【投稿】ニューヨーク市長選:トランプ脅迫路線の敗北

<<マムダニ氏:「希望は生きている」‘Hope Is Alive!’>>
11/4・投開票のニューヨーク市長選で、トランプ大統領から「ニューヨークを破壊しようとしている」「共産主義者の狂人」などと激しく攻撃を受けていた民主党左派のゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)氏が勝利を獲得した。

マムダニ氏は、2020年のNY州議会議員選挙で初当選し、22年、24年と当選を果たし、24年にニューヨーク市長選への立候補を表明、草の根の選挙運動に支えられ、25年6月の民主党予備選挙で、アンドリュー・クオモNY州前知事に勝利し、今回の市長選候補となった。その時点で「世論調査でわずか1%の支持率から始まったマムダニ氏は、現代アメリカ史における最も偉大な政治的番狂わせの一つを成し遂げた」(氏を支持するバーニー・サンダース上院議員)のであった。DSA(Democratic Socialists of America 米国民主的社会主義)に所属している。

3候補による激戦で、マムダニ氏は50.4%の票を獲得し、民主党予備選でマムダニ氏に敗れた後、無所属で出馬し、トランプ氏の支持を受けたアンドリュー・クオモ氏の41.6%、共和党候補のカーティス・スリワ氏の7%強を劇的に引き離しての勝利であった。約850万人の人口を抱える全米最大の都市での、トランプ政権、民主党右派の敗北は、歴史的でもある。

トランプ氏は、わざわざ投票日前夜に、「共産主義者の候補者ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長選で当選すれば、必要最低限のものを除いて、連邦政府資金を拠出することはまずないだろう」と宣言。さらにマムダニ氏がICE(移民関税捜査局)の強制捜査を妨害しようとした場合、逮捕するとまで脅迫。
これに対してマムダニ氏はXで、「大統領は私を逮捕と強制送還で脅迫したが、それは私が法律を破ったからではなく、ICEが私たちの街を恐怖に陥れるのを許さないからだ」と反撃している。
 そしてトランプ氏は、投票日当日、投票開始からわずか数時間後に自らのTruthSocialに「ゾーラン・マムダニ、この明白な、そして自称するユダヤ人嫌いに投票するユダヤ人は、愚か者だ!」と、ユダヤ系住民の40%以上がゾーランに投票していることに怒りをぶちまける投稿までしている。

こうしたトランプ氏の必死の巻き返し、ニューヨーク市民への脅しにもかかわらず、マムダニ氏は勝利を獲得したのである。

 マムダニ氏はニューヨーク・ブルックリンのパラマウント・シアターで行われた勝利演説で、「希望は生きている」‘Hope Is Alive!’として、以下のように宣言した。
* 「専制政治ではなく希望を。巨額の資金と狭量な考えではなく希望を。絶望ではなく希望を。私たちが勝利したのは、ニューヨーカーたちが不可能を可能にできると信じることを許したからだ。そして、政治はもはや私たちに押し付けられるものではなく、私たちが自ら行うものだと主張したからこそ、私たちは勝利したのだ。」「数年後、私たちが唯一後悔するのは、この日が来るのにこれほど時間がかかったことだけでしょう」
* 「ドナルド・トランプに裏切られた国に、彼を打ち負かす方法を示すことができるとしたら、それは彼を生み出したこの街以外にないでしょう。」「もし専制君主を恐怖に陥れる方法があるとすれば、それは、彼が権力を蓄積することを可能にしたまさにその条件を解体することです。これはトランプを止める方法であるだけでなく、次の独裁者を止める方法でもあるのです。」「この政治的な暗黒の時代において、ニューヨークは光となるでしょう」
* 「ニューヨークは移民の街であり続ける。移民によって築かれ、移民によって支えられ、そして今夜からは移民によって率いられる街だ。だから、トランプ大統領、よく聞いてほしい。私たちの一人に手を出そうとするなら、私たち全員を相手にしなければならない。」

<<同時5選挙すべてで、トランプ敗北>>
トランプ政権にとって、さらなる痛手は、同じ日に実施された5つの選挙すべてで、トランプ大統領に痛烈な批判を浴びせ、物価高騰とトランプ氏を攻撃した候補者たちが勝利を収めたことであった。
* 民主党がバージニア州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州、カリフォルニア州、ニューヨーク市の主要選挙で勝利しただけではない。どの選挙でも勝利の差は予想以上に大であった。
* バージニア州のアビゲイル・スパンバーガー氏とニュージャージー州のミッキー・シェリル氏は、法執行機関とのつながりを強調し、物価引き下げを公約し、トランプ氏の経済運営を批判することで大勝した。
* ペンシルベニア州では、民主党は反トランプ、中絶権利擁護のメッセージを掲げ、州最高裁判事選挙3議席すべてを獲得した。

AP通信は、「火曜日の選挙は、多くの有権者にとってトランプ氏への静かな非難だった」と有権者調査を報じ、フォックスニュースは「経済不安が、左派が有権者の不満を利用したことで、重要な選挙における民主党の圧勝の鍵となった。」と報じている。トランプとその取り巻きが、すべては順調で、インフレはなく経済は好景気だと主張し続けていることが状況を悪化させている、との指摘である。

 11/5、マムダニ氏は、来年1月の市長就任に先立つ、改革市政をリードする、全員女性からなる移行リーダーシップチームを発表、住宅、規制、社会政策の分野で経験と識見を持つ、5人からなるこのチームは、元連邦取引委員会(FTC)委員長のリナ・カーン氏、マリア・トーレス=スプリンガー氏、グレース・ボニラ氏、メラニー・ハーツォグ氏、そしてエレナ・レオポルド氏が共同議長を務めることを明らかにした。
マムダニ氏は、市政運営において「オーガナイザー、政策専門家、そして働く人々」の意見を取り入れる、「公的説明責任を優先する」と強調している。

マムダニ氏が選挙戦で掲げた
* 手頃な価格の住宅、テナント保護、ユニバーサル・ヘルスケア
* 生後6週間から5歳までのすべての子どもを対象とした無料保育プログラムの創設
* 時給30ドルの最低賃金
* 住宅政策:200万戸の家賃安定化アパートの家賃凍結、公共投資による20万戸の低価格住宅建設を公約
* 政府補助金による無料食料品店の設置、市バス運賃の無料化
* コミュニティ・ランド・トラスト(CLT)を通じて「土地と住宅の社会化」を提案し、地域社会が管理する低価格住宅への転換を目指す。
* 経済的正義:法人税の最高税率を11.5%に引き上げる

これらの政策が、マムダニ氏の移行チームの課題となろうが、
今やトランプ氏にとっては、こうした政策課題は、新自由主義政策に相反する、逆に唾棄すべき政策なのである。しかし、唾棄すればするほど、トランプ政権の孤立化は避けられない事態の進行である。
(生駒 敬)

 

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