【投稿】トランプの「パリ協定」脱退とグローバル・サウス

【投稿】トランプの「パリ協定」脱退とグローバル・サウス

                              福井 杉本達也

1 トランプ「パリ協定」から再離脱

トランプ米大統領は1月20日の就任日に気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの再離脱を表明した。また、同時に電気自動車(EV)の促進策を廃止する大統領令にも署名した。バイデン前大統領の2030年までに新車販売の半数をEVなどとする目標は取り下げられる。補助金などの優遇策も撤廃される。世界経済フォーラム(WEF:ダボス会議)は昨年12月、猛暑などの気候変動による上場企業の固定資産の損失が35年までに年間6000億ドルになるとの分析結果を公表したが(日経:2025.1.22)、まともな根拠は示されていない。日経新聞1月24日の社説は、「トランプ政権の脱炭素離脱は言語道断だ」と題し、「世界では温暖化の影響とみられる異常気象が常態化し、米国内でもハリケーンや竜巻、山火事などの災害が頻発する。中国に次ぐ世界2位の温暖化ガス排出国が脱炭素の流れを無視するのは無責任の極みと断じざるを得ない。」と書いた。

しかし、カリフォルニアの山火事と地球温暖化は無関係である。乾燥や熱波は山火事のきっかけにはなりうるが、根本的な要因ではない。乾燥や熱波は地球温暖化が無くても起きる。社説は全く根拠のない決めつけである。地球上のあらゆる気候の異変を地球温暖化と結びつけるのは暴論である。

2 石炭産業「悪者論」でグローバル・サウスの発展を阻害する

米国では石炭の90%が発電用に使われているが、発電に占める火力発電所の割合は2013年には16%となっており、10年前の40%から大きく下がっている。しかし、ペンシルバニア州などラストベルトのスイング州も含まれ、トランプ氏にとっては重要な地域である。第1次トランプ政権でパリ協定離脱した時は、『東洋経済』のコラム「少数異見」では、「気候変動を重視する人たちが、石炭を『迷惑産業』扱いしていることにある。最近はやりのESG(環境・社会・ガパナンス)投資においては、石炭産業は原子力以上の悪玉とされている。放射能CO2が放射能よりも危険、とはいかがなものか。今の欧米社会は、石炭に過度な『原罪意識』を有しているように見える。」と書いていた(「米国のパリ協定離脱のもう一つの側面」『東洋経済』2017.6.24)。

そもそも、石炭産業「悪者論」は石炭火力発電所の占める割合が多い、中国やインドなどグローバル・サウスの発展を阻止するために企てられたものである。世界有数のCO2排出国といわれるインドネシアも発電の66%を石炭火力発電に頼っている。仮に、「パリ協定」が強制するような、気候変動目標を2050年までに達成するには、クリーンエネルギーや蓄電設備、送電網に少なくとも1兆2000億ドル、さらに石炭火力発電所の廃止には280億ドルの費用がかかると算出されている。しかし、専門家は計画の実現性に疑問を投げかけている(日経=FT:2025.1.26)。「パリ協定」以降は、こうした投資額を欧米諸国が分担するのか、それともグローバル・サウスが大部分を負担するのかで交渉は行き詰まっている。11月に行われたアゼルバイジャンでのCOP29においても、先進国から途上国への支援を 2035年までに現在の年1000億ドルの3倍の年3000億ドルに引き上げるという合意はしたものの、資金の分担や温室効果ガスの削減目標について、何一つ具体的なものは決まらなかった(日経:2024.11.25)。ようするに「協定」としては座礁している。

3 原発を推進する目的の「脱炭素」

福井県原子力平和利用協議会が定期的に行っている新聞広告では、COP28においては「化石燃糾の代替に向けて再生可能工ネルギーや原子力の活用、炭素のゼロ低排出技術を加速させる。」ということが決められたとし、「発電時に温室効果がスを排出しない原子力発電所は、電源の脱炭素化につながることとなり世界的な期待ガ高まっています」。とし、 COP28では「日・仏・米・英を含む一部の有志国 (22力国)ガ世界全体の原子力発電の設備容量を 2050年まで3倍に増すと宣言しました」と書いている(福井新聞:2024.6.8)(COP29で31カ国に)。

ようするに、「脱炭素」という名のもとの「原発の推進」が本来の目的である。さらに上記広告おいて「政府はGX(グリーン・トランスフォーメーショシ)推進計画において、福島事故以降、初めて原子力発電所のリプレースを許可し運転期間の延長も認めています」と、なんでもありの居直りである(福井新聞:同上)。政府の推進するCXが、原発推進の旗振り役となっている。

4 EVの不振について

欧州のEV需要は、ドイツなどが購入補助金を停止した影響により低迷している。新車販売における販売比率は23年の16%から、24年は15%に下がった。障害となっているのはEVの高コストだ。エンジン車に比べて車体価格は7~8割高い。その象徴がEVの不振にあえぐVWの独3工場の閉鎖提案であった。しかし。労働組合側の強い抵抗にあい、12月20日には国内の工場閉鎖を見送ると発表した。同時に2030年までに独国内の従業員3万5000人の一削減も決めた(日経:2024.12.22)。VWが一気に失速した原因は中国の低価格EVにある。中国でのEVの平均価格は24年時点で2万8800ドル。欧州の5万9600ドルの半分以下となっている。。北米の5万2200ドル、日本・韓国の4万6600ドルと比較しても突出して低い。車載電池のコスト削減で先行した成果が出ている(日経:2024.11.1)。

その典型が、破産した欧州のEV用電池企業ノースボルトである。ノースボルトは中国からの「EVの津波」を回避するために、欧州でEV用電池を製造しようという目的で2016年にスウェーデンに設立された。ノースボルト社の電池産業への参入は、最初から「不純」で、技術や価格ではなく、水力発電や風力発電などの環境に優しいエネルギーのみを使って生産するというばかげた目標を掲げ、技術や価格は二の次に置かれていた。そのため、水力発電がある北極圏の極寒の小さな港町シェレフテオに工場を開設したが、そのような場所に欧州労働者が留まることはなかった。また、EV用電池製造工場をゼロから構築するにはどうすればよいかを知っているものはほとんどなく、中国や韓国から工場設備を提供してもらうしかなかった。ノースボルトの破綻はEUの技術力の限界であり、成熟したEV用電池のサプライチェーンをEUでは育てられないことを明らかにした(遠藤誉:2024.11.30)。さらに中国のBYDはPHV市場でも2025年末に日本市場に殴り込みをかける。価格はトヨタの半額である。EV市場の頭打ちをPHV市場で補おうとするものである(写真:BYD Auto Japan)。

欧州の自動車産業は、エンジン車では中国に勝ち目がないということで、「環境規制」という名のもとの非関税障壁をつくり、EVにシフトしたが、肝心の技術力もなかったということである。胡散臭い欧州発の「脱炭素」では勝ち目がないことを示している。トランプの「パリ協定」離脱宣言は、それを「成文化」したに過ぎない。

 

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