【投稿】いわゆる『核のごみ』をどうする

【投稿】いわゆる『核のごみ』をどうする
                        福井 杉本達也 

1.『核のごみ』とは何か?
 2月10日のNHKスペシャルは『“核のゴミ”はどこへ ~検証・使用済み核燃料~』という番組を放送した。『核のごみ』=『放射性廃棄物』というと、あたかも一般の『ごみ』のように焼却したり、埋立処分したり出来そうだが、原発の稼働によって生み出される『放射性廃棄物』は、「無害化不可能な有毒物質」である。核分裂によって1つの原子が2つに割れて作られた、いわゆる『死の灰』(核分裂生成物)である。原発で作られる『死の灰』には、β線やγ線といった放射線を出し、わずか数分で消滅してしまうものもあるが、セシウム137のように数百年に亘って影響を及ぼすものや、プルトニウムのようにα線という放射線を出し続けても2万4千年で半分にしかならないものもあり、その影響は、今後何世代、何十世代も先の人類に負の遺産として押し付けられる。『ごみ』・『廃棄物』という名称は相応しくなく、『放射性毒物』と呼ぶべきものである。NHKの番組でも触れられていたが、この猛毒の『核のごみ』をNUMO(日本原子力研究開発機構)は人間社会から見えないように地下に埋設処分するという計画を進めている。ところが、このNUMOが地下埋設の実験を進めている北海道の「幌延深地層研究センター」で2月6日、深さ350mで、大量のメタンガスが含まれた地下水が漏れ出し、濃度が基準を超えたことから、現場にいた作業員24人は全員避難し、1週間以上にわたって作業は中断したままになっている(NHKニュース:2013.2.14)。放射性毒物が消滅するには万年単位の時間が必要になるが、完全に隔離する構造物を作る技術は存在しない。人間の手の届かない地下深くで放射性毒物の漏洩が起これば手の施しようがない。

2.忘れ去られる福島第一原発プール内の使用済み核燃料
 1月から福井新聞は「核のごみをどうする」、中日新聞も社説で「どうする核のゴミ」という特集を組んでいるが、そもそも、福島第一原発内の膨大な使用済み核燃料をどうするのか。政府もマスコミも話題にほとんど触れたくないようである。昨年7月18日に東電は、崩壊した福島第一原発4号機燃料プールから未使用の核燃料をクレーンで空中に釣り上げて2体取り出した。しかし、これは未使用燃料だから出来たことであり、『使用済み』核燃料ではそうはいかない。もし、使用済み核燃料を空中に釣り上げれば「周辺の人がバタバタと死ぬと思います。」ただ「釣り上げてくる途中で周辺の放射線の線量がどんどん上がってきてしまいますので、容易にわかります。」(小出裕章「たね蒔ジャーナル2012.7.18」という事態になる。再処理した後の高レベル放射性廃棄物のガラス固体化1体の傍に1分間立っていると200シーベルト(Sv)被曝する。「15Sv以上で神経系の損傷による死」、「100Sv以上で急性中枢性ショック死」(『2000年版原子力安全白書』)であるから即死である。
 福島第一原発では冷却用の電源が喪失し、2011年の3月14日には3号機使用済み燃料プールで水蒸気爆発(を伴う核爆発=(建物の下から上に黒煙と共に内容物を吹き上げている。最も軽い気体である水素爆発ならば、建物上部で爆発する))、4号機では3月15日に2回の爆発があり、午前6時の1回目の爆発は建物最上階5階での水蒸気爆発(を伴う核爆発)、2回目の9時半の爆発は4階での水素爆発だといわれる(槌田敦:『福島原発多重人災・東電の責任を問う』)。結果、3号機プールには自衛隊ヘリ・東京消防庁による決死の放水も行われ、4号機プールの最悪の爆発を恐れから、最大半径250km圏の避難・首都圏3000万人の避難も想定され、横須賀から米第7艦隊の空母ジョージ・ワシントンも逃げ出す事態となった。
 福島第一原発の廃止に向けた「中長期ロードマップ」(政府・東電:2012.12.3)では、4号機建物を南側からL字型に覆う高さ53mの巨大な燃料取り出し用カバーを設置し、カバーのクレーンで、1,533体のある燃料を、1基100トンもある燃料棒が22体収納可能なキャスクを用いて13ヶ月で敷地内の共用プールに搬出するというのである。しかし、1331体の使用済み核燃料の取り出しは、瓦礫で埋まったプールにキャスクを沈めて全て水中で行わなければならない。1日に1体程度しか出来ないとすると4年もかかる。

3.日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分について」の回答
 2012年9月11日、日本学術会議は「高レベル放射性廃棄物の処分について」の回答を原子力委員会に提出した。2010年に原子力委から依頼されたものであるが、途中、福島原発事故をはさみ、内容は原子力政策の大きな方向転換を促すものとなった。「回答」は放射性廃棄物の地層処分の合意形成できない根拠を、①広範な国民合意が欠如しているにもかかわらず、最終処分地選定という部分的な問題を断片的に取り上げて決定しようとする「逆転した手続き」になっている。②数万年単位の責任ある対応が要請されるものである。③「受益圏と受苦圏の分離」を伴うもので、負担の公平という点で、説得性を欠いている。④数万年間の安定性ある地層処分の適地が、わが国に存在しているのかどうかという点で、専門家の合意は存在しない。とし、(1)「暫定保管」―数十年から数百年の期間に限って回収可能性を備えた形での、(2)「総量管理」-「総量の上限の確定」と「総量の増分の抑制」=何らかのテンポで脱原発政策を採用すること、(3)「多段階の意思決定」-最終処分場の立地点選定という個別的問題に取り組む前に、大局的な政策の方向や、重視すべき判断基準や対処原則について、段階的に合意を形成していくことを提案している(舩橋晴俊「高レベル放射性廃棄物という難問への応答」『世界』2013.2)。
 その上にたって、舩橋氏は(A)自圏内対処の原則-自分の電力供給圏域外に放射性廃棄物を排出せず、各電力会社の供給圏域内に「暫定保管」施設をつくる。(B)核燃料サイクル政策からの撤退(①六ヶ所村再処理工場の下に活断層の可能性、②高速増殖炉(もんじゅ)の技術的不可能性、③経済的浪費、④脱原発との整合性がない、⑤余剰プルトニウムによる国際的非難 の観点から)を提起している(舩橋:同上)。

4.核燃料サイクル政策からの撤退は可能か?
 2012年9月、当時の民主党政権は「原発ゼロ政策」とともに「核燃料サイクル政策からの撤退」を掲げようとしたが、米仏を中心とする国際核支配体制の圧力によって潰されてしまった。そのため、民主党の脱原発政策は全く整合性のないものとなってしまった。
 米国自身はカーター政権下で国内再処理、核燃料サイクル政策を中止し、使用済み核燃料は、中間貯蔵施設に30~50年貯蔵した上で、高レベル廃棄物のガラス固化体と共にユッカ・マウンテン(ネバダ州)の深地層埋設処分地に処分されることとなっていた(再処理しないワンスルー方式)。しかし、これもオバマ政権下で2009年にネバダ州の強い反対により白紙になり、米原子力規制委員会は、当面、放射性廃棄物を原子力プラントの場所に貯蔵しつづけると決め、2048年までに新たな最終処分場を計画することとしている。したがって、米国の核政策としては、危険な再処理施設は日本で動いてくれることが好都合なのである。日本の再処理工場を基点としてアジアの核政策を行えばよいからである。
 福島第一の3号機・4号機の爆発が核燃料プールの水蒸気爆発(を伴う核爆発)であるとするならば、使用済み核燃料をプール水中に貯蔵する「湿式」貯蔵方式は、圧力容器も格納容器もない裸の超巨大原子炉(100万KW級原発の2~3倍)が突然出現することとなるため、極めて危険なものである。米国の使用済み核燃料は日本と同様の「湿式」方式が多数を占めており、核燃料プールの爆発原因が公になれば、多くの原発を停止してしまわなければならなくなる。また、監視ができないだけに、地下埋設もその安全性を根底から揺るがす恐れがある。
 日本としては、独自核武装のためにプルトニウムを取り出すという馬鹿げた再処理計画=米国の核政策の下請けを止め「乾式キャスク」による「暫定保管」方式に早急に移行することである。そうしなければ、また菅直人元首相が驚愕した250キロ圏=3000万人避難の再来=日本の滅亡ということになる。決して、独自核武装論者やアーミテージやナイ、マイケル・グリーンなどの口車(日経:「第3次アーミテージ・ナイ・レポート」2012.8.16)に乗ってはならない。 

 【出典】 アサート No.423 2013年2月23日

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