【投稿】COP21・パリ協定は「京都議定書」の葬送

【投稿】COP21・パリ協定は「京都議定書」の葬送
                            福井 杉本達也

1 不平等条約「京都議定書」の死
 地球温暖化対策のための気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が12月12日までフランス・パリで開催された。採択されたパリ協定で何が決まったのか。日本の温暖化議論を主導してきた明日香壽川東北大学教授は協定を「京都からパリへの旅は終り、京都は歴史となった」とし、「手放しで喜ぶことには、少々違和感を覚える」と表現した(「パリCOP21:終わりと始まり」2015.12.24)。
 1997年の「京都議定書」では、温暖化ガス排出量の4割を占める米国・中国が参加せず、また1990年を基準としたことでEUは東欧併合後の非効率な石炭火力や工場などの削減可能量の余裕があったが、日本だけは1990年に対し2008~12年の間に6%の削減目標を義務付けられた。この間、日本は「第一約束期間」に減るどころか、1.4%増えるという結果に終わった。そのため1,562億円の税金を投じて海外から排出権を買うはめとなった。
 パリ協定では温暖化ガス削減の数値目標を持つ国は増えたが、目標は「通知」のみであり「義務」ではない。毎年1000億ドルの途上国への資金支援も「合意」ではなく、「決定」という扱いであり、法的拘束力はない。「パリ協定の誕生は京都議定書の死を意味する。名前だけでなく、京都議定書が持っていた各国目標などに対する法的拘束力も消えた」のである(明日香:同上)。『不平等条約』はようやく葬り去られた。

2 南極の氷は増えている:NASA衝撃の報告
 パリ協定を主導したのは米国である。開催直前に米航空宇宙局(NASA)が報告書を出した。人工衛星による観測の結果、1992年から2008年までの南極の氷が「減る」のではなく「増えている」というのである。南極の氷については地球が温暖化しても、寒冷化しても増えるという説があったが、それが裏付けられた。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に出した『第5次評価報告書』では、「過去20年にわたり、グリーンランド及び南極の氷床の質量は減少しており、氷河はほぼ世界中で縮小し続けている(高い確信度)」(第1作業部会「政策決定者向け要約」) など、南極の氷は減り続けているとしていたが、ウソであることが明らかとなった(日経:2015.11.6)。これまで、IPCCは「地球温暖化」→「氷の融解」→「海面上昇」→「低地の水没」→「ツバルなどの島嶼国の消滅」という“素人に分かりやすい”絵をかいて温暖化の危機感を煽ってきたが、肝心な前提が崩れることとなった。もちろん「シロクマの生活圏である」北極の氷が減れば海面が上昇するというのはデマである。「低地の水没」という決定的な被害がなければ、「大雨の頻度、強度」・「干ばつ」・「熱波」などの「極端な気象現象の多発」といった現象は、必ずしも温暖化の影響によるものとは証明できず、むしろ、北極圏までの耕作適地面積の拡大といったプラスの面も出てくる。1000年頃の中世の温暖期には北欧のヴァイキングがグリーンランドで耕作を行っていた跡もある。

3 詐欺集団その1:気象庁
 気象庁は昨年12月21日、「世界の年平均気温がこれまでの最高値を更新」したと発表した。その要因として、「近年、世界と日本で高温となる年が頻出している要因としては、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響が考えられます。」としつつ、続けて、「世界の年平均気温が高くなった要因の一つとして、2014 年夏から続いていたエルニーニョ現象が2015 年春以降さらに発達したことが考えられます。」(「2015 年(平成27 年)の世界と日本の年平均気温(速報))と結論を書いている。エルニーニョ現象が今年の平均気温が高くなった要因だといえばよいところを、わざわざ近年の傾向を付け加えるという姑息な手段で、読者を混乱させている。無論、エルニーニョ現象と温室効果ガスの増加とは何の関係もない。気象庁の“期待”とは裏腹に2000年前後から温暖化は頭打ちとなっている。ところが2015年は最高値を更新したことから「温暖化傾向が復活した」と気象庁は“主張したい”ところだが、気象分析では過去最長のエルニーニョ現象が原因であり、仕方なく上記のような人を惑わす報告となったのである。

4 詐欺集団その2:マスコミ
 日経社説は「すでに温暖化が原因と疑われる気候の異変や海面上昇が各地で起きている。まず打撃を受けるのは途上国の貧しい人々だ」(2015.12.15)と主張する。それを受けるように、朝日社説は「国土の水没を恐れるツバルなど小さな島国の懸命な訴えを、大国も軽んじられなかった」と述べ、解説記事の方ではCOP21の議論をリードしたのはマーシャル諸島など「島国」の『野心連合』であり、「海面上昇の被害に直面する島国は、温室効果ガス排出が急増する中国やインドにも先進国と同等の取り組みを求め」、「温暖化被害の救済策の要求を弱める代わりに、1.5度目標」を記載させた(2015.12.15)と子供だましの『HERO』物語を創作した。欧米が本当に「島国」の訴えに聞く耳を持つなら、今日、国際的紛争などどこにも存在しないであろう。そもそも、島国に「海面上昇の被害」の事実はない。中国やインドが議論に参加したのは、今冬PM2.5に覆い尽くされた北京や世界一の大気汚染都市デリーなど、あまりにも国内の環境汚染がすさまじく、何らかの対策を打つ必要に迫られていたからである。一方、米国は最終合意で「温室効果ガスを総量で削減することを『shall』(しなければならない)から、『should』 (すべきだ)という表現に書き換え」させたことで、米議会の承認を得る必要がないと判断したからに過ぎない(朝日:2015.12.15)。どちらも国内事情を優先しての決定である。

5 「排出権取引」という詐欺の継続と新たな詐欺手段の開発
 「空気のような存在」というと、目立たない、あってもなくても良いような存在のたとえ話に使われるが、地球上の生命にとっては必要不可欠の社会的共通資本である。その「空気」を金儲けの手段にしようというのが「排出権取引」である。市場メカニズムを活用するなどと言って欧米の金融資本があえて複雑な制度を作り飯のタネにしてきただけである。
 さらに輪をかけて、最近化石燃料の投資から金融を撤退させよう「化石燃料ダイベストメント(投資撤退)」という動きもある。これは、原発に比べて圧倒的に安い石炭火力・特に最新鋭の石炭ガス化複合発電(LGCC)つぶしの匂いがする(日経:2015.12.25)。フランスでは昨年7月に「エネルギー転換法」が制定されたが、その中で、企業の事業計画や投資家の投資計画に対し、温暖化ガス削減の数値目標との整合性や情報の開示を要求している(明日香:同上)。また、国立環境研究所などが進めるCO2を地中に埋め込んでしまうCCS (Carbon Dioxide Capture and Storage、CO2分離回収・貯留)技術という新たな詐欺も加わる恐れがある。

6 パリ協定を利用して原発再稼働を目論む―「環境破壊」を所管する環境省
 経済産業省は昨年7月に2030年時点で原発の割合を20~22%にするという電源構成比を打ち出し、30年までに温室効果ガスを13年比で26%減らすという目標を決めた。さらに、パリ協定締結後、環境省は全電力会社に温暖化ガス排出量の開示を義務付け、経産省は2030年までに電源構成比を原発と再生エネルギーを合わせて44%にすることを法的に義務付けるとしている。達成できなければ罰則も課す厳しい内容である(日経:2015.12.23)。しかし、2020年までの電源構成比は原発ゼロを前提に温室効果ガスを05年比で3.8%減らす暫定目標となっている。これでは具合が悪いと見た環境省は今年1月8日に、川内原発などの再稼働を受け、新たな電源構成比を作成する準備を始めた(福井:2016.1.9)。電力自由化に当たり、原発という不良資産を有する9電力には有利に、石炭火力やLNG火力を主体とする新電力には不利に働くことになる。パリ協定は原発再稼働の『強力な武器』になろうとしている。
 環境省は、チェルノブイリでは居住が禁止されている年間:5ミリシーベルト以上被曝する恐れのある地域に住民を帰還させようと画策したり、除染作業で発生したフレコンが水害で流されても放置したり、8000ベクレルもある放射性廃棄物を全国に拡散しようとしたりするなど、とんでもない役所である。厚労省のような過去の法的な蓄積も、専門の技術職員も、しがらみもない新しい役所は、自ら都合のいいように過去を無視して環境の破壊に専念することができる。厚労省の場合には労働安全衛生法などの規制の上に行政が行われているので、年5ミリシーベルト以上被曝し、仕事と病気の因果関係が認められれば労災が認められるが(朝日「原発作業被曝に労災」2015.10.21)、環境省はそのようなことを一切無視して仕事を進めている。
 明日香教授は上記文の最後で「日本は京都議定書を殺した犯人一味の一人だ」とし、「あえてリーダーシップを取らない『普通の国』」になり、「気候変動対策が経済的な意味でも国全体にとっては『負担』ではなく『機会』になりつつある」(明日香:同上)と嘆いているが、国際的にリーダーシップを取らない国も、国内的にはその「機会」を最大限活用して、原発の再稼働を国民に押し付けようとしている。その尖兵が気象庁でありマスコミである。その国家犯罪の仕組みが国民に「伝わっていない」(同上)ことこそわが国の悲劇である。 

【出典】 アサート No.458 2016年1月23日

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