【投稿】改憲・教育基本法改悪の急先鋒=「新しい教科書をつくる会」にどう対抗するか

【投稿】改憲・教育基本法改悪の急先鋒=「新しい教科書をつくる会」にどう対抗するか
                             立花 豊

 4月3日、文部科学省は来年から小中学校で使われる教科書の検定結果を発表した。そこで、「新しい教科書をつくる会」(西尾幹二会長)の執筆による中学歴史教科書と公民教科書(どちらもフジ・サンケイグループの扶桑社発行)も、それぞれ137 カ所、99カ所という従来にない多くの修正(資料1参照)をされながらも検定合格となったことが明らかになった。

<「新しい教科書をつくる会」とは>
この「新しい教科書をつくる会」は1996年12月「我が国の歴史教育の現状を憂い、歴史教科書の不健全さをただす必要を痛感した西尾幹二ら数名が中心となって・・・・新しい歴史教科書をつくる運動への支持を呼びかけ」(引用、「つくる会」ホームページより」)て、1997年1月正式に結成されたものである。
同会では、現在の中学校歴史教科書を「『権力者の支配に対する被支配に民族の抵抗』という、今や学術的にも全く説得力を有珠なった階級闘争史観の図式によって貫かれており、新しい次代を担う子どもたちにふさわしくない内容」ときめつけ、「こうした現状を正すため、『学習指導要領』に準拠した中学校用の『歴史』及び『公民』教科書を執筆し、次回平成13年3月の検定合格とそれに続く採択、そして14年度の使用・普及をめざし」て、「産経新聞社・扶桑社と協力しつつ」(引用、同)進めてきたものである。

<検定結果について>
このようにして執筆・編集された「つくる会」の教科書の検定結果について、「子どもと教科書全国ネット21」とほか12団体は連盟で次のように10点の特徴を挙げ、批判的な見方をしている。

1.歴史教育観について
冒頭の「歴史を学ぶとは」は、歴史学・歴史教育の科学性を否定する重大な問題を含んでいる。
しかし、「歴史は科学ではない」の1句を削除し、ワシントンの記述の間違いを訂正したのみで、根本的考え方はそのままである。

2.神話
神話に関する記述は、史実とは混同していないというアリバイのための最低限の修正をほどこしたのみで、神武東征、日本武尊東征の地図もそのままで、内容・分量ともほとんど変化がない。これでは、事実上、史実と混同しかねない。

3.天皇の地位
神武以来の皇統譜による歴代天皇の即位順をそのまま示している。
幕府による支配の時代も、征夷大将軍の地位が天皇の任命によるものであることをつねに記述し、権力の実態を示していない。つねに天皇が日本社会の最高の権威者であることを強調している。

4.侵略と植民地支配の正当化
アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」とよび、大東亜共栄圏など日本が戦争目的として掲げたことをそのまま記述し、最後には、アジア諸国の独立のきっかけとなったと述べる。 日露戦争時の日本の勝利にたいするアジアの人々の一面的一時的な評価の囲み記事はそのままである。国内の非戦論にはまったくふれていない。
大東亜戦争(太平洋戦争)の緒戦の勝利がアジア諸国の独立への夢と希望を育んだとの記述もそのままである。
朝鮮半島は「大陸から突きつけられている凶器」、韓国併合は「合法的」などの記述は一部修正している。しかし、韓国は列強の脅威に対し十分対応できなかった、だから「日本の安全と満州の権益を防衛するために必要」だったなどと、韓国併合を正当化している。また、併合にいたる全体的な経過が述べられず、したがって韓国併合の実態と本質がわからない。しかも、併合後、鉄道・潅漑などで開発がすすんだと述べている。
「従軍慰安婦」にはふれず、南京大虐殺については、否定論を記述する。いっぽう、中国側の「南京でおこった外国人襲撃事件」については、記述がそのまま残っている。
侵略・植民地支配であったことをそもそもまったく記述していない。
日本の戦争責任についてはあいまいにし、責任が他国の側にあるような記述が一貫している。

5.アジア蔑視
「眠りつづけた中国・朝鮮」という小見出しは改められたが、そのなかの本文はまったく変わっていない。「近代日本がおかれた立場」「近隣外交と国境画定」の項でも同じである。

6.明治国家の評価・大日本帝国憲法と教育勅語近代のアジア蔑視とはうらはらに、明治国家を高く評価する点も変わっていない。ここでは、五か条の誓文を近代日本の民主主義の出発点としてとらえる特異な立場が打ち出され、ここでも天皇中心の日本というイメージが押し出される。
明治憲法の人権条項の説明で、「法律の範囲内で」という言葉が付け加えられたが、そのことがどういう意味をもち、実際には人権が著しく抑圧されたことについての具体的な説明は何もされておらず、その結果、明治憲法を民主的憲法ととらえるようになってしまう。
教育勅語についても、1945年までという限定はつけられただけで、その他の文章はそのまま生きており、教育勅語の賛美は変わらない。

7.国家意識の強調と民衆のうごきの軽視
とくに古代のところで国家意識の形成を強調し、近代では、国民の義務、国難にたいする意識の形成、日露戦争=国民戦争論など、随所で国家中心思想の存在が強調されている。
その反面、民衆のくらしなどは、中世の土一揆までは記述がない。自由民権運動も、政府側との共通面が一面的に強調され、そのなかに流れる民衆の願いは無視される。アイヌ民族のおかれた状況についての記述もない。

8.国家への義務・国防の義務の強調
日本国憲法にはない国防義務規定を各国憲法からひいて資料として掲載しているのも変わらない。

9.国際緊張を強調し、軍備当然論、安保肯定論を一面的に強調
口絵ページの「国境と周辺有事」では、尖閣列島に強行上陸した代議士の写真を掲載し、そのほか、阪神淡路大震災と自衛隊、国連の混乱と限界、大国日本の役割などのページで、国際緊張を過大に描きいまの世界のなかでの軍事的対応の必要性、軍備の必要を説く。

10.核廃絶否定論
「核廃絶は絶対の正義か」というコラムは、前半に核廃絶をめざすうごきについての記述が付け加えられたが、後段にはもとの文章がそのまま残ったので、その部分が結論のような形になり、結局、核廃絶への疑問を投げかける形で終わっている。

<教科書攻撃は憲法改正・教育基本法改正に連動したもの>
国会では憲法調査会が設置され、その内容も逐一報道されている。改憲派の特徴をその発言からみると、先に挙げた教科書の問題点に共通する意識が非常に多いことがわかる。つまり太平洋戦争への無反省、国家意識の強調、アジア蔑視、天皇中心主義、おしつけ憲法論などである。これらが現在の平和憲法と矛盾することは明らかであり、その「危機意識」が情緒的な国家意識に結びついたものといえるだろう。
憲法改正では、「平和条項=第9条をさわらず、首相公選制からはじめる」とか、環境問題や女性の権利を憲法に記述するとか、さまざま語られている。しかし、今回のつくる会の教科書を見る限り、どれも方便であり、結局明治憲法の再現をもくろむものとしか言えない。石原都知事の「第三国発言」にあるように、そこには現代社会の諸問題すべてにおいて、アメリカなど他国・他民族に責任を持っていったり、現行憲法の民主的な条項にあったり、「戦後民主教育」に原因を追求するという、かなり偏向的な民族意識である。だからこそ、彼らは憲法を改正し、教育基本法を変え、その表現である歴史教科書を改竄・偏向させる必要があるのだといいたいのではないか。

<抗議行動、拡がる>
「つくる会」ではこれまでに教科書から従軍慰安婦の削除を要求したり、全国に下部組織などもつくり、これまでの右翼運動とは一線を画した“草の根”的な運動を繰り広げてきている。また、「つくる会」の出版した教科書の版元などもフジ・サンケイグループの扶桑社であり、産経新聞の支援をも得ている。さらに「つくる会」の賛同者になっている財界団体では、PHP研究所、太平洋経済協力会議日本委員会、資本市場振興財団、三菱総合研究所、矢野経済研究所などがあり、企業では、鹿島建設、大成建設、大林組、清水建設、小松建設、千代田化工建設、東日本ハウス、住友勤続、住友重機、井関農機、富士通、ヤナセ、ブリジストン、日本合成ゴム、横浜ゴム日本開発銀行、日本たばこ、丸紅、味の素、松屋など多くの大企業が名を連ねている。地方議会での採択運動も市民レベルで行われてきている。また国会議員レベルでも超党派で歴史教科書の見直しの動きが強まっている。

一方、4月14日「市民の力で憲法・教育基本法の理念にそった教科書の採択を求める4.14緊急集会」が首都圏の自治労、教職員組合など多くの労組活動家を集めて日本教育会館で開催された。これは、「新しい歴史教科書をつくる会」によって作成された中学校歴史教科書が多くの削除・修正を受けながらも文部省の検定を通過したことを受けての抗議を含めた緊急集会である。
集会では、これまで歴史教科書をめぐってさまざま発言をしてきた山住正己代表委員の基調報告からはじまり、高島伸欣氏(琉球大学教授)によって「あぶない」教科書の「あぶない」内容と題しての報告がなされた。さらに福島県教組の教科書採択問題のこれまでの取組も紹介され、最後に検定合格にたいする抗議のアピールが採択された。
教科書攻撃に反撃する動きでは、ここで引用した「教科書ネット21」など市民団体をはじめ数多い。労働組合では、「当事者」の一人である日教組や自治労では抗議行動の動きが強まっている。
しかしそれ以外の組合にそう拡がっているとは言い難い。関西地方では、昨年から日教組からの離脱など、ほんの一部だが組織的干渉すら行われている。全労働組合・民主勢力の総力をもって、国民的な取組を期待したい。 

 【出典】 アサート No.282 2001年5月26日

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