<<一方的関税発動の大統領令>>
2/1、トランプ米大統領は、カナダとメキシコに25%、中国に10%の関税を課すことを明らかにした。予告されていたことではあるが、新たな貿易戦争の開始を宣言したのである。3/1への延期説もささやかれていたが、一蹴され、2月4日に発効予定である。対象国との事前協議・交渉・すり合わせなしの、国際ルールを無視した一方的発動である。
その理由として、「第一に、我が国に非常にひどく、非常に多くの人々が流入していることだ。第二に、麻薬、フェンタニル、その他あらゆるものが我が国に入ってきている。第三に、赤字という形でカナダとメキシコに与えている巨額の補助金だ」と述べている。
この大統領命令には、各国が報復として同様の対応をした場合、米国の関税をさらに引き上げるとする報復条項までも含まれている。発令された関税は、これらの国に対する既存の貿易関税に上乗せされる。対象となった3カ国は米国の輸入の最大の3カ国であり、総量のほぼ半分を占めている。
直ちに、この発表の数時間後、カナダのトルドー首相は、報復として米国製品に25%の関税を課すと発表。2/4からは300億カナダドル相当の米国製品に、21日後には1250億カナダドル相当の米国製品に25%の関税を課すという。
「今夜、私はカナダが米国の貿易措置に対抗し、1550億ドル相当の米国製品に25%の関税を課すことを発表する」と記者会見で述べ、「これらの関税は広範囲に及び、日用品も含まれる」と述べ、アルコール、果物、野菜、衣類、靴を挙げ、直接関税に加え、「いくつかの非関税措置」も検討しており、これには重要な鉱物、エネルギー調達、その他の貿易パートナーシップへの制限が含まれる可能性がある、「我々はカナダのために断固たる立場を取る」と明言。
同時に「我々は、両国が今後も世界最高の隣国であり続けるよう断固たる立場を取る」とも付け加え、国民に国内企業を支援するよう要請した。
メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領も、トランプ氏の関税発動に対して、「プランA、プランB、プランC」があると述べ 「プランA」として、米国からメキシコへの輸出に報復関税を課すことを明らかにしている。
同氏はさらに、トランプ大統領がメキシコのカルテルを外国テロ組織と宣言し、ヘグセス米国防長官が、米国がメキシコのカルテルに対して特別作戦を実施できると述べたことに対して反論。「プランB」を発動するとして、「我々は、メキシコ政府が犯罪組織と同盟関係にあると非難するホワイトハウスによる中傷を断固として拒否する」と述べ、「もしそのような同盟関係がどこかに存在するとすれば、それはこれらの犯罪組織に高性能の武器を販売している米国の武器庫であり、米国司法省自身がそれを証明している」と述べ、「米国が麻薬を密売し暴力を生み出す犯罪集団と真に闘いたいのであれば、我々は包括的に協力しなければならない」、「しかし、常に責任共有、相互信頼、協力、そして何よりも譲れない主権の尊重という原則の下で。」なければならないと強調。すでにメキシコは、わずか4か月でメキシコの治安部隊が2000万回分のフェンタニルを含む40トン以上の麻薬を押収し、組織犯罪に関係する1万人以上を逮捕したことを明らかにし、ワシントンが麻薬乱用と戦うことに真剣であれば、「メキシコで行ったように、これらの麻薬の消費を防ぎ、若者の面倒を見るための大規模なキャンペーンを開始するだろう」と反論している。
トランプ大統領は、EUに対しても、「欧州連合に関税を課す」と述べている。記者会見で、トランプ氏は、貿易問題で欧州連合が米国を不公平に扱っていると強調。特に自動車や農業などの分野で、欧州市場が米国の輸出品をほぼ締め出していると指摘。「彼らは米国の自動車を輸入せず、基本的に農産物を輸入せず、ほとんど何も輸入しない」と述べた。EU製品への新しい関税は相当なものになると予想されるが、対象となる製品と関税率の具体的な詳細はまだ明らかにされていない。EUはすでに、関税が実施されれば報復する用意があることを示唆している。
もちろん、中国も米国の主張に反論し、中国外交部の報道官は、「米国が一方的に追加関税を課す行為は世界貿易機関(WTO)の規則に甚だしく違反しており、米国自身の問題解決に寄与しないばかりか、中米の正常な経済貿易協力にも大きな損害を与えるとして、中国は米国の誤った措置に対してWTOに提訴するとともに、相応の報復措置を取り、自国の権益を断固として守る」と述べ、さらに商務部の報道官は、「米国が一方的に追加関税を課す行為は世界貿易機関(WTO)の規則に甚だしく違反しており、米国自身の問題解決に寄与しないばかりか、中米の正常な経済貿易協力にも大きな損害を与えるとして、中国は米国の誤った措置に対してWTOに提訴するとともに、相応の報復措置を取り、自国の権益を断固として守る」と反論している。
<<傲慢さの崩壊へ>>
すでに事態は、一方的関税発動が実施に移され、世界的な貿易・関税戦争に突入する段階に移行しつつある。
その結果、すでにこの関税・貿易制裁によって、米国への輸入を大きく減少・阻止した結果として、同時に米ドルの為替レートは短期的には急騰する傾向を示し、インフレ懸念が急拡大し、金利は下がるどころか、高止まりすることが想定されている。
その結果としての為替レートの変化は、メキシコとカナダのみならず、ドル債務を負っている多くの諸国の経済を圧迫し、事実上ドル債務の返済を停止せざるを得ない事態に追い込むであろう。すでに、メキシコペソ、カナダドル、人民元はあらゆる方向に動いたが、米ドルはそれに応じて急騰している。
「アメリカ第一主義」、世界の覇権国としてのトランプ外交は、外国がどう反応するかをほとんど考慮するものではなく、とにかく「俺様が第一」、諸国が米国の行動に何の反発もなく受動的に従うだろうと単純に想定する、その傲慢さに、トランプ政権の本質が露呈されているのである。
その傲慢さを支えているのは、米国は他の国々を束縛するような財政的制約がない唯一の経済国だということである。米国の負債は自国通貨建てであり、余剰ドルを世界に氾濫させることで自国の能力を超えて支出する能力に制限はない、と。しかし、今やその過信はすでに崩壊しつつあり、トランプ政権自身がその崩壊速度を加速させているのである。

トランプ大統領は、コスト上昇が消費者に転嫁される可能性があり、自身の行動が短期的な混乱を引き起こす可能性があることを認めたが、金融市場への影響については懸念していないと述べた。(Reuters February 2, 2025)
結果として、今回の関税戦争政策は、米国の物価上昇をさらに加速させることは明らかである。トランプ氏自身、「コスト上昇が消費者に転嫁される可能性がある」ことを認めている(Reuters February 2, 2025)。
「関税を使って米国の雇用を守る代わりに、トランプ大統領は自尊心を満たし、関税を使って他国とのつまらない争いを繰り広げ、米国人の物価を引き上げている」と、議会進歩派議員連盟のグレッグ・カサール議長(テキサス州民主党)は声明で述べている。「ここ数日、トランプ氏が行ったことはすべて、メディケイドの閉鎖から全面関税や制裁まで、すべて自分と億万長者の友人たちを助けるためだった。下院共和党は、米国人の物価上昇、制裁による移民増加、そして人々が必要とする依存症治療や医療を奪うことで悪化した過剰摂取危機の責任を負わされるだろう」と。ようやく民主党も気が付いたか、と言う発言であるが、正鵠を射ている、と言えよう。
さらに米国自身にとって致命的なことは、米国と海外の金融市場の混乱、サプライチェーンの混乱、航空機から情報技術まであらゆるものの米国からの輸出の中断までをももたらしかねないことである。
トランプ大統領の関税・貿易戦争は裏目に出る恐れがあり、その政治的経済的危機をより一層激化させる可能性が大なのである。避けがたい、ブーメランの逆襲である。
(生駒 敬)