【投稿】都知事選惨敗をめぐって 統一戦線論(27) 

【投稿】都知事選惨敗をめぐって 統一戦線論(27) 

<<都知事選敗北の実態>>
 7/31投開票の都知事選の結果は、野党共闘にとってまったく惨憺たる敗北であった。
 直前に行われた参院選の東京選挙区での得票を見ると、鳥越支持は、民進党1,631,276票、共産党665,836票、社民党93,677票、合計2,390,789票、対する小池・増田支持は、自民党1,529,622票、公明党770,535票、合計2,300,157票であり、優位ないしは拮抗し、なおかつ保守分裂で、野党統一候補が勝利する可能性が極めて高い選挙戦であった。野党統一候補として鳥越俊太郎氏が名乗りを挙げた当初、そして告示日前後の世論調査では鳥越氏が首位だったものが、日を経るにしたがって、急失速、終盤では接戦どころか、大きく引き離されてしまったのである。結果は、
小池百合子   2,912,626(得票率44.5%)
増田寛也    1,793,453( 〃 27.4%)
鳥越俊太郎   1,346,103( 〃 20.6%)
という厳しいもので、小池百合子氏が次点の増田氏に110万票以上の差、3位の鳥越氏にはダブルスコア以上の大差で当選。
 前回(2014年2月9日投票)の結果は、
舛添要一    2,112,979(42.9%)
宇都宮健児     982,595(19.9%)
細川護煕     956,063(19.4%)
 保守の統一候補に、宇都宮氏と細川氏が分裂して臨み、両者合わせればそれこそ大接戦であったが、今回は統一候補であったにもかかわらずの大敗である。保守2候補が7割以上を得票し、野党統一候補が2割の得票に過ぎないという惨敗である。
 得票数そのものでも、前回の宇都宮・細川の200万票近い得票が、今回、投票率が13.59%も上昇したにもかかわらず、逆に得票数を59万票も減らし、参院選で獲得していた239万票どころか、それを100万票以上も下回る134万票へと大幅に後退させてしまったのである。保守に対抗する野党陣営の大幅な後退、退潮は目を覆うばかりである。

<<3つの「よし」>>
 なぜ当初の期待がかくも裏切られてしまったのであろうか。
 確かに、選挙戦開始最中の7/21発売「週刊文春」、続いて翌週の「週刊新潮」の「女子大生淫行疑惑」という鳥越氏の女性問題に関する謀略的な醜聞報道は、明らかに鳥越氏を標的にした悪質な選挙妨害であり、これが結果として大きなダメージを与えたと言えよう。鳥越氏は、事実無根であり、無いものを説明するのは「悪魔の証明」だとして、「この問題は弁護士に任せているので、私から言うことはありません」という説明に終始ししてしまった。ところがその一方で7/28のテレビ番組では、問題の女性の現在の夫と3人で会ったことを認め、問われて断片的に「事実」の一端を話しはするが、どこまでは事実で、どこからは事実でないのかを説明できない、それを真摯に打ち消す努力を放棄していたと言えよう。これでは女性の人権問題を本当に重視しているのかと見放されてしまっても当然といえよう。
 しかしより以上に致命的で決定的ともいえるのは、都知事選に臨む政策の問題である。告示が2日後に迫った7/12、野党統一候補として名乗りを上げた鳥越氏の最初の決意表明、公約が「がん検診受診率100%」にするというものであった。これはたとえ重要であったとしても、都政が直面し、与野党が対決する焦眉の課題、争点ではないし、しかもがん検診に疑問を投げかける専門家が多数存在する、都民の合意が得られていない政策である。自らのがん闘病体験から出てきたものではあろうが、舛添前知事が辞任にまで追い込まれた、与党と一体化した都政私物化問題とはまったく関係がないし、そこに切り込む迫力さえこの政策には反映されていない。
 次いで7/15に発表された鳥越氏の政策は、(1)都政への自覚と責任(2)夢のある東京五輪の成功へ(3)都民の不安を解消します(4)安全・安心なまちづくり(5)笑顔あふれる輝く東京へ(6)人権・平和・憲法を守る東京を―の6本柱であった。政策スローガンが「『住んでよし』『働いてよし』『環境によし』を実現する東京を!」に集約された。この3つの「よし」が公約とでもいえるのであろうか。抽象的でありきたりで具体的政策提起がない。途中で「学んでよし」の4点目も入れられ、さらに投票日の3,4日前になって、「女性によし!」というポスターを掲げた。まるで思いつきと、事態に翻弄されたあわてふためきがそのまま出てしまったとしか言いようのない「よし」の羅列である。
 そこには、野党統一候補の擁立が日替わりのように混迷し、ようやく直前になって鳥越氏に一本化させたことから、統一候補の擁立自体が自己目的化し、国政の課題を優先させ、都政の課題をなおざりにさせてしまったこと。知名度優先で、政策の相互討論や論点の明確化が行われず、野党共闘を支えるべきそれぞれの政党のサポートがなきに等しき状態であったこと。知名度だけで票が取れると目算した野党共闘側の各政党の安易で有権者を見くびった姿勢、野党共闘体制さえ維持・継続できればいい、といったことの露骨な反映とも言えよう。この点ではとりわけ、民進党、共産党の責任が厳しく問われるべきであろう。
 一方の小池氏は、都議会自民党との対決姿勢を強烈にアピールし、最初に自分が知事になれば、①都議会を冒頭解散する。②利権追及チームを作る。③舛添問題の第三者委員会設置を行うという政策を打ち出した。実際に実行するかどうかはすでに怪しくなっているが、対決店・争点を明確にしたことは間違いがないし、民進・共産支持者の相当部分が小池氏支持に廻ったことが出口調査でも明らかにされている。

<<これが“大健闘”か>>
 ところがである。共産党のしんぶん赤旗は、7/31投票日当日「都知事選 今日投票」という記事で、「野党統一候補でジャーナリストの鳥越俊太郎氏と、自民、公明が推す元岩手県知事の候補、前自民党衆議院議員の女性候補大激戦、大接戦です。」と書いている。さらに、その選挙結果が明らかになった翌日、8/1付赤旗は、「東京都知事選 鳥越氏が大健闘」と大見出しで伝え、小池晃書記局長が「鳥越俊太郎さんは勝利できませんでしたが、大健闘されました。今回の選挙戦を通じて、首都東京で野党と市民の共闘が発展したことは極めて重要な意義があります。」、志位委員長は「野党と市民が共同して推した鳥越俊太郎さんは、勝利できませんでしたが、134万票を獲得し大健闘されました。一つは、鳥越俊太郎さんが、都民の願いに応えた政治の転換の旗印を鮮明に掲げたことであります。「住んでよし、働いてよし、学んでよし、環境によし――四つのよしの東京」という旗印。いま一つは、参議院選挙で大きな成果をあげた「4野党プラス市民」という共闘の枠組みが、首都・東京でも実現し、野党と市民が肩を並べてたたかったことであります。」と述べている。「大激戦、大接戦」などと選挙情勢を見くびっていたことに何の反省もなく、翌日は、「大健闘」と厳しい現実から目をそらすまったくの我田引水そのものである。
 さらに共産党の志位委員長は、8/5の党創立94周年記念講演で「冒頭、7月31日の東京都知事選挙についてお話ししたいと思います。野党と市民が統一候補として推した鳥越俊太郎さんは、勝利はできませんでしたが、134万票を獲得し、大健闘されました。「4野党プラス市民」という共闘の枠組みが、都知事選挙でも発展したことです。」と述べている。それは、今回の都知事選を野党共闘の成功例と自賛するばかりで、それが直面し、見放されてしまった現実、野党統一候補が大きく後退したという厳しい現実については一切触れようともしていない、一言も述べていないのである。もちろんこれでは冷静な敗因分析や反省や教訓もあったものではない。こんな都知事選総括しかできないようであれば、野党共闘にも未来はないし、さらなる支持を獲得することはできないであろう。
 8/2付赤旗は、共産党の「7月の党勢拡大」について、「例月を大きく上回る購読中止があり、日刊紙、6559人減、日曜版2万8856人減という大きな後退となりました。」と報じ、8/9付赤旗は、中央委員会書記局名で「党の自力はどうでしょうか。党員、日刊紙、日曜版とも大幅に後退しました」と認めた後、「もっと伸びると思いガッカリしていたが、」「もやもや感があったが、」、と言う声を断片的に紹介しつつも、党創立94周年の志位委員長の記念講演の「一大代学習運動が何よりも重要」と強調、これがなければ「ガッカリ感」を残したままになります、と訴えている。こんな程度のことしか言えない、これが共産党指導部の実態である。
 共産党の選挙敗北後の「よく善戦した」「大健闘した」と常に繰り返される声明・発表は、まるで戦前・日本軍部の大本営の発表を聞くようなものである。そこからは、敗北を直視し、何が良くて何が悪かったのかを、自らの姿勢と問題点を抉り出す姿勢がまるで欠如しているのである。多くの党員の真剣な努力や疑問、抱える困難、難問に答える姿勢が皆目見られないのである。
 今回のような都知事選の明白な敗北を、「大健闘」で済ましてしまうような姿勢では、野党共闘、統一戦線の真の発展は望めないというところから、真摯な総括が行われるべきであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.465 2016年8月27日

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