【投稿】米大統領選:トランプ苦戦への急展開--経済危機論(144)

<<「団結」とは対極の憎悪と脅迫>>
7/13のトランプ元大統領・暗殺未遂事件の直後、拳を突き上げながら「Fight,Fight(戦え、戦え)!」と叫び、7/15の共和党全国大会(RNC)において、トランプ氏は右耳包帯で出席、7/18の共和党大統領候補の指名受諾演説で、「私は今夜、年齢、性別、民主党、共和党、無党派、黒人、白人、アジア系、ヒスパニックを問わず、すべての国民に忠誠と友情の手を差し伸べる」 として、「団結」を促す発言を行っている。

こうした流れの中で、米ニューズウィーク誌は、「銃撃事件後、ドナルド・トランプ氏の選挙勝利の可能性は急上昇」と報じ、トランプ氏が大統領選でほぼ確実と発表したのであった。大半の報道も同様であった。世論調査でも、トランプ氏とハリス氏のどちらかを選べと言われた場合、有権者の49%がトランプ氏を支持し、ハリス氏を支持するのはわずか42%で、残りの9%は未定だと、報じられた。

ところが、である。この「団結」を訴えたはずの90分にも及ぶトランプ氏の演説の中身は、団結とはまるで対極の憎悪と脅迫に満ちたスピーチで、国家が衰退しているという陳腐な話に没頭したかと思うと、米国史上最大の移民の強制送還を要求し、トランプ氏を支持しない全米自動車労働組合を攻撃し、同労組が自らの雇用を海外に流出させていると非難し、雇用を維持したいならトランプ氏を支持せよと要求し、バイデン氏と同様に演説中に思考の流れがわからなくなり、米国とメキシコの国境を閉鎖し、「就任初日に」電気自動車を廃止するとさえ約束し、会場はだらけ、熱気も一気に冷めてしまう有様であった。保守系反トランプ団体リンカーン・プロジェクトの共同創設者リック・ウィルソン氏は、「トランプ氏の演説は、客観的に見て、近代史上最悪の党大会受諾演説だった。最初から長らく延期された終わりまで、まとまりのない惨事であり、これを改善できるものは何もない」と述べている

そしてこの「憎悪と脅迫」が一体となったものの象徴が、2020年の選挙が「盗まれた」という大嘘であろう。この共和党全国大会は、オハイオ州上院議員JD・ヴァンスを副大統領に指名したことによって、党内では意味のある反論は完全に排除されている。かつては「トランプ反対派」だったヴァンスは、この大嘘を公然と支持し、大嘘のスポークスマンとなったのである。彼は、2020年の大統領選挙の前後、「大規模な」違法な投票が存在したと主張し、選挙に関する陰謀説を広め、ABCのインタビューで、もし2021年1月6日に副大統領だったらどうしていたかと尋ねられたとき、ヴァンス氏は選挙結果を認定しなかっただろうと認めている。選挙否定論者による共和党の完全な乗っ取りが全面的に明らかになったのである。ヴァンス氏は、その象徴なのである。

そしてこのヴァンス氏のもとの雇用主が、シリコンバレーの極右IT界の大富豪で、テクノ・リバタリアンとして著名なベンチャーキャピタリストでPayPalの共同創業者であるピーター・ティール(Peter Thiel)氏である。ティール氏は、2016年の大統領選でトランプを支持したばかりか、共和党全国大会で応援演説までしており、トランプ政権発足時には、アップル、アマゾン、アルファベット、フェイスブック、マイクロソフト、それぞれのCEO、イーロン・マスクらを一堂に集め、新大統領を囲む会合を仕切り、ヴァンス氏を上院議員からさらに、ワシントンへの使者として活用、バイデン政権は、仮想通貨業界を妨害し、AIを規制しようとしていると主張、トランプ支持のPACに多額の寄付をしているのである。ワシントン・ポスト紙は、「ティール氏は2016年の選挙運動中にトランプ氏の巨額献金者となったが、同氏の考えを知る複数の人物によると、最終的には政権の無秩序さや科学とイノベーションへの重点の欠如に失望した」と指摘している。独占資本間、金融資本間、既存IT界と新興IT界間の矛盾と対立の表面化でもある。

<<ハリス氏が激戦州でトランプ氏の支持率を上回る>>
事態は急変、急展開するものである。
7/29フォックス・ニュースの世論調査でハリス氏が激戦州でトランプ氏の支持率を上回ると発表され、ネット上で騒然となっている。フォックスは激戦州に関する世論調査を発表し、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州、ミネソタ州、ミシガン州でハリス氏の支持率がトランプ氏を上回ることを明らかにした。右派偏向・トランプ肩入れ報道のフォックス、「数字よりもいいのは、これがフォックス・ニュースの世論調査だという事実だ」(@kinsellawarren)と、指摘される事態である。

トランプ氏の支持率は、暗殺未遂事件の直後は確かに上昇したかに見えたのであるが、バイデン氏のハリス氏(59)への交代で、一挙に局面が変わり、今や、パニックに陥っているのはトランプ陣営なのである。
トランプ氏は年を取り過ぎている(78)、弱っている、認知的にも問題症状が増大している。まさにバイデン氏を悩ませた疑問が、今度はトランプ氏に降りかかり、現実は否定しようがないのである。
ハリス氏に対抗するうえで、人種・性差別発言を推し進めると、事態はさらに悪化する。共和党の一部下院議員らは、ハリス氏をダイバーシティー(多様性)とエクイティー(公平性)、インクルージョン(包摂)の頭文字を取った「DEI」 採用と呼び、有色人種の女性だから副大統領になれたとの見方を暗に示したが、これも逆効果である。トランプ氏は、ハリス氏を「サンフランシスコを破壊した弱い検事」「岩のように愚か」「史上最悪の国境担当」と非難し、ハリス氏の笑い声をからかい、「ラフィン・カマラ 」と 「ライイン・カマラ 」という二つのあだ名を広めているが、盛り上がらない。

逆に言えば、ハリス氏は、副大統領として、バイデンが行った最悪の行為のすべてにおいて彼と緊密に連携していたことが問われている。トランプ氏との対決は、その路線をいかに修正し、転換するかにかかっている、と言えよう。
(生駒 敬)

カテゴリー: 政治, 生駒 敬, 経済, 経済危機論 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA