【投稿】問題はトランプではない。我々自身だ

【投稿】問題はトランプではない。我々自身だ
                               福井 杉本達也 

1 英EU離脱と米トランプ当選は『新自由主義の誤り』を国民投票で証明したことにある
 1月21日トランプ米国大統領が就任した。就任演説ではFrom this day forward, it’s going to be only America Firstを宣言した。資金力、組織力に劣り、放言と失言と繰り返し、共和党内でも泡林候補と思われたトランプがなぜ米大統領に当選したのか。経済学者の伊東光晴は「既存政治-出来上った政治システムへの不信は、アメリカに先行し英国でおこり、ヨーロッパにおころうとしている。そして両者の問には、共通する中間所得層の減少、働く人たちの労働の場の変化がある。アメリカでは、それが、ペンシルベニア、オハイオ、ミシガンという北部諸州を民主党から共和党に変え、民主党の大統領選での敗北」(伊東『世界』2017.1)となったと分析している。
 一方、経済アナリストの菊池英博は「英国のEU離脱と米国のトランプ当選を『ポピュリズム(国民の思いつき)』『大衆迎合』などと揶揄する論調がある。しかし、これは大きな間違いだと思う。両国民の選択は少なくとも経済理論に合う行動であり、私は、『さすがに民主主義の元祖の国に新自由主義の弊害を除去しようとする政治家が現れ、国民がしっかりと答えた』と評価する。…トランプ次期大統領の政策基準は、『米国の貧困層・中間層の雇用を増やして所得を引き上げる』ことだ。『アメリカファースト』のスローガンで国民全体の意識を統一させる政策である。そのためには、海外には貿易不均衡の是正を求めて、関税の新設、為替相場の見直し、米国負担の減少などを求めていくであろう。」(日刊ゲンダイ:2017.1.13)と述べている。

2 「サイバー攻撃」という大嘘で選挙結果を否定しようとする米軍産複合体
 「米中央情報局(CIA)が、米大統領選で共和党のトランプ氏が勝つようロシアがサイバー攻撃を仕掛けたと結論付けたと米紙ワシントン・ポスト(電子版)が9日伝えた。大統領選では、民主党全国委員会(DNC)や同党のクリントン氏の陣営がハッキング被害にあい、メールが相次いで内部告発サイト「ウィキリークス」上に暴露された。同紙によると、情報当局がウィキリークスに数千通のメールを提供した複数の人物を特定し、その人物らはロシア政府に関係していたという」(朝日:2016.12.9)。これに対する「報復」として、オバマは12月29日、35人のロシア外交官追放を行った。これは大統領選の結果を否定するもので、ロシアに扇動された『無知な国民がトランプを選んだ』というのである。オバマはトランプ次期政権の正当性を否定した。トランプを職引継ぎの対象から打倒する対象に変えたのである。国家の中の国家である米軍産複合体はトランプを認めないと宣言した。国内の工場を放棄したアメリカはドルという国際通貨を発行する権利だけで生きながらえている。カネだけが全ての基準である。これに従わない国はたとえロシアや中国であろうと、イラク・リビアのように武力で潰すと宣言している。米国大統領はこうした支配層=0.01%の富豪のためにだけ存在していた。トランプはこうした勢力に逆らうと見ている。だから、米国家安全保障局(NSA)やCIAが攻撃しているのである(日経:2017.1.18)。
 
3 トランプの移民規制を批判するがヒラリーのリビア破壊を批判しないリベラル派
 リベラル派はウィキリークスでアサンジが暴露したヒラリーメールの中身を忘れたのか。何万ページものヒラリーの秘密電子メールで既に米政府によって公表されているものの中に、ヒラリーと、彼女の内密の顧問シド・ブルーメンソールとの間の衝撃的なメールのやりとりがある。2011年、リビアの支配者カダフィを打倒するためにアメリカが画策した介入に関するものである(参照:「フランスと英国がリビアの石油を巡って争っている間、ヒラリーがカダフィを打つ手助けをしていた」(WIkileaks文書番号C05794498))。2011年10月20日、カダフィが虐殺されたが、その日ヒラリーはCBSニュースのインタビューで「We came, we saw, he died」(「来た、見た、彼は死んだ」参照: https://www.youtube.com/watch?v=Fgcd1ghag5Y 、『Sputnik』 2016.10.20 )と大喜びで笑いながら答えた。アサンジはメール公開にあたり「リビアは『ヒラリーのイラク』である。大統領になれば、彼女はさらに多くのことを行うだろう」「リビアは破壊され、ISISの温床となった。リビアの武器庫から略奪された数百トンの武器は、シリアのジハードの戦士たちに譲渡された」。「『ヒラリーの戦争』はテロを増長させ、罪のない数万人の一般市民を殺し、また中東の女性の人権を数百年分、後退させた」(2016.2.9「A vote today for Hillary Clinton is a vote for endless, stupid war」)と述べている。リベラル派はトランプの移民政策を批判するが、何百万人もの中東・北アフリカからの難民を生みだしたのは、ヒラリーによる軍事介入である。トランプの暴言を批判してもヒラリーの軍事介入に一切触れず、批判しないリベラル派(日本を含む)は自己欺瞞者かペテン師である。

4 スノーデンの警告
 2013年5月、英紙「ガーディアン」紙上で、NSAによる全世界的盗聴システムの実態が暴かれた。元CIA局員のスノーデンが暴露し世界を震撼させたのは①世界中に埋まる光ケーブルへのアクセスによる流通中のデータの傍受であり、世界各地の電話会社の協力により数千万人もの市民が監視された。②通信監視プログラム「PRISM」であり、エーオーエル、アップル、フェイスブック、グーグル、パルトーク、スカイプ、ヤフー、ユーチューブの各社が進んでサーバーの情報を提供している。身元情報の収集、eメール、ファイル伝送、インターネット電話傍受、ログインID、メタデータ。写真、ビデオなどを分類保存する。③スパイウェアのインストール等々である。NSAは個々の「テロリスト」を「標的型」で狙っているのではない。国家の中の国家である0.01%の支配層は99.99%の被支配層がいつ反乱するかと脅えており、「全体」を無差別監視しているのである。「だれひとり例外なく傍受され、同じバケツに入れられる」。ネットを通じた私たちの日常のコミュニケーション、携帯に放つ本音、チヤツトに打ち込む柔らかなつぶやきが、まるごと権力にさらわれている。「監視は最終的に、権力に抗する声を押しつぶすために」使われている。しかし、今回米国の民主主義はこうした全国民への監視網をも突破してしまったのである(参照:映画・オリバー・ストーン監督:『スノーデン』2017.1.27公開、ローラ・ボイトラス:『CITIZENFOUR』)。

5 国家の中の国家:軍産複合体の広報媒体CNNこそ「偽ニュース」の発信元
 トランプが当選後初の記者会見を開いた1月11日、質問しようとしたCNNの記者に対し、CNNは「偽ニュース」を流したとして質問を拒否した。CNNは10日、ロシア工作員がトランプの評判をおとしめるような個人・金融情報を取得したと報道。トランプはこれに反発し、ツイッターに「偽ニュース。完全に政治的な魔女狩りだ!」と書き込んだ。
 CNNは1980年創業という比較的新しい報道機関である。CNNを有名にしたのは今から27年前の茶の間への「湾岸戦争のライブ中継」である。それは軍のお先棒をかついで、ハイテク兵器による戦争のクリーンな面ばかりを強調するもので、イラク国民の爆弾の下の悲惨さは覆い隠くされた。CNNは当初より軍産複合体の広告媒体として成長してきたのである。「大手マスコミの主立った連中は皆CIAの手の者だ」( 元CIA長官ウイリアム・コルビー)。『買収されたジャーナリスト』であり、なんであれ、ご主人が、言ったり、書いたりしろということを、言ったり、書いたりしている、あやつり人形である。今回の大統領選ではほとんど全てのマスコミはクリントン側につき最後までヒラリー勝利という「偽」世論調査を報道し続けたが、米国民・特にラストベルトの労働者がこうしたマスコミの垂れ流す膨大な情報を一切信用しないで、自らの階級的信念に従い、産軍複合体のプロパガンダを打ち負かしたことにその歴史的意義がある。

6 トランプ暗殺か?弾劾で失職か?選挙を経ない「大統領」登場の予感
 2008年のノーベル経済学賞受賞者:ポール・クルーグマンは1月6日、ロシアが大統領選挙に介入していたとする政府報告書の発表を受けて「プーチン大統領のプードル的存在のトランプ大統領の元で、米国は次の数年間で、悲観主義者が考えているよりも遥かに深刻で危険な状況に陥るだろう」とTweetした。その上で、「米国が壊滅的な状況に陥った場合には、トランプ大統領を弾劾して、ペンス副大統領を大統領に昇格させるとことも可能かもしれない」(The GOP(共和党(Grand Old Party)) decides to impeach to install Pence?)と述べている。6日時点では、トランプはまだ正式の大統領にもなっていない。選ばれはしたが、まだ政策にも何の関与もしていない。大統領に選ばれたのはトランプであり、ペンスではない。これは、民主主義のあからさまな否定であり、ノーベル経済学者によるクーデターの呼びかけである。
 1945年4月ルーズベルトが病死したことで、凡庸な副大統領トルーマンが大統領となり、好戦派軍部のグローヴズらのいいなりで、広島・長崎に原爆投下の決定を下した。1963年11月ソ連との平和共存を図ろうとしたジョン・F・ケネディが暗殺され、副大統領のジョンソンが大統領となり、ベトナム戦争は泥沼化した。米国の社会が分裂しているのではない。0.01%の支配層が孤立しているのである。米国は0.01%の支配層のいいなりになるのか、民主主義が機能するのかの瀬戸際に立っている。それは人類が生き残れるかどうかの瀬戸際でもある(Until real politics return to people’s lives, the enemy is not Trump, it is ourselves.:ジョン・ピルジャー)。

【出典】 アサート No.470 2017年1月28日

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