【書籍紹介】山口二郎著 「日本政治 再生の条件」

【書籍紹介】山口二郎著 「日本政治 再生の条件」
               (岩波新書 2001年6月発行 700円+税) 

 参議院選挙を前にして、90年代の連立政権発足前後、政治改革を積極的に論じてきた筆者が、現在の日本の政治の現状と改革の方向について政治家・新聞社論説委員、大学教授・県知事などのインタビューを通じて明らかにしようとしたのがこの本である。
 「・・森政権のもとで、政治に対する不満は頂点に達した。まずいものを食べさせられたあとは、ただの水でさえおいしいと思える。・・自民党政治を否定することで自民党総裁に選ばれた小泉氏は・・自民党政治を否定する具体的な実績を上げなければ、国民に否定されてしまう。」と小泉政権の性格を規定した上で、「・・いったい自民党政治の何が問題なのか・・いまこそメディアも学問も、現実政治に対する批判能力を回復しなければならない。その意味でこの本は日本政治の現状に対する冷静な危機感を読者に持ってもらうことを目指している」と筆者は前書きで問題意識を明らかにしている。
 そこで、インタビューに登場するのは、第一章「危機の政党政治」では、自民党からは、森政権時代に「明日の自民党を創る会」を作った、現行政改革大臣の石原伸晃衆議院議員、野党民主党からは、若手の政策通と言われる枝野幸男衆議院議員、薬師寺克行・朝日新聞論説委員、第二章の「経済危機と政治空白」では、谷垣禎一・元金融再生委員長、金子勝・慶応大学教授、第三章「市民政治への展望」では、北川三重県知事、辻元清美衆議院議員、といった顔ぶれである。
 紙面の都合で、それぞれの特徴的な紹介をすることができないが、全体を通じて自民党政治の限界と格闘する問題意識は明らかになっている。それは、戦後長く続いた右肩上がり経済が終焉した今、旧来の癒着の「ばらまき行政」を突き崩し、如何に市民・国民の政治への意識変革と積極的参加を促すのか、という点に集約することができる。
 一方、民主党に対しては、自民党とは違う意味で筆者の評価は厳しい。「『非自民』という茫獏とした共通項しかないというところに、民主党の低迷がある。自民党の内側から、小泉と言う非自民を行動で体現する政治家が出現したとき、民主党は存在理由を失ってしまった。」と。「いまどき、自由、民主主義、地方分権、環境重視、民間活力などは誰でも唱える言葉である。そうした理念を実現するにあたって、程度の差を論じることが政治の役割である。・・・小泉政権の構造改革がスローガンにとどまって、具体性を欠くならば、野党にとって機会は広がる。族議員が跳梁跋扈する自民党には決してできないような資源配分のプランを示すことで、野党は自民党との差異を訴えることができるはずである」と。
 小泉首相人気に押されがちな今日この頃、日本政治の再生の条件をじっくり議論しておくことが必要であり、問題提起の書と言えるだろう。(H) 

 【出典】 アサート No.284 2001年7月21日

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