【投稿】大飯原発を至急停止して調査せよ! –敷地内に活断層の疑い濃厚–
福井 杉本達也
1 福井県民はBクラスの国民
大飯原発の活断層シロクロ判断が先送りされたことに関連し11月8日の孫崎享元外務省国際情報局長はtwitterで「原発:8日福井新聞『大飯断層調査に不安抱える地元民“命は大事だが生活も大事”』。こう言って“生活”をとる図って哀しい。他地域より金持とうと思わなければ“命大事”が貫ける (2012年11月8日午前7時07分)」とつぶやいている。同様の趣旨で武田邦彦中部大学教授は「福井県の人に悪いけど、なぜ福井県に原発を置いていると思います?『福井県の人はBクラスの国民だ』ってみんなが言っているわけですよ。何故だって言ったら、『自分は電気を使わないのに原発だけもらって金が欲しい』と、『彼らは仕事では金が無くて生活も出来ないから原発にくっついてるんだ』って言われているんですよ。」(2012.11.11岩上安身「武田邦彦インタビュー」(「みんな楽しくHappyがいい」HP))と語っている。両氏に指摘されるまでもなく“カネ”で“命を売る”思考に同じ県民としては赤面する思いである。原子力規制委の現地調査団の活断層かどうかの判断が先送りされた11月4日、福井県庁幹部は「5人という少人数であやふやな議論をしていてはいけないのではないか」(福井:11.5)とコメント、別の県幹部は「原子炉を止めずに追加調査をする規制委の判断に理解を示した」(朝日:11.8)と報道されている。これが県民の命を預かるべき自治体の職員の発言かと思うと情けない。
2 関電の大飯原発活断層調査は誤魔化し-島崎邦彦原子力規制委員
11月14日昼のNHKニュースは「原子力規制委員会は、14日に定例の会合を開き、島崎委員は、大飯原発の敷地を走る[F-6破砕帯]という断層について、[関西電力は『破砕帯がこれまでの調査より短く、位置も違っていた』と説明していて不明な点がある]と述べたうえで、[調査の考え方に疑問が出てきている]と述べ、関西電力の調査方法に疑問を呈しました。また、大飯原発で専門家と共に行った現地調査について、[事前に現状を把握していなかったほか、現場で時間が限られ詳しく分析できなかった]と説明し、改善する考えを示しました。」と報道した(NHK NEWSWEB:11.14)。ところが、この重大な発表を新聞各社はどこも報道していない。福井新聞は島崎委員の「時間が限られ詳細な分析ができなかった」とする最後の言葉だけを引用し、田中委員長の「調査団に大飯を止める、止めないの判断はお願いしていない」(福井:11.15)との発言の方を見出しに取り上げ、島崎委員の発言の趣旨を大きくゆがめている。新聞媒体はあくまでも大飯原発を停止させないよう真実を隠す情報操作に熱心である。
TV朝日の報道ステーション(11.5)やモーニングバード・「そもそも総研」(11.8)では①12~13万年前から約10万年前の間の地層をこの断層が切っていること、②断層は海側から山側にせり上がっているが、海側から山に向かってずり上がるような地滑りなどないこと、③「これが活断層ではない」と否定できる人は4人の中で誰もいない。つまり、グレーであることはみんな一致している。ことが報道されている。
大飯原発活断層現地調査団員の1人-渡辺満久東洋大教授(変動地形学)は11月2日の現地調査後「①大飯原子力発電所の最重要施設の直下に活断層は存在する。②「F-6」以外にも、活断層が敷地に存在する。③現在の応力場で動きうるものである。④これらが見落とされ、現在になって問題が顕在化した理由は、事業者の不適切な調査と非科学的解釈に基づく国の杜撰な審査にある。⑤活断層の定義についてこれまでは、「確認できない」ことを「活動していない」として誤魔化してきた。⑥今後の原子力関連施設周辺における活断層評価においては、科学的定義と同等かむしろ厳しく、より安全側に配慮した「活断層の定義」を定めるべきである。⑦今後の追加調査について「結論はまだ早い」「慎重に」という意見は不要。「暢気な」学術調査ではない。「ない」ことを理屈付ける調査は不要である。原子力発電所をすぐに停止し、すべてを調べ直す覚悟で調査すべきである。」と述べている(渡辺:資料「大飯原子力発電所敷地内の活断層」11.4)。
3 なぜ「F-6断層」が重要か
規制委は原発立地の条件として「①地震、風、津波、地滑りなどにより大きな事故が発生しないと考えられるところ。②原子力発電所と公衆の居住する区域との間に適切な距離が確保されているところ」であり、そのため地震については「敷地周辺における過去の地震や活断層の調査結果などにより、耐震設計に考慮する地震を選定します。」としている。安全設計の基本的な考え方として、「原子炉冷却系」は「最終的な熱の逃がし場へ熱を輸送できること。」が要求されている(原子力規制委員会「設計・建設段階の安全規制・安全審査」HP)。この「F-6断層」の真上を緊急用取水路が横切っている。もし、「F-6断層」が動けば緊急用取水路は破断し海から原発の冷却水を取水できなくなる。上記の規制委の説明にもあるように原発の熱を逃がすことができないのであるから、活断層の真上にこのような安全上重要設備を置くことはできない。活断層と認定されれば大飯3、4機は停止しなければならなくなる。
原子炉が地震で停止すれば自ら発電ができない。外から送電線が来ているが、福島第一原発の場合は外から来ていた7系統全ての送電が長時間に亘り停止してしまった。これが、福島原発事故の直接の原因である(「外部電源喪失事故」―けっして、津波により非常用ディーゼル発電機が使えなくなったからではない。それは二次的要因である)。福島事故の1例では、「5、6号機に外部電源を供給していた送電線鉄塔が倒壊したのは、敷地造成の際に谷を埋めた盛り土が液状化などにより崩れたことが原因の可能性が高いという分析結果を、東京大の鈴木雅一教授(砂防工学)が28日までにまとめた。」(福井:2012.1.29)という。F-6断層が動けば大飯原発でも倒壊がありうる。関電は「大飯原発(おおい町)と高浜原発(高浜町)から延びる送電線の鉄塔3基が、地滑りの可能性があり、移設対策が必要などと発表」「関電は、盛り土の崩壊▽地滑り▽急斜面の土砂崩れなど3項目で、計893基を評価。その結果、早急な対策が必要なものは、おおい町の山間部にある鉄塔3基。」であるとしている(産経:2012.2.18)。既に関電は美浜原発の送電線で鉄塔倒壊で作業員死亡事故を起こした実績がある。原因は鉄塔の強度不足であった(福井:2008.9.17、9.19)。
外部電源が使えなければ、非常用のディーゼル発電機で交流電源を供給しなければならないが、非常用ディーゼル発電機は巨大な発電機であり、水冷しければならない。その冷却のための水も緊急用取水路から供給されている。したがって、取水路が破断し水を供給できなければ、ディーゼル発電機を起動することができない。取水路をわざわざ『Sクラス』の最重要施設と定めているのは、これが無ければ原発は破壊してしまうからであり、活断層の上には作らないというのか大原則である。関電は非常用ディーゼル発電機が使えなければ、コンテナ式の空冷式の非常用発電装置を配備しており、電力を供給するから大丈夫だというが、大飯原発の場合には、原発構内に入るのにトンネルが1本しかない。活断層が動いてトンネルが崩壊すれば応援部隊が近づくことは不可能である。「グレーに濃淡は無い。グレーはグレーだと。なぜならば、そういう確率が高いとか低いとか、それを福島で失敗しているわけだから、『そこで学習してないんですか?』っていう事なんですね。真っ黒だった。ものすごく濃いグレーだった、宮城沖の99%が起きなくて、ほとんど白に近かった場所で、でっかい地震が起きたという事を全く学んでいないという気がします。」(渡辺-「モーニングバード」)。
4 活断層調査の重要性
活断層が注目され始めたのは1995年1月17日の阪神・淡路大震災からである。活断層とは「最近の地質時代に繰り返し活動した断層」と定義される。兵庫県南部地震の淡路島において地震断層が確認された10キロの範囲では、地表のあらゆるものが切断された。道路も家屋も水田もみな同様の大きな右横ずれを被った。大地がずれる力を止め得るような強固な構造物はありえない(鈴木康弘『活断層―大地震に備える』2001.12.20)。地面そのものがずれてしまえば、原発の耐震設計など何の役にも立たない。原発の真下に活断層があった場合、格納容器が破壊されるだけではなく、中の配管や核燃料を入れてある圧力容器自体も破壊される。それは福島原発事故以上の大事故を意味する。中の放射能の全てが一瞬にして外部へ放出してしまうことだからである。大飯原発の場合、1機で広島型原発1000発分である。2機とも一瞬に破壊されればチェルノブイリ事故の倍以上の大事故となる。もし、原子炉運転中で、断層の破壊速度が制御棒の挿入速度を上回った場合、核燃料は制御不能となり原子炉の暴走-核爆発も考えられる。「活断層かどうかが分からない」と言うなら、「まずは止める」べきであり、「動かしながら調べる」というのは言語道断である(小出裕章―「モーニングバード」)。
【出典】 アサート No.420 2012年11月24日