の人間が作り出した温室効果ガスによって助長されている — の全体的傾向に、ほとんど効果なしで来ている。
 Ingo Bethke, of the Bjerknes Center for Climate Research at the University of Bergen in Norway は、「火山活動は不規則で予測不可で、制御不能である。」と述べている。
 Bethke and Thorne は論じている。「IPCCは、一連の火山のリスクを調査すべきである。我々は、Pinatubo 規模の火山であれば、一つだけなら対処できる。しかし、気候変動の中にあって、いくつもの噴火が起きれば、社会にとっては大きな試練となるであろう。」
 予測不能の中にあって、しかしながら、何人かの科学者は、気候変動は、氷河の重量が火山の蓋を押さえている、いくつかの氷のある地域では、噴火をたびたび起こさせるであろう、と述べている。例えば、 Iceland では、約 12,000年前の最後の氷河期の終了は、噴火の回数が増えたのと、期を一つにしている。その時は、最近の噴火回数より、約 100回も多かった。そして、気候変動とリンクした雨の土砂降りは、火山の斜面を侵食する可能性がある。
2018年、ハワイで起こった異常なる大雨が Kilauea 火山の側面を弱めてしまった可能性がある。

Geoengineering [ 地球工学 ]
 各国の政府が、長い時間をかけて解決策を探求する一方で、地球を冷やす近道として、何人かの科学者たちは、慎重に太陽光を曇らせることに前向きである。 Pinatubo 噴火のような靄や霞 — おそらく硫黄を成層圏に吹き上げる特殊な飛行物体の一編隊によって — を一年あまり持続させる時間稼ぎは可能であろう。
 昨年、米国のある新興企業 (“start-up”) “Make Sunsets” は、成層圏に二酸化硫黄を積んだ気球を投入し始めた。その会社は、”cooling credit” として、硫黄 1 gram $10.- で売り始めた。それは一年間で二酸化炭素(炭酸ガス)1 ton 分の温室効果と相殺出来ると謳っている。それでは、費用は掛かりすぎである。何故ならば、炭酸ガスは大気中では、数百年の間、留まり続けることが出来る。その会社の売り上げは、この8月には、$ 2,852.- であった。

 多くの科学者たちは、そのような geoengineering に反対している。それは、気候の型、傾向を乱すであろうし、いくつかの国々に排出の大幅削減を避ける口実を与えるであろうから。Mr. Voemel at NCAR は言った。「私に第二の地球を与えて下さい。そうすれば、それ(気球を飛ばすこと)は、一つの good idea です。」「そして、貰った私の地球では、それをしないで下さい。」

                     [ 完 ] ( 訳 : 芋森 )

 

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