【投稿】国際司法裁:イスラエルへの大量虐殺阻止命令--経済危機論(130)

<<バイデン・ネタニヤフ政権への痛打>>
1/26、オランダ・ハーグに本部を置く国連の国連の最高司法機関・国際司法裁判所(ICJ)は、パレスチナのガザ地区でイスラエルが国際条約違反のジェノサイドを行っているとして南アフリカが起こした訴訟で、イスラエルに対してジェノサイド・大量虐殺を防止するためのあらゆる措置を取ることを命じ、「殺害、重度の身体的および精神的危害を与える、全体的または物理的破壊をもたらすために集団に生活条件を与える」などの大量虐殺に相当する犯罪を防止するために「権限の範囲内であらゆる措置を講じる」よう命じる判決を下したたのである。

 1948年、国連総会で採択されたジェノサイド条約(集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約)には、「国民的、人種的、民族的又は宗教的な集団の全部又は一部を破壊する意図をもって行われる」行為を処罰することを明記しており、ICJの命令には法的拘束力があり、締約国であるイスラエルは順守しなければならないのである。
法廷で裁判官が読み上げた声明の中で、「国際司法裁判所はイスラエルに対し、大量虐殺と大量虐殺の扇動を阻止するために、権限の範囲内であらゆる措置を講じるよう要求」、ICJ命令を1か月以内に発効させるために講じられたすべての措置について1か月以内に報告書を提出するなど、ガザで何が起きているかの証拠を保存すべきことを命じている。
法廷は同時に、大統領や国防大臣を含む複数のイスラエル政府高官による大量虐殺を擁護する発言にも厳しく言及し、政府やその他の当局者による声明は、大量虐殺の犯罪を立証しようとする際の「意図」要素の重要な要素を形成することを明らかにしている。

ICJはイスラエルに対し、大量虐殺行為を防ぐための6つの暫定措置を講じるよう命じており、「大量虐殺への直接的かつ公的な扇動を阻止し、処罰する」こと、「緊急に必要な基本的サービスと人道支援の提供を可能にする即時かつ効果的な措置を講じる」こと、パレスチナ民間人を保護すること、ガザで出産する約5万人の女性を保護すること、「パレスチナ人に対する虐殺犯罪の防止と処罰に関する条約第2条および第3条の範囲内の行為の申し立てに関連する証拠の破壊を防止し、確実に保存するための効果的な措置を講じる」ことを命じている。
裁判長であるジョーン・ドナヒュー判事は、命令の緊急性について、「ガザの医療制度は崩壊しつつあります。ガザには安全な場所はありません。イスラエル国防軍による絶え間ない砲撃の中で、避難所や生き残るための必需品がない中、限られた人道支援さえ不可能にする絶望的な状況により、治安が崩壊し、近いうちに完全に崩壊するだろうと私は予想しています。伝染病や近隣諸国への大量避難の圧力の増大など、さらに悪い状況が展開する可能性がある。私たちは人道体制が崩壊する深刻な危険に直面しています。状況は急速に大惨事へと悪化しており、パレスチナ人全体と地域の平和と安全に取り返しのつかない影響を与える可能性がある。このような結果は何としてでも避けなければなりません」と強調している。
そしてドナヒュー判事は、イスラエル国防大臣やイスラエル大統領による大量虐殺の意図を示す明確な声明、「彼らの骨を折るまで戦う」という誓約や、ヨアヴ・ガラント国防大臣のパレスチナ人を「人獣」「人間の動物」と表現し「それに合わせて行動する」とした発言など、「イスラエル政府高官らによる明らかに大量虐殺的で非人間的な発言」を厳しく指摘している。
このような発言では、バイデン氏自身も追及されるべきであろう。彼は、昨年12/12に、大統領選関連の会合で、パレスチナ人について「彼らは動物です They’re animals. They’re animals. 」と繰り返していたのである。バイデン氏にとって皮肉なのは、2010年に世界法廷に着任する前は米国国務省と財務省で働いていた米国人弁護士である現在のICJ裁判長であるジョーン・ドナヒュー判事によって今回の判決が読み上げられたことであろう。

判決は、最も肝心な「即時停戦」には言及していないが、具体的な「大量虐殺阻止命令」は、停戦がなければどれ一つとして実現できない命令である。

バイデン・米政権、ネタニヤフ・イスラエル政権にとっては最も手厳しい痛打である。両政権は、もはや孤立せざるを得ず、とりわけ、ネタニヤフ政権を無条件で支持し、財政のみならず、大量の武器弾薬の供給から共同作戦にまで至る、ジェノサイド行為を支援してきたバイデン政権にとっては、取り返しの利かない打撃となろう。

<<「世界が黙って見ているわけにはいかない」>>
今回の裁判を主導した南アフリカ当局は、声明で、国際司法裁の決定を「国際法の支配に対する決定的な勝利であり、パレスチナ人民の正義の追求における重要なマイルストーン」であると称賛すると同時に、この判決が意味するのは停戦が必要であるということであると述べ、ラマポーザ大統領は、「この命令はイスラエルを拘束するものであり、大量虐殺犯罪の防止と処罰に関する条約の締約国すべてによって尊重されなければならない」と強調している。

イスラム抵抗運動 — ハマスは、1/26 「この決定は、ガザにおけるパレスチナ人民に対するあらゆる形態の侵略の停止を意味する。私たちは国際社会に対し、裁判所の判決を履行するよう敵に義務付け、我が国国民に対する進行中の「大量虐殺の犯罪」を阻止するよう求めます。私たちハマス運動に携わる者は、南アフリカ共和国の真の立場、パレスチナ人民に対するその支援と大義の正義、ガザ地区への侵略を撃退するための真摯な努力、そしてパレスチナ人民による残忍な犯罪の拒否を高く評価しています。私たちはまた、この崇高な人道的行動への支持を表明したすべての国に感謝の意を表します。」と表明している。
アムネスティ・インターナショナル事務総長のアニエス・カラマールは、「今日の決定は、大量虐殺を防止し、残虐犯罪のすべての被害者を保護する上での国際法の重要な役割を権威ある形で思い出させるものである」と述べ、「これは、イスラエルがガザ地区の人口を大量に殺戮し、前例のない規模でパレスチナ人に対して死、恐怖、苦しみを解き放つ無慈悲な軍事作戦を追求する中、世界が黙って見ているわけにはいかないという明確なメッセージを送っている。」と述べている。
 イスラエルの攻撃により、ガザ地区では少なくとも1万人の子供たちが死亡している。「名前を知ろう」プロジェクト(Know Their Names 10,000 project)は1/25、最新アップデートを発表し、これまでに殺害された数千人の子どもたちの一部を特定、幼児から17歳までの4,216人のパレスチナ人が登録されている。 名前が挙がった人のうち、75%は10代まで生きておらず、半数以上が10歳未満、500人近くが2歳未満であった。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、公式声明で「イスラエルに対する大量虐殺の告発は虚偽であるだけでなく、言語道断であり、世界中のまともな人々はそれを拒否すべきである。イスラエルは今後も大量虐殺テロ組織ハマスからの防衛を続けるだろう。…私たちの戦争はハマスのテロリストに対するものであり、パレスチナ民間人に対するものではありません。」と、あくまでも大量虐殺行為を「ハマスからの防衛」として、続行することをあきらかにしている。実際、ICJが判決を下している最中でさえ、イスラエル軍はガザ南部のハーンユニスに爆弾を投下している。法廷から扇動容疑で名指しされたギャラント国防相は、イスラエルは法廷から「道徳について説教される必要はない」と吐き捨てている。

バイデン政権はICJの決定を尊重するかどうかについて明言を避けているが、米国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、1/26、記者団に対し、「イスラエル国防軍による大量虐殺の意図や行動の主張を裏付ける証拠は見当たらない」と述べ、ICJ訴訟は違法であるというこれまでの発言を支持すると付け加え、 「無益で、逆効果で、実際には何の根拠もありません。」と、イスラエルのジェノサイド行為を全面的に擁護している。

バイデン政権と歩調を合わせてきたはずの、ヨーロッパ連合(EU)は、1/26、上級代表と欧州委員会による共同声明を発表し、「我々は、暫定措置の指示を求める南アフリカの要請に対する国際司法裁判所の本日の命令に留意する。
EUは、国連の主要司法機関である国際司法裁判所への継続的な支援を再確認する。国際司法裁判所の命令は締約国を拘束し、締約国はそれに従わなければなりません。 EUは、それらが完全かつ即時かつ効果的に実施されることを期待している。」として、「国際司法裁判所の命令が完全かつ即時かつ効果的に実施されることを期待」していると、明らかに、米・イスラエル政権とは異なる立場を表明している。

もちろん、ICJの判決だけでジェノサイドを止めることはできない。虐殺を止められるのは、「世界が黙って見ているわけにはいかない」という、世界中の大衆運動、政府への圧力、米、イスラエル政権を孤立化させる闘いである。

世界から孤立するバイデン政権が、ICJに反論するだけでなく、その判決の履行を妨げ、あくまでもイスラエル支援を続ければ、バイデン政権は自己崩壊への道を加速させ、政治的経済的危機をより一層深刻化させるであろう。
(生駒 敬)

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