【投稿】世界情勢の荒波に漂う安倍政権

【投稿】世界情勢の荒波に漂う安倍政権
          ―国際連帯で日本の分断・孤立を食い止めよう―

<偽りの和解を演出>
 昨年12月28日安倍は真珠湾を訪問、オバマと最後の首脳会談を行い、日米和解と同盟の深化をアピールした。戦後75年、冷戦下での打算から和解なしに日米同盟を継続してきた事に対する総括は無きままセレモニーは進められた。
 真珠湾攻撃で爆沈した戦艦アリゾナの上に建てられた記念館を訪れ、戦死者を慰霊した安倍は場所を移し、1945年9月降伏文書調印の舞台となった戦艦ミズーリを背にスピーチを行った。
 しかしそれは「散文詩」ともいうべき内容で、第三者的視点に貫かれたものであり、「戦後70年談話」の一部焼き直しに過ぎないものだった。
 冒頭「耳を澄ますと寄せては返す波の音が聞こえてくる」「あの日爆撃が戦艦アリゾナを二つに切り裂いた」等々、日本軍の攻撃には具体的に触れずに、あたかも天から降ってわいた災厄を目の当たりにした、傍観者のような物言いである。
 後段では、真珠湾攻撃で戦死した日本海軍将校慰霊碑を米軍が建立した事に触れ、戦後「みなさんが送ってくれたセーターやミルクで日本人は命をつなぐことができた」と述べたうえ、「誰に対しても、悪意を抱かず慈悲の心で向き合う」とリンカーンの言葉を引用し、アメリカの寛容の心に謝意を示した。
 こうしてアメリカの寛容を強調することで、間接的に中国、韓国の非寛容をあてこすると言うレトリックが示され、最後に「日米同盟は希望の同盟」との軍事同盟礼賛で終えた。
 安倍やコアな支持者の考えでは日米戦争は「やむにやまれず行った自衛戦争」であるから「謝罪」や「反省」は一切なく、日米両国軍人に対する哀悼の意はあっても、日米対立を決定的にした中国侵略に対する反省や、真珠湾から瞬く間にアジア・太平洋全域に拡大した戦地での犠牲者への視点などは、全く欠落したものであった。
 そもそも、戦争に関して様々な場で安倍の発する言葉には、総力戦で負けたアメリカには従わざるを得ず、寛容や敬意を表に出すが、中国や韓国に負けたわけではないとの思いがにじみ出ている。
 そうしたこれまでの言動を踏まえ、中国、韓国は今回の真珠湾訪問についても疑義を示したが、それを証明したのが稲田朋美である。真珠湾訪問に同行させられた稲田は帰国早々の12月29日、現職の防衛大臣としては初めて靖国神社を参拝した。
 稲田はマスコミの質問に対し「最も激烈に戦った日米が最も強い同盟関係にある」「忘恩の徒にはなりたくない」と述べた。しかし「最も激烈な戦い」は期間、犠牲者数からも独ソ戦であるし、「最も強い同盟」は大戦後も数々の戦争で連合を組んだ米英であろう。「忘恩の徒」に至っては参拝をしなかった閣僚のみならず議員、ひいては国民をも愚弄するものであろう。
 当日ゴルフ中にこのことを問われた安倍は「ノーコメント」と答えるにとどまり、稲田の参拝を事実上黙認していることを示した。
 この行動に対しては、当然のことながら中韓のみならず、顔に泥を塗られた形となったアメリカ国務省も苦言を呈した。とりわけ韓国は被害者に真摯に向き合わない安倍政権の姿勢を見せつけられたわけで、懸案の少女像の撤去など応じられる状況ではないだろう。「次は韓国が誠意を示す番」などと言う安倍は、日本の誠意=金銭という実態を露骨に示すこととなった。
 年末の一連の事態は、安倍政権が侵略戦争への反省を示さず、偽りの和解で世界を欺く姿を明らかにしたと言える。
 
<アベは後回し>
 ハワイにおける一連の行事で、オバマ政権との関係に区切りをつけた安倍は、トランプ政権を見据え秋波を送り続けている。しかしトランプの対応はつれないものがある。
 新年早々トランプは、ツイッターでアメリカのフォードやGMに加え、メキシコでの工場建設を進めるトヨタを非難し、関税強化を示唆した。これは最早TPP以前の問題で、保護主義はおろか統制経済まがいの恫喝である。
 さらに12日の記者会見でトランプは「ロシアや中国、日本、メキシコは我々をこれまでのどの政権よりも尊重するようになるだろう」と日本を対立国並みに扱った。
 こうした発言に自民党二階はテレビ番組で苦言を呈したが、総理大臣がフライングで「信頼できる」と言ってしまった以上、官邸はだんまりを決め込むしかないようである。
 ハワイでの日米首脳会談は「日米同盟の重要さを次期政権に伝えることも狙い」とされた。しかし伝わっていないどころかトランプは、当選直後にすっ飛んできたかと思えば、踵を返したようにオバマと組んでものを言ってくるような奴は信用できんと怒ったのではないか。
 安倍はトランプとの面談でTPPより「(トランプ孫が踊る)PPAPを話題にしたら喜んでくれた」と言っているが、能天気にもほどがあるだろう。
 12月中旬には「日米首脳会談は1月27日で調整中」との報道が流れた。これは1月20日の大統領就任直後であり、トランプ政権にとっては初の首脳会談となるであろうことから、日米同盟の重要性を全世界にアピールできるものと喧伝された。
 ところがその後、年明けには通常国会の1月20日開会が決定、政治日程が窮屈になるなか訪米報道は鳴りを潜め、12日安倍はトランプへの土産集めと対中牽制のため、東南アジア、および豪州の4か国を歴訪に出発した。
 フィリピンでは経済支援を示し、ドゥテルテから「アメリカとの同盟は重要」との言質を取ったと成果を示した。
 オーストラリアでは首脳会談で、アメリカのこの地域への関与は重要との認識で一致、先の豪軍潜水艦受注失敗は棚に上げ防衛協力の推進を確認した。
 インドネシアでは南シナ海を含む海洋安全保障面での協力、次期米政権との連携が重要との確認をした。
 ベトナムでは、新造の大型巡視船6隻を提供し、インフラ整備などに約1200億円の円借款を供与するなど大盤振る舞いを見せた。
 しかしドゥテルテは安倍に言われなくても、オバマと違い超法規的な麻薬犯射殺をとやかく言わないトランプなら組むのは容易だろうし、中国との関係改善を進める姿勢は変わっていない。さらに1月6日にはマニラを訪問中のロシア駆逐艦をドゥテルテが視察し、軍事面での協力を協議するなど多方面外交を進めている。
 またインドネシアは豪州との関係が不安定であり、1月上旬には両国の軍事協力が停止された。ベトナムも安倍訪越に先立ち、共産党書記長が訪中し習近平と会談、南シナ海での緊張関係を高めないことで一致している。
 このように各国とも利害関係が複雑であり、対中国での一枚岩化は望めそうにないのが現実である。トランプ政権との関係強化では概ね一致したが、問題はトランプがどう考えるかであり、展望は不確実のままであった。
 「訪米へのアプローチを作って」17日に帰国した安倍であるが、肝心の日程はようやく国会開会日になって「首脳会談は2月前半で調整」との見込みが明らかにされた。
 これについて政府筋は「新政権の発足準備でアメリカ側の受け入れ態勢が整わないため」と弁明をしていたが、就任直後に発表された大統領の外交日程では、1月27日には米英首脳会談が行われること明らかになった。最も強固な同盟の証左であろう。さらに31日には「宿敵」であるメキシコ大統領との会談も設定されており、日米は早くても3番目以降となり後回しにされた。
 
<日本の奴隷船化>
 トランプの就任直後に正式にTPP離脱が明らかにされ、一連の発言と合わせ希望の同盟は展望が不透明となってきた。一方対露関係は訪米日程に先立ち「4月、9月の安倍訪露」が明らかになり、20日にはフィリピンを訪問した件のロシア駆逐艦が舞鶴に寄港、海自と合同訓練を行うなど一見安定しているようである。
 しかし、世耕が1月11日に訪露しロシア高官や連邦議員との会談を行った直後に、極東発展省次官が「北方4島はロシア領として開発を進め、日本企業は中国や韓国の企業と同じ条件」と述べるなど、さらなる揺り戻しも想定される。
 20日の施政方針演説は、こうした先の見通せない対外政策への苛立ち、不安を発散さすかのようなものとなった。前置きに続く政策課題の冒頭に日米同盟への哀願を述べ、続けて「かつて『最低でも』と言ったことすら実現せず、失望だけがのこりました」と普天間基地移転に係わり当時の鳩山政権を力を込めて批判し、経済政策ではアベノミクスへの自画自賛に終始した。
 さらに与党内からも批判のある「テロ等準備罪(共謀罪)」については、東京オリンピック、パラリンピックを理由に正当性を強調した。しかしそもそも招致活動時には全く触れずに、この期に及んで「この法律がなければオリンピックが開催できない」などと息巻くのは、まさに息をするように嘘を言う典型であろう。
 長時間労度是正など働き方改革では「抽象的なスローガンを叫ぶだけでは世の中は変わりません」と、労働者を愚弄、保育士の処遇改革でも「あの3年3か月間、処遇は引き下げられていた」と民主党政権を罵った。
 最後は、野中兼山のハマグリ養殖を引合いに出したうえ「言論の府である国会の中でプラカードを掲げても何も生まれません」と野党批判をしたかと思うと、改憲に向けての論議を呼びかけるなど、支離滅裂なものとなった。
 不安定化する国際情勢の中で、確たる指針を示せず自国第一主義の動きに追随し、内政に於いては批判の声に対する抑圧を強める、安倍政権下の日本社会は荒波を漂う奴隷船と化そうとしている。
 とりわけ沖縄に対しては司法、行政、国会が三位一体となり、さらに差別排外主義セクター、一部マスコミが先兵となり手段を選ばない卑劣な攻撃を仕掛けている。当事者を無視した政府間の取り決めが正当性を持たないのは、辺野古移設問題も慰安婦問題も同じである。 
 こうした時こそ、沖縄の闘いを孤立させず国際連帯を進め、世界的に蔓延する危険な動きに日本から歯止めをかけていかなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.470 2017年1月28日
 

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