<<ウソ、でたらめの破綻>>
11/14、トランプ政権は、「牛肉、ココアとスパイス、コーヒーと紅茶、バナナ、オレンジ、トマト、その他の熱帯果物と果汁、そして肥料への関税を撤廃する。」ことを明らかにした。主要輸入品に対する「相互」関税という、怪しげな違法関税の撤廃に、ついに追い込まれたのである。
発表された大統領令は、「本日の命令は、大統領が二国間貿易関係においてより互恵的な条件を確保する上で成し遂げた重要な進歩を踏まえたものである。」と言い訳しながら、「米国では十分な量が栽培または生産されていない農産物を大量に生産している国々が関与している。したがって大統領は、特定の農産物は相互関税の対象から外されることを決定した。これらの製品には次のようなものがあります。」として、上記の広範な食品、ならびに肥料への関税撤廃を明らかにしている。
これは、明らかなトランプ関税政策の破綻である。CNNのジム・シュート記者は、「トランプ政権は今、経済学者やビジネスリーダーたちが当初から指摘してきたことを認めている。関税が価格を押し上げているのだ」と断じている。
トランプ氏は、この大統領発令の直前、11/12、11/13両日に至っても、「食料品は大幅に下落している」と強弁していたのである。「あらゆるものが大幅に下落している」、「トランプ政権下で物価は下落しており、しかも大幅に下落している」、「誰もがトランプ政権下では物価がバイデン政権下よりもはるかに安くなっていることを知っている。そして、物価は大幅に下落している」と大うそとでたらめをばらまいていたのである。11/9には、「関税に反対する奴らは愚か者だ! 我々は今や世界で最も裕福で、最も尊敬される国であり、インフレ率はほぼゼロ、株価は史上最高値を記録している。」とまでうそぶいていたのである。
CNNのダニエル・デール記者は、こうした大ウソを厳しく検証し、ファクトチェックとして発表、トランプ氏が「インフレについて嘘をつき続けている」ことを明らかにした(11/10)。「インフレは依然として存在しているだけでなく、(関税発表の)春以降加速している」、「この政権下で物価は上昇している。連邦消費者物価指数の最新データによると、9月の平均物価は1月より??1.7%上昇し、2024年9月より3%上昇した。政権期間中、毎月インフレが発生しており、価格が上昇した製品は安くなった製品よりもはるかに多かった」、「9月時点で、前年比のインフレ率は5ヶ月連続で上昇している」。「あらゆる価格が下落している」、「バイデン政権下よりもはるかに安くなっている」と言ったトランプ氏の「これらの言葉はどれも真実ではない。」と断言されていたのである。
しかも、食料品価格はとりわけ上昇している筆頭でもある。消費者物価指数(CPI)によると、食料品の平均価格は1月から9月の間に1.4%上昇し、2024年9月から2025年9月の間には2.7%上昇している。一方、2025年7月から2025年8月にかけての平均食料品価格の0.6%上昇は、過去3年間で最大の月間上昇率であり、その後、8月から9月にかけて0.3%上昇している。牛肉だけではない。数十種類の食料品が値上がりしている。
「関税は物価上昇につながらない」、「食料品は大幅に下落している」などと、平気で、現実からかけ離れた大嘘を繰り返し吐き続けられるのは、庶民の生活実態を全く知らない大金持ち故なのか、認知不全、あるいはあえて固執する人格破綻なのか、問われるところであろう。
<<「他の何千もの品目についても当てはまる」>>
しかし、トランプ氏にとっては、直近のニューヨーク市長選挙の敗北に引き続いて、ニュージャージー州とバージニア州の知事選でも敗北、シアトル市長選でも敗北濃厚という、有権者の怒りで、連続惨敗を喫し、トランプ政権の「存続危機」に直面し、ついに関税政策の変更に追い込まれたのが、実態であろう。
この政策変更は、議会合同経済委員会の民主党議員が、「トランプ大統領が1月に大統領に復帰して以来、米国の世帯が生活必需品に毎月約700ドル多く支払っている、アラスカ州やカリフォルニア州など、一部の州では、世帯平均で毎月1,000ドル以上の負担に直面している。」ことを明らかにした報告書を発表した、その翌日に発せられたものであった。トランプ政権が追い込まれ、対応せざるを得なかったのである。
物価問題は、「民主党によるペテンだ」と主張してきたトランプ氏に対して、下院歳入委員会貿易小委員会のドン・ベイヤー下院議員(民主党、バージニア州選出)は、11/14の声明で、「トランプ大統領はついに、我々がずっと知っていたことを認めた。つまり、彼の関税はアメリカ国民にとって物価上昇をもたらしているのだ」と述べている。
さらにベイヤー氏は、「トランプ大統領の関税がコーヒー、果物、その他の食料品の価格を押し上げているという同じ論理は、関税が残っている他の何千もの品目についても同様に当てはまる。今回の措置はトランプ大統領が引き起こしたコスト上昇をいくらか緩和するかもしれないが、インフレの上昇、企業の不確実性、そしてトランプ大統領の狂気じみた関税政策による経済的損害といった、より大きな問題を止めることはできない。憲法に基づく貿易規制の法的責任を取り戻し、トランプ大統領の貿易戦争の混乱に恒久的に終止符を打つことができるのは議会だけだ。」、「議会の共和党議員は、ごく少数を除いて、依然としてトランプ大統領に立ち向かい、関税を中止し、アメリカ国民のコストを削減することを拒否している。彼らが決意を固めない限り、我が国の経済は引き続き苦境に立たされるだろう。」、「関税を撤廃し、関税に関する議会の合法的な権限を取り戻す。」ことを呼びかけている。
今や、トランプ政権の破滅的な関税政策が岐路に立たされ、その撤廃、全面的な政策転換に踏み切らない限り、政治的経済的危機は止められない段階に直面しているのである。
(生駒 敬)