【投稿】開き直り腐臭漂う安倍政権
―国会逃げ切り~総裁三選を許すな―
傍観者安倍
4月27日、板門店で南北首脳会談が開かれ、朝鮮半島の非核化、朝鮮戦争の年内終戦を目指すことなどを趣旨とする「板門店宣言」が発せられた。
これに対しCVID(完全で検証可能、不可逆的な核兵器廃絶)に固執する安倍政権は、南北融和ムードを歓迎する国際的な潮流に、お得意の「印象操作だ」とも言えず、苦渋の面持ちで「一定の評価」をせざるを得なくなったが、「非核化への具体的な工程が不明確」「拉致問題解決に言及がなかった」など難癖をつけることを忘れなかった。
しかし今回の南北首脳会談は、朝鮮半島の非核化という大目的を達成するための重要なプロセスであることは疑いもない。非核化の具体策は米朝首脳会談で示されるべきものであるし、拉致問題は日朝2国間交渉で協議すべき課題である。
それらを、あげつらうように論難するのは、自らがこの間の動きに関与できていないことを証明するようなものである。事実板門店宣言では、平和構築に向け、米中を交えた多国間の枠組みで協議を進めることとされ、安倍政権は度外視されているも同然となっている。
会談直後の28日には、米韓大統領が電話会談を行い南北会談の報告と、米朝会談に向けた今後の方向性が協議された。安倍に対しては29日に電話があり、文在寅は、「北朝鮮が日本と対話する用意があることを明らかにした」と伝えたと言う。また金正恩が拉致問題について「なぜ日本は直接言ってこない」と発言したと一部では報じられた。
焦りの色を濃くした安倍は、南北会談以降「対話のための対話は無意味」との立場を投げ捨て、日朝首脳会談の開催に言及するようになった。首脳会談前の24日にも外務省幹部が自民党に対し、政府として日朝交渉を模索していることを明らかにし、日韓電話協議の後には安倍自身が、圧力を継続することの確認は無かったことを明らかにした。
安倍政権は、北朝鮮が日本からの経済支援を、喉から手が出るほど欲しがっており、それにより拉致被害者の帰国も不可能ではない、との幻想を国内にふりまいている。しかし、北朝鮮としては非核化の進展により中国、韓国、ロシアひいてはアメリカとの経済協力が実現すれば、さほど日本に期待するものはないだろう。経済支援はカードにはなりえないのである。
またそもそも、拉致問題の解決は朝鮮半島の非核化、緊張緩和の必須条件ではないのだから、北朝鮮としては余裕の対応ができる。また日朝国交正常化交渉が再開されたとしても「植民地支配の補償」を優先するよう北朝鮮は求めてくるだろう。
安倍は「私が司令塔」と大言壮語を吐きながら、自らの政権安定の為に拉致問題を利用しているにすぎない。安倍は4月22日、拉致被害者の救出を求める集会に出席したが「政務のため」途中退席し、「もう帰るのか」とのヤジを背に私邸に戻った。
安倍は菅直人を蛇蝎のごとく嫌っているが同じ目にあったわけである。むしろ菅は東日本大震災被災者=一般市民からの罵声であったが、安倍の場合は支持団体の会合での椿事であっただけに驚きが走った。
もっとも安倍は、熱烈な支持者であった籠池夫妻を国会で詐欺師呼ばわりしたかと思えば、手のひらを返したように「大阪都構想」反対に転じた人間であるから、今回のことぐらいは平気なのであろう。これほど好悪がストレートに行動に現れる総理大臣も珍しいと言えよう。
インド・アフリカで後退
国際社会の耳目が朝鮮半島に集中する中、安倍を外交的敗北が見舞った。南北首脳会談の当日、中国武漢市で中印首脳会談が開かれ、経済協力の推進、安全保障問題などが協議された。この会談は非公式なものであったが、モディ首相はこうした協議が今後継続していくことを希望したという。
安倍は「一帯一路」構想に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を対置し、「帯路分離工作」を目論んでおり、インドをその要にしようとしている。しかしインドとしては、日中どちらか一方に肩入れするようなリスクを冒さないことは明らかである。安倍政権は価値観外交を吹聴しており、確かにインドとは女性に対する価値観では共通なのだろうが、日本が望むような同盟国にはならないだろう。
インド洋に於いては、中国が99年間の港湾管理権(事実上の租借地)を獲得しているスリランカに続き、モルディブにもその影響力が拡大している。今年2月モルディブで親中国派の現大統領が反政府勢力を弾圧した際、元大統領はインドに直接介入を求めたが、非難声明以上のものは出なかった。軍事的な制圧は可能であるが、政治判断が行われたと考えられる。
中国の影響力は一路の西端であるアフリカでも拡大している。外務省が昨年3月ケニア、コートジボワール、南アフリカの3か国で実施した世論調査の結果は惨憺たるものであった。
日本を最も信頼できる国としたのが7%であったのに対し、中国は33%と約5倍、現在の重要なパートナー国とされたのは日本28%、中国56%と2倍、さらに今後重要なパートナー国でも日本33%、中国48%という結果であった。
第2次安倍政権では、TICAD(アフリカ開発会議)が2013年(横浜)16年(ケニア・ナイロビ)で開かれ、このほかにも安倍はエチオピア、モザンビーク、コートジボワール、ジブチを訪れ莫大な支援を行ったが、それに見合うような成果は無かったと言えよう。
唯一ジブチには自衛隊初の海外基地が存在しているが、もともとは菅政権時に開設されたものだけに、安倍としては素直に喜べないだろう。
そのジブチでも中国の存在は大きくなっている。昨年設けられた海外初の中国軍基地には装輪戦車など重火器が配備されており、この5月中旬には同国の砂漠地帯で実弾射撃演習が行われた。
中国軍が重装備を配置するのは、2016年7月に南スーダンの首都ジュバで起こった大規模な戦闘の戦訓である。陸自日報問題の原因ともなったこの戦いでは、巻き込まれた中国PKO部隊が戦車の砲撃を受け7名が戦傷死した。こうした事態に対応するための措置ではあるが、不要な緊張を生む可能性もある。
5月初旬には同基地から照射されたとみられるレーザーで、アメリカ軍輸送機の操縦士が負傷する事件が発生するなど、アフリカの角の一角で米中の蝸牛角上が惹起しようとしている。
南スーダンの戦闘で、中国はより積極的にアフリカへ関与する方向に進み、日本は戦闘の隠蔽を続けていたものの、安倍の「南スーダンで犠牲者が出たら辞める」発言で慌てて撤退した。これは為政者の短慮な発言に官僚機構が忖度し、政策、決定が歪められると言う、森友事件の構図と同じである。これは結果(撤退)良ければ全てよしと言うわけにはいかないだろう。
こうしてアフリカにおける日中覇権争いの帰趨は事実上決した。外務省の3か国調査は、陸自が“あとは野となれ山となれ”と言わんばかりに撤退を開始した時期と重なるが、これが回答に影響を及ぼしたかは定かではない。インド洋、アフリカで地歩を後退せざるを得なくなっているなか、「自由で開かれたインド太平洋戦略」は早くも空洞化しつつある。
失政糊塗し逃げ切りへ
イスラエル、パレスチナの和平になんら寄与することのなかった中東歴訪から戻った安倍は、5月4日習近平に頼み込む形で初の日中電話協議を行った。これは孤立感を深める安倍が、朝鮮半島情勢への関与を演出しようとしてのパフォーマンスであるが、ついに習に頭を下げざるを得なくなったのである。
こうしたなか、8日には李克強が、9日には文在寅が初来日し日中韓首脳会談が開かれた。表面上は北朝鮮への対応で歩調を合わせることで一致したが、発表が日付の変わる直前までずれ込んだ共同宣言でのCVIDの表現は見送られた。安倍政権としては、拉致問題の対話による早期解決が盛り込まれたことが唯一の成果となった。
しかし、国際社会はアメリカのイラン核合意からの離脱、ポンペイオ国務長官の再訪朝と拘束された3名の解放、6月12日、シンガポールでの米朝会談の発表等、トランプ政権の動きに注目し、日中韓首脳会談は霞んでしまった。
10,11日安倍は中国側の要請で、李克強をエスコートする形で北海道内視察に同行、最大限の厚遇を示し、9日の日中首脳会談では年内に訪中することで合意するなど低姿勢に終始した。この間トランプから電話があり「日本はビッグプレイヤーだ」と持ち上げたと言うが、意気消沈する安倍への慰めだったのだろう。
このような朝鮮半島の緊張緩和、中国との関係改善の流れの中、本来は見直されるべき軍拡が一層進行している。小野寺は15日の記者会見でイージス・アショアの配備候補地が秋田、山口両県であることを公式に認め、関係自治体への説明を行うことを明らかにした。
また政府が件のジブチ基地の機能強化を計画し、今年末に策定する新防衛大綱に盛り込むことが判明した。日中関係改善とは裏腹の動きであり、悪あがきの様な軍拡競争は日本を疲弊させるだけである。
国際情勢が急展開を見せる中、安倍はそれへの対応と称し、国内課題は終了したかのように、訪露、G7と外遊に勤しみ国会は与党ペースとなっている。森友、加計事件は疑惑を残したまま幕引きが図られ、「働き方改革法案」も採決強行が窺われている。
外交で低姿勢になるほど、内政で高圧的なるのが安倍政権の常であるが、現在は外交での存在感が希薄な分だけ、国会対応は常軌を逸した強引なものとなっている。安倍は支持率が低迷していた4月には「膿を出し切る」などと殊勝な発言をしていたが、今では追及に開き直り膿は溜まり続け腐臭を放つまでになっている。
第2次安倍政権下で開かれた、14回の国会での延長総日数は114日であるが、2015年の戦争法案国会の95日を除けば、延長されたのは2回(それぞれ2日、17日)のみであり、多くは数の力で押し切った形となっている。
15回目となる今国会も、秋の自民党総裁選を見越し6月20日での閉会は当然のように語られている。その意味で6月10日の新潟知事選は益々重要となっており、安倍の逃げ切りを許してはならないのである。(大阪O)
【出典】 アサート No.486 2018年5月