【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機
福井 杉本達也
1 米国債の満期8兆ドルと利払い1兆ドルが払えない
「トランプ関税」が新聞・テレビ・SNSを埋め尽くしているが、全く報じられないその裏を読む必要がある。4月17日の『ビジネス知識源』は「2025 年、26 年の連邦政府が直面する「国債の満期8 兆ドル、財政赤字2 兆ドル、国債の利払い1 兆ドルから来る資金繰り難」でしょう。この点が、ほとんど報じられません。2025 年度は、既発債の借り換え債と、新しい財政赤字分で10 兆ドル(1450 兆円)の米国債を、世界の債券市場で金利を高騰させずにスムーズに売らないと、部分破産の危機になる」と書いている。
『ビジネス知識源』によると、「2025 年度は、37 兆ドルの既発国債の満期償還が8 兆ドル。26 年に約6 兆ドルである。」バイデン政権時に、国債を4 年間で7 兆ドル増やし、ドルをばらまいた。2025年度は既発国債の償還のための借り換え債8 兆ドルに加えて、財政赤字分の国債を2 兆ドル新規に発行して、海外を中心に売らなければければならない。しかし、売れるのか。
2 「マールアラーゴ合意」とは
2月27日付け『Bloomberg』は、「トランプ⽶⼤統領が対外貿易の在り⽅を⼤きく変える積極的な計画を打ち出していることを受け、ドルを意図的に弱くし、⽶国の輸出企業が中国や⽇本などのライバルと競争しやすくする多国間協定の可能性を巡り臆測が⾶び交っている。」「フロリダ州パームビーチにあるトランプ⽒の私邸にちなんで、『マールアラーゴ合意』という。」と報じた。
トランプ⽒は、製造業と輸出の復活を含む⽶国の⻩⾦時代を実現すると約束している。⽶貿易⾚字の⾚字は2024年に1兆2000億ドル(約179兆円)という過去最⼤を記録した。ドル高で、輸⼊品を相対的に安価にすることで⽶国の競争⼒を損なっていると考えている。、現在のドルは過⼤評価されている。⽶政府がドル⾼に対処する何らかの合意を他国と結ぶ動機になる。1985年・⾼インフレ、⾼⾦利、ドル⾼の中「プラザ合意」が締結された。⽶国とフランス、⽇本、英国、旧⻄ドイツの間でドル安に誘導する合意が成⽴した。
「トランプ⽒と政権の経済チームは、⽶国は今後もドル⾼政策を堅持するつもりだと述べており、貿易決済にドルを使わないことを⽬指す新興国に対して関税を課すと」脅し、ドル基軸体制を何としても守ると「世界経済の中⼼におけるドルの役割を⽀える政策を推進しながらも、同時にドル安政策も模索するというのは」二兎を追うような極めて難しいかじ取りとであると『Bloomberg』は報じている。
3 米国債・借金の踏み倒しか
同上『Bloomberg』は「⽶財務省が100年後が満期のゼロクーポン債を発⾏するというアイデアがあるという。既発米国債の償還と利払いを停止し、金融市場を通さず、満期を繰り延べ、⾧期化した「ゼロクーポン債」に強制的に変える。ゼロクーポン債は満期まで利払をしない割引債である。⽶国が安全保障を担保する⾒返りとして、同盟国はこの100年債の購⼊を義務付けられるという案。発⾏済み⽶国債の外国保有分を⻑期ゼロクーポン債に交換するという案もある。参加を拒否する同盟国は、安全保障が担保されなかったり、関税を課されたり、あるいはその両⽅の措置を取られる。
『ビジネス知識源』の解説によれば「1 兆ドルの米国債を、割引金利が5%の50 年のゼロクーポン債に切り替えると、その発行額面は「1 兆ドル÷(1-0.05)の50 乗=1÷0.78=1.28 兆ドル」になります。しかし、米国債が⾧期ゼロクーポン債になると、市場性(市場の金融機関の間で、額面で売買できること)を失って、1/2 くらいは無価値になります。」と書いている。
50年間も持ちっぱなしで利子も払わないとなれば、米国債の部分破産、つまり『借金の踏み倒し』である。日本は政府・民間部門も含め、我々日本人が汗水たらして蓄えた資金である米国への投資額の1/2が踏み倒されると考えたほうがよい。
4 円安で米国債を買い支えた安倍政権
2024年12月16日、故安倍首相夫人の安倍明恵氏が真っ先にトランプ氏(就任前)に面会した。国会議員でもない彼女がなぜ一番に面会したのか。
黒田前日銀総裁は2013年4月から「異次元緩和」を始めた。日銀による円国債の大量買いで、円国債の金利を、ゼロにまで人為的に下げた結果、円が1/2 への下落した。「円の実効レート」は、2012 年100→2024 年55 と45%下がった。円がドルを買い支えたのである。12 年間の「円売り/ドル買い」の超過が円を下げ、ドルを上げてきた原因である。安い金利の円から高金利のドルへ「円キャリー取引」として大量の資金が流れ、戦争経済など財政の大赤字で苦しむ米国債を支えた。2012 年11 月の、安倍政権の前の「ドル・円」は80 円台と円高であった。しかし、2025 年1 月には約160 円。日銀がGDP の1 年分に相当する500 兆円を増発した1 万円の価値は、ドルに対し1/2 に下がった。おかげで、石油・ガスなどエネルギー価格や食料価格などが高騰し、国民は輸入インフレに苦しめられている。円安によって、世界標準のドルにたいする国民の実質賃金と商品価格の切り下げられた。賃上げもインフレにより実質賃金は低下し続け、エンゲル係数は28 %(2024.1~8)と42年ぶりの水準にまで跳ね上がった。安倍政権は国民の生活を犠牲にし続けて究極の売国政策を行い、借金経済で苦しむ米国の財政を支え続けた。これが第1次トランプ政権に評価されたといえる。
5 中国も「踏み倒される」が急速に金に交換している
「人民銀行が発表した3月末の外貨準備の内訳によると金の保有量は2月末から0・1%増え約2292トンだった。22年11月から24年4月まで18カ月連続で増やし、…24年11月から再び増やし、3月末までに28トン 増えた。」(日経:2025.4.9)。手元の米国債を売り、金に交換し、「借金の踏み倒し」による損害を少しでも少なくしようとしてきた。「中国政府は11日、米国製品への報復関税を84%かう125%に引き上げると発表した。」また、中国国務院は「米国が関税の数字ゲームを続けたとしても、中国は無視するだろう」と指摘し、関税の引き上げ合戦にこれ以上は付き合わないとした(日経:2025.4.12)。中国も大損害は被るが、多少の余裕がある。一方、日本はほとんど金を保有していない。ロシアのような原油・ガスなどの資源もない。手元に残るのは50年間も返済されない紙切れの米国債ばかりである。BRICS諸国はドルを捨て、金・コモディティ本位制に移行しようとする中で、日本はどうするのかが問われている。