【投稿】トランプ・朴槿恵・安倍晋三、三氏に通底するもの 統一戦線論(36) 

【投稿】トランプ・朴槿恵・安倍晋三、三氏に通底するもの 統一戦線論(36) 

<<「想像を絶する規模での悲劇」>>
 トランプ米大統領の一挙手一投足が、世界の戦争と平和、緊張激化と緊張緩和の間で右に左に揺り動かされ、その動揺と変転、戦争への危機は収まりそうにない。
 問題は、トランプ氏がすでに彼の大統領選挙時のキャンペーンの約束事、公約をほとんどすべて包括的に反故にし、裏切ってしまっていることである。トランプのスローガンは、移民排斥・人種差別・女性差別とミックスされてはいたが、「今日、労働者階級の反撃が始まる」「アメリカは世界の憲兵になる必要はない」に象徴されていた。そもそもトランプ氏は、トランプタワーや「ミス・ユニバース」で名をはせた不動産とエンタテインメント業界で財を成した人間であって、軍事畑の人間ではない。そこから、「世界の憲兵」としての膨大な無駄遣いをやめさせ、海外介入に反対し、非戦闘的外交政策への移行を目指して、ロシア・中国との関係を正常化し、NATOの存在そのものを疑問視し、NATOの目的を再考するべき頃合いだと発言した。しかし、その発言の正当性のゆえに、これに抵抗し、反抗する勢力が仕掛けた地雷=軍産複合体の恐ろしさには彼は気づいていなかったのであろう。
 発足したトランプ政権は、大富豪(Gazillionaire)、巨大金融資本ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)という「3G」政権である。地雷を自らの政権の中枢に据え、抱え込んでしまったトランプ氏はたちまち軍産複合体に乗せられ、がんじがらめにされ、「軍の操り人形」と化し、大統領選挙で掲げた自らの政策を実行できない、自らの政府を支配できない事態に投げ込まれたともいえよう。そこでトランプ氏は、手っ取り早く、雇用拡大を軍事産業に求めた。軍事費を異例の540億ドルも増加させ、軍事予算が全体の実に56%を占める異常な事態である。経済面では法人税の大幅減税・大資本優遇、金持ち減税、規制緩和路線であり、非軍事分野はそのしわ寄せで環境・医療・社会保障・教育に至るまでほぼすべてにわたり大幅に削減。今やトランプ政権は、軍部、CIA、NSA、およびその他の軍産複合体と大手金融資本に奉仕し、操られる政権の様相を一層色濃くしている。
 トランプ氏の初の外遊先、サウジアラビアでは、米政府が1100億ドル(約12兆円)相当の武器をサウジに輸出する文書に両国が署名している。
 朝鮮半島をめぐる緊張の激化は、軍事予算をさらに増大させる最大の口実として利用され、煽られ、正当化されている。しかし、核戦争をも辞さないトランプ氏と朝鮮・金正恩氏、二人の挑発的言動と実際の行動のエスカレートは、これを煽り、利用してきた米軍産複合体にとっても都合の悪いものへと転化し始めている。
 5/19、現実的対処を迫られたマティス米国防長官は、北朝鮮問題をめぐるいかなる軍事的な解決も「想像を絶する規模での悲劇」を引き起こすとし、米政府は外交的な解決の模索に向けて取り組むとの意向を示さざるをえなくなった。

<<「トランプの核フットボールをやめさせよう」>>
 「想像を絶する規模での悲劇」に追い込もうとし、トランプ氏をその軌道に乗せたのは軍部であるが、統制も抑制も効かず、慎重さにはなはだしく欠け、「カメレオン大統領」と皮肉られるトランプ氏では都合が悪いどころか、その代償も測りがたい規模になることが憂慮されだしたのである。
 「想像を絶する規模での悲劇」とは、端的に言えば、大量破壊兵器=核兵器の使用によるものである。
 5/3、米国議会に提出された立法案「2017年の核兵器の第一次使用の制限」(民主党のカリフォルニア州選出テッド・リュー(Ted Lieu)とマサチューセッツ州選出エド・マーキー(Ed Markey)上院議員が提出)は、トランプ大統領が議会の宣戦認可なしに核兵器を発射すること、核兵器の第一次使用=先制攻撃の開始を禁止することを目的としたものである。これは、「トランプの核フットボールをやめさせよう」という、500,000人の人々の署名運動の急速な広がりに直接連動したものである。この署名運動を推進した反核平和運動のアクショングループCREDOのキャンペーンマネージャー、テッサ・レバインTessa Levine氏は、「”トランプの最初の100日間”は、彼の無謀と無能の一連の恐ろしいデモンストレーションによって特徴づけられており、私たちは国と世界の安全についてトランプを信頼することはできません。何億人もの人々を殺し、米国を破壊する可能性のある報復打撃を招く可能性のある核兵器による先制攻撃は、戦争あでり、違憲である」と語っている。また、この運動を同じく推進してきた軍縮運動の組織であるGlobal Zeroのネットワークキャンペーン担当者であるダギーレ氏Lillyanne Daigleは「現代の核兵器は、第二次世界大戦で爆破された爆弾よりも破壊的であり、そのような壊滅的な力が一人に集中しているということは、アメリカの創設原則に相反するものであり、侮辱である」と強調し、「この提案された法案は、この独裁体制に立ち向かい、核災害から世界をより安全にするための重要な第一歩である」と述べている。(以上、米ネットワークCommon Dreams、5/3より)

<<トランプ、まさかの「就任初年度弾劾」?>>
 こうした動きと軌を一にするように、トランプ氏の弾劾・罷免の動きが現実味を帯びだしてきている。テキサス州選出民主党のアル・グリーンAl Green議員が、米下院議場でトランプ氏弾劾を要求することを表明、共和党のジョン・マケイン上院議員までが、トランプの状況は「ウォーターゲート・サイズと規模のポイントに達している」と述べる事態である。トランプ弾劾運動の請願サイトimpeachDonaldTrumpnow.com では、すでに992,578の署名が集まっているという。(以上、5/17 Common Dreams より)
 公共政策世論調査Public Policy Pollingの新しい調査によると、初めて、トランプ弾劾が反対を上回り、回答者の48%が大統領弾劾に賛成、反対が41%であった。FBI長官であったジェームズ・コメイ氏を突如解任したことで実施されたこの世論調査では、投票者の38%だけがトランプを正直であるとみなし、51%は完全にトランプを嘘つきだと思うと回答している。(以上、5/16 Common Dreams より)
 米国の憲法では、「反逆罪、収賄罪、その他重大な罪、または軽罪」を犯した大統領を弾劾できる規定がある。大統領の弾劾手続きには下院の過半数の賛成が必要であり、上院で開かれる弾劾裁判で3分の2以上の賛成があれば、大統領は罷免される。トランプ大統領の弾劾訴追理由となり得る疑惑として、利益相反問題、ロシアとの不適切な関係、トランプ大学の詐欺訴訟、宣誓下での偽証罪、気候変動の無策による人類に対する犯罪など、偽証罪や利益相反で訴追の可能性が上げられている。共和党が上下両院で多数を占めており、弾劾訴追案は可決される可能性は容易ではない。しかし、来年11月には上下両院議員や州知事などを選ぶ中間選挙が行われる。しかも中間選挙前に、トランプ氏の意向に反して新たに任命されたモラー特別検察官がトランプを司法妨害容疑で訴追したら、共和党から多数の造反議員が出て、弾劾が成立することも現実的可能性として浮上している。大統領就任初年度で弾劾成立、その前の辞任といった前代未聞の事態が取りざたされているのである。権力内部の激しい闘争は、トランプ氏の当初のまともな政策をことごとく押しつぶしてきた勢力と連動しており、陰謀と裏切りが交錯しているとも言えよう。

<<安倍首相「実は憲法改正する必要がなくなったのです」>>
 翻って、日本ではアメリカや韓国のような最高権力者を罷免できる弾劾制度が存在していない。議院内閣制である以上、議会の過半数を押さえれば、罷免あるいは辞任に追い込むことは容易なのであるが、安倍政権は自民・公明連立で絶対過半数を確保、自民の別動隊である維新を加えれば改憲に必要な三分の二をさえ確保している。
 それをてこに、安倍政権は、歴代内閣が成し遂げられなかった様々な悪法や施策を、次から次へと強行突破し、暴走を重ねても平然と開き直っている。そしてついに戦前の治安維持法と同類の「共謀罪」までが衆院で強行採決されるに至った。
 そして安倍首相は遂に、祖父・岸伸介以来の個人的・親族的願望、自民党結党以来の野望とも言うべき憲法9条の改正を明言するまでに至っている。しかしその提案は、自民党主流にとっても唐突であった。5/3、憲法施行70周年の記念日に改憲派集会へのビデオメッセージで「9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません。そこで『9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む』という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います」と述べ、同じ5/3の読売新聞の朝刊1面トップに「憲法改正 20年施行目標 首相インタビュー」が掲載され、「9条に自衛隊明記」と「教育無償化前向き」との見出しが踊る。9条1項、2項を3項でぶち壊す「壊憲」案である。これを国会で民進党から追及された安倍氏は、「わたしの意見は、読売新聞でくわしく書いていますから、そちらを読んでください」「わたしはここでは総理大臣。憲法は議論しない。各党の間で議論を」と、改憲を発議する場である国会での論議を逃げたのである。しかし読売新聞のトップ見出しは「首相インタビュー」である。公明党は喜んで飛びついたが、憲法99条で憲法順守義務のある首相と自民党総裁との使い分けである。とても許されるものではない。
 首相は野党に対してはタカをくくっていたのであるが、自民党内からは異論と疑念が噴出しだした。石破茂元幹事長は「首相と論戦する」と明言し、「首相の改憲発言で今までの議論の積み重ねは一体、何だったのか、と思う。9条3項の条文追加案は敗北主義と言ってもいい。」と切り捨てている(週刊朝日5/26号)。
 石破氏に言わせれば、安倍氏は突然の「敗北主義」であるが、安倍氏は「実は憲法改正する必要がなくなったのです」と去年の8月末のインタビューで田原総一朗氏に語っていたというのである。「実は、集団的自衛権の行使を決めるまでは、アメリがやいのやいのとうるさかった。ところが、行使を決めたら、何も言わなくなった。だから改正の必要はない。ただ、日本の憲法学者の七割近くが、自衛隊は憲法違反だと主張しているので、憲法9条の3項に自衛隊を認めると書き込んではどうかと考えています」と述べていた(「週刊読書人、2017/5/12号、「田原総一朗の取材ノート」)。その後政権を揺るがしかねない安倍ファミリーの疑惑が次から次へと浮上し、森友学園・加計学園問題では窮地に追い込まれかねない事態である。これを一挙に転換し挽回する手段として、この9条改憲案を出す、まったく手前勝手な自己都合で機会をうかがっていたわけである。
 罷免と弾劾に直面したトランプ氏、韓国の朴槿恵氏、そして日本の安倍晋三氏、この三者は極めて似通っている。いずれも物言う直言居士を忌み嫌い、周りにおべんちゃらと友人、家族、親族を配置したがり、利益供与をし、自己保身に汲々とし、厄介な平和的交渉よりも安易な緊張激化を好む、物事を客観的に冷静に判断できない、共通性がある。まずは朴槿恵氏が巨大な民衆運動の力によって打倒された。トランプ氏も今や窮地に立たされている。安倍氏はそこまでには至っていない。
 しかし5/16、「朝日」の世論調査では、安倍首相が改憲を提案したことについて「評価しない」が47%、「評価する」が35%、自衛隊を憲法に明記する9条改定について「必要ない」が44%、「必要」が41%、そして、「安倍首相に今、一番力を入れてほしい政策を一つ選んでください」という設問には、「憲法改定」が一番低くて5%という数字である。
 日本の野党共闘、統一戦線は、こうした状況に対応した新しい連帯と連合の創設のための戦略・戦術を練り上げ、多様な層を結集し、政党エゴとセクト主義を排し、組織のあらゆる側面における根本的、参加的民主主義を徹底し、人々の政治的、社会的、経済的なニーズを的確に反映した根本的な代替案、分かりやすくシンプルなプログラムを提示することが切に望まれる。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.474 2017年5月27日

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