【投稿】サウジ・アラムコ石油施設攻撃をめぐって 経済危機論(3)

<<ドローン攻撃>>
9/14、サウジアラビアの国営石油会社サウジ・アラムコが無人機による攻撃を受け、爆発炎上、2カ所(アブカイクとクライス)の石油施設が大規模に破壊された。いずれも世界最大級の精製プラントであり、原油の輸出拠点としても世界最大で、アブカイクの施設だけでアラムコの昨年の生産量(日量1000万バレル)の50%を処理している。
アメリカが支援し、サウジが主導する軍事介入で無差別空爆を受け、5年にもわたってインフラが破壊され、人道危機に陥れられている隣国イエメン、その反政府武装組織フーシ派(Huthi)が犯行声明を出し、10機のドローンで攻撃したとし、「今後も作戦を拡大させる」と主張している。フーシ派は過去にも、サウジの標的をドローンやミサイルで攻撃している。
この攻撃によりサウジの石油生産は日量570万バレル減少する見通しで、原油価格は急上昇。サウジ当局者によると、「深刻」な供給混乱は数週間ないし数カ月続く見通しだという。
サウジアラビアは、アメリカのパトリオット・ミサイル防衛システムや、最先端のレーダー技術を購入するのに、何十億ドルも費やし、最高のアメリカの軍事技術でこれら石油精製プラントは保護されていたはずである。それが、サウジアラビア領域内最長1,000キロも無人戦闘機の侵入を許し、いともたやすく打破され、アメリカは戦略上の防衛約束を果たすことできなかった。しかもドローンは、石油施設を攻撃するのに十分強力な武器を搭載して長距離飛行が可能であることを示し、世界経済に重要な位置を占める石油施設がいかに脆弱なものであるか、露呈されてしまったのである。
あわてたトランプ米大統領は9/14、サウジアラムコの石油施設が攻撃を受けると即座に米国は「臨戦態勢にある」とツイッターに投稿。ポンペオ国務長官が何の証拠も上げることなく、イランを非難、無理やりイランに悪党の役を振り当てたのだと言えよう。
週明けの9/16、ニューヨークの原油は2009年以来の1日での上昇幅を記録し、15%上昇の1バレル62.9ドル、欧州でも北海ブレンドは、30年ぶりの15%上昇で69ドルを記録している。サウジが通常の生産レベルを回復するのにかかる時間が長いほど、石油の価格は高くなるのは当然であろう。

<<「武力攻撃を行う可能性は常にある」>>
しかし問題はそれ以上に、トランプ政権の対応次第によって、イランとの間に「臨戦態勢」に入り、中東で大規模な戦争状態が引き起こされた場合、石油価格の急上昇にとどまらない、世界経済を破壊し、危険極まりない世界戦争に発展しかねない事態がもたらされることである。
危険なのは、サウジアラビアはアメリカに歩調を合わせ、アラムコの石油処理施設を9月14日に攻撃したのはイランだと主張し始めていることである。9/18、サウジ主導の有志連合軍の報道官、トゥルキ・アルマリキ大佐は記者会見を開き、「現在、発射地点の確認作業している」とし、2カ所の石油施設の攻撃に使用されたと見られる武器をリストアップ、「イラン政府とイラン革命防衛隊」が所有するものだとしたが、記者団が、イラン軍が攻撃を実行したと断定できるのかと、たたみかけると、明確な返答を避けざるをえなかった。
一方、イラン当局は、9/18に米政府に送った公式文書で、14日の攻撃への関与を改めて否定し、米軍が何らかの攻撃を行えば、わが国は即座に対応するが、その場合の標的は攻撃を実行した部隊だけにとどまらない、と警告。イラン最高安全保障委員会のアリ・シャムハニ事務局長は同じ9/18、「緊張を緩和し、いかなる紛争も避け、対話を通じて地域の危機を解決することが、イランの戦略的政策である」と緊張緩和の姿勢を明確にしている。
9/20、ムニューシン米財務長官は「イランによるサウジへの恥知らずな攻撃は容認できない」と表明、イランの中央銀行などを対象とした新たな制裁を発表、中銀がイラン政府に残されていた最後の資金源だとした上で「米国は引き続き最大限の圧力をかけていく。今回の対応は非常に大規模なもので、イランに通じるすべての資金源を絶った」と述べている。
問題は、トランプ大統領がイランに対する武力攻撃の可能性について、「米国はいつでも用意ができており、武力攻撃を行う可能性は常にある」と明言したことである。しかし同時にトランプ氏は、今回の対応について「最高度の制裁」を科したと指摘し、対立は高まっているが平和的な解決策を望むとも強調している。

<<ボルトン解任>>
トランプ氏が逡巡していることは間違いないであろう。ここで、9/10、トランプ氏がネオコンのジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を解任した数日以内にこの攻撃が発生したという事実は偶然ではないともいえよう。トランプ氏が「もしジョン(ボルトン)の言う通りにしていたら、今ごろ米国は4つの戦争を抱えていたところだ」と漏らしたという、その4つの戦争というのは、トランプ政権が北朝鮮、イランに対する先制攻撃を行わず、ベネズエラへの介入を避け、アフガニスタンの和平交渉を進展させる方向にかじを切るかどうかの選択であり、ボルトン解任の発表後、「私はこれまで彼の多くの提案には、他の政権幹部と同様に強く反対してきた」と述べている。
逆に言えば、ボルトンやネオコンは、トランプ氏を引き返すことができないワナに追い込み、取り込み、そのワナにトランプ氏が落ちなかったことに対し、まだまだ別の手があることを暗示している。それらが、トランプ氏をして「武力攻撃を行う可能性は常にある」と言わせているのである。ネオコンの閣僚や補佐官を多く採用してきたのはトランプ氏自身なのである。ボルトン解任は、ネオコンにとっては打撃であったが、トランプ氏が逡巡にとどまっている限り、事態はより一層悪化する可能性さえある。
たとえ大規模な戦争状態に突入しなくても、緊張状態、一触即発の状態を続けている限り、そして大胆な緊張緩和政策がとられない限り、原油価格は安定せず、より一層上昇することが避けられないであろう。
そして警戒し、憂慮しなければならないのは、経済危機の進行はとりわけ原油価格の上昇と密接な関係にあるということである。2007年にサンフランシスコ連邦準備銀行が発表した記事によると、それまでに発生した過去7回の米国の景気後退のうち5回は「原油価格の大幅な上昇が先行した」ことを明らかにしている。その発表の翌年、あのリーマンショックの事態となったのである。その不況突入の直前、史上最大の原油価格急騰が先行していたのである。
(生駒 敬)

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