【投稿】参院選・安倍政権の敗北をめぐって 統一戦線論(62)

【投稿】参院選・安倍政権の敗北をめぐって 統一戦線論(62)
生駒 敬 アサート No.500 2019年7月

<<自民“敗北”の深刻な現実>>
今回2019年・参院選の結果を、安倍首相は「国民の皆さまからの力強い信任をいただいた」「安定した支持をいただいた」と胸を張り、大手マスメディアも自民党“勝利ムード”を演出している。しかし実態は、深刻な政治的敗北をごまかすものでしかない。
まず第一に、安倍首相はことさらに憲法9条改憲を選挙の争点の第一に掲げたにもかかわらず、これまで改憲派で確保していた改憲発議に必要な3分の2の議席をも割り込み、それどころか、自民党の単独過半数をさえ3年ぶりに失い、改選時の議席数67を57へと10席も大きく減らして、参院での単独過半数を失ったのである。これだけでも、完全な政治的敗北である。
安倍首相や自民党は、あたかも勝利したかのように振る舞い、安倍首相は、「連立与党で71議席、改選議席の過半数を大きく上回る議席をいただきました」とごまかすが、実際には、改選前の77議席を大幅に下回ったのが現実である。その結果、改憲発議どころか、他の法案でさえ自民党単独で法案を通せない現実に暗転したのである。
第二は、議席数の減少だけではない、得票数・得票率の深刻な減少である。自民党の比例区得票数は前回参院選に比べて2011万票から1711万票までに300万票余りも減っているのである。連立を組む与党・公明党の比例得票数も前回757万票から653万票へと100万票余りの減少である。自公与党あわせて400万票余り、2割近くの大量の得票を失ったのである。とても「安定した支持をいただいた」などと言えるものではない。これは明確に、安倍政権に対して「厳しい審判」が下された結果なのである。にもかかわらず安倍首相や自民党幹部は、あたかも勝利したかのように振る舞い、二階幹事長などは「安倍4選」支持まで打ち出している。第三に、さらに深刻なのは、安倍首相が自民党総裁に返り咲いて以降、今回も含めて計6回の衆院選と参院選の投票率はいずれも60%に達せず、低投票率がもはや常態化し、今回、投票率は24年ぶりに50%を切り48・80%と過去2番目の低さとなったことである。これまで、大都市部で投票率が低くても地方では高いという傾向が見られたが、今回は北陸、中国、四国、九州、沖縄の各地方でも軒並み戦後最低に落ち込み、20選挙区が戦後最低を記録した。特定枠候補で選挙活動が制限された徳島県の投票率は38・59%という低さである。

参院選比例票201907

こうした有権者の政治離れの原因は、世論を無視する安倍首相の「ウソをつく政治」、忖度政治にあることは明白であろう。安倍首相は、自らが関わったモリカケ問題についても「知らぬ存ぜず」と強弁し続け、首相忖度がもたらした財務省の公文書捏造についても一切責任を取ろうとせず、真相究明の予算委員会開催にも一切応じない、憲法審査会の議論だけは強行しようとする、このような議会制民主主義そのものを根底から否定する安倍政権の対応こそが低投票率の常態化をもたらしたのである。投票率が5割を切った政治のどこに「信任」などが存在しえようか。政治が見放され、最低限の民主主義をさえ確保できない、政治システム全体としての危機をもたらしているのである。
そして実は、低投票率は、「無党派層は投票に行ってくれるな」というほど、利権と結びついた組織票・固定票に支えられた与党にとって有利に作用していたのであるが、その組織票・固定票そのものさえ政治離れを起こした結果が、与党の大量の得票減少をもたらしてしまったのである。与党にとって、低投票率歓迎がもはや通用しなくなってきた、事態の深刻さである。
東京新聞(7/23付)によれば、参院選選挙区74議席のうち、最も多い38議席を獲得した自民党の得票を分析したところ、全有権者に占める得票割合を示す「絶対得票率」は18.9%と2割を切ることが分かった。第2次安倍政権発足後、参院選は3回、衆院選は2回行われ、自民党の選挙区での絶対得票率は2割台で推移してきたが、今回初めて2割を切ったのである。投票率が5割を切り、2割にも満たない得票で5割を超える議席という、その選挙の正当性と有効性が疑われる、主権在民とは程遠い異常事態である。そんな異常事態によって安倍政権は辛くも支えられているという、不安定かつ危機的状態を招いてしまったのである。

<<政策選択でも敗北>>
そして安倍政権にとって、事態がより深刻なのは、与野党対決の焦点となる政策選択でも、重大な敗北を喫していることである。
32ある改選数1の「1人区」で、安倍晋三首相と菅義偉官房長官がテコ入れを図った選挙区では自民党候補が軒並み苦杯をなめたのである。首相と菅氏は今回、そろって官邸を「不在」にしてまで1人区を重点的に歩いて、野党統一候補撃破に奔走した。まず、秋田選挙区には、最終日の7/20、時間帯をかえて、首相と菅官房長官がそろって入ってテコ入れを図った。だが、結果は2万票以上の差で自民現職が敗北。両氏のどちらかが入った13の1人区の結果は、4勝9敗。うち、首相が2度も足を踏み入れた8選挙区は2勝6敗という惨敗であった。
イージス・アショア問題や原発再稼働問題を抱える秋田、自民・塚田一郎候補の安倍総理と麻生副総理への「忖度」発言を抱えていた新潟、両県には、安倍首相が2回も応援に駆け付けた。しかし、野党統一候補の新人が自民現職候補を破って当選したのである。もちろん、安倍政権が民意を無視して強引に推し進める辺野古基地問題をめぐる沖縄選挙区でも、野党統一候補が6万票以上の差をつけて勝利。加計学園問題の舞台である愛媛選挙区でも、安倍首相が応援に入ったが、野党統一候補に敗北。安倍政権そのものに由来する米軍辺野古新基地建設、イージス・アショア配備、原発再稼働、加計学園問題という政策選択が問われる選挙区で、安倍政権はことごとく敗北を喫したのである。
今回から1人区となった宮城選挙区では、安倍首相が公示日に応援に駆け付け、党をあげて支援した現職の愛知治郎候補が野党統一候補に敗北。山形選挙区でも自民の現職だった大沼瑞穂候補が野党統一候補に敗れ、60年振りに山形で自民は議席を失った。さらに、大分選挙区では、安倍首相の側近で元首相補佐官であった自民現職・礒崎陽輔氏が、野党統一候補の無所属新人、安達澄氏に約1万6000票差をつけられて落選。新潟選挙区では、「忖度発言」で、国土交通副大臣を辞任した自民現職を、忖度された麻生副総理や安倍首相が、たびたび応援に入ったが、野党統一候補の打越さく良氏=新、無所属に4万票余りの差をつけられて落選。
32ある改選数1の「1人区」、自民党内で「5敗程度」との予測であったが、現実は前回参院選の11敗と同程度の10敗を喫したのである。安倍政権にとっては手痛い敗北である。
逆に、野党共闘にとっては、改選前の現職2議席を10議席に拡大できたことは、1人区で野党統一候補を推進してきた野党共闘の大きな成果だといえよう。問題は、なぜこの野党統一候補戦略が複数選挙区で実施されず、自公与党にやすやすと漁夫の利を与え、野党同士がつぶしあいをして自滅して、与党過半数割れなど非現実的なものと錯覚させ、政治離れを増大させ、有権者の期待に応えられなかったかということである。

<<「市民の力で国政政党を作る」>>
そこに一つの風穴を開けた、いやむしろ突破口を指し示したのが、山本太郎氏が率いる「れいわ新選組」の闘いと言えよう。
比例区で約228万票(4・55%)を集め、公職選挙法などに基づく政党要件もクリア。優先的に当選する「特定枠」で重度障がい者の2人が当選。先の沖縄知事選でデニー候補を創価学会旗を持って駆け付け支援した野原よしまさ候補が「私たちのグループで唯一の選挙区。東京選挙区で立候補をしてくださった、野原よしまささん。基地問題や消費税増税による沖縄の人々の窮状、創価の改革を訴えて、21万4438票をいただきました。準備が間に合わず短い期間で、ここまで票が積み上がったのは、損得ではなく、どこまでも真っすぐな、野原さんのお人柄を評価いただけたのだと考えます」(7/23、山本太郎)。次次点の得票である。山本氏本人は、今回の参院選比例代表に立候補した全ての候補者で最高となる97万票以上を獲得したものの、落選。
経済政策を前面に掲げ、緊縮政策の撤廃と消費税の廃止を明確に掲げて政策対決の選挙戦略を明示した闘いであった。選挙期間中は、共産党や、立憲民主党、野党統一候補の応援にも駆け付け、支援を惜しまなかった。
山本太郎氏は「みんなの思いが積み上がり、4月10日から7月20日までに、4億205万円に。今回私たちのテーマであり、皆さんと目標としていた一つ、『市民の力で国政政党を作る』、が実現しました。今年4月に立ち上げたグループが、3か月後の選挙で国政政党になるまで勢いがついたのですから、次の衆議院選挙で大きく議席を伸ばし、あなたと一緒に作ったれいわ新選組が、国会において主導権を握る存在になるよう、これからもお力をお貸しください。」とのべている(7/23)。
山本氏は次期衆院選に関し、他の野党との連携に関連して「政権を取りに行くので、100人ぐらい(候補者を)立てないといけない」と明言しつつ、「この100という数字には野党共闘(の選挙区)も入ってくるので、立てる場所、立てない場所も話し合いで出るだろう。そういうのを一切考えない場合は100人擁立しなければいけない、ということだ」と話している。
山本氏は、大阪で共産党の辰巳氏の応援演説に立った際、「大阪を守っていただきたい。野党で2つ取りに行かないでどうするんですか?」と述べた後、「ついでに言うんですけど、山本太郎は東京選挙区を捨てて今回は比例代表、2枚目の投票用紙で立候補しているんです。まだ投票先が決められていない方は、2枚目の投票用紙に『山本太郎』と書いてもらいたいなあと思っているんですけど。有難うございます。とはいいながらも、『山本太郎は気に食わん』という方も結構いらっしゃいますから、その時には2枚目の投票用紙には『日本共産党』とお書き下さい」と述べている。
その共産党は、6/21に選挙公約「希望と安心の日本を」を発表したが、標題からして抽象的であり、自民党が出したとしてもおかしくない代物である。中身は具体的であるのに、姿勢が初めから抽象的で対決点が明示されていないのである。
これに対して、具体的な政策対決・緊縮政策の転換・消費税廃止を前面に掲げた山本氏の闘いは、中途半端な野党共闘のあり方や、「明るい」「希望」「安心」といった空文句的な理念先行の選挙のあり方にNO!を突き付けたものと言えよう。山本氏は、「生活が苦しいのを、あなたのせいにされていませんか? 努力が足りなかったからじゃないか? 違いますよ。間違った自民党の経済政策のせいですよ。消費税は増税じゃない、腰が引けた野党が言う凍結でもない。減税、ゼロしかない」と訴えているのである。
その消費税増税は、今回の選挙結果によって「消費税引き上げについても信任を得た」として、安倍政権は強行しようとしている。政府は「ポイント還元」や「プレミアム付き商品券」などの発行で事態をごまかし、消費の減退を抑えようとしているが、格差がさらに広がり、経済への悪影響は計り知れないものとなることが目に見えている。そうした中で、次の衆院選が遅くとも1年以内には展開されるのである。
既に宮城選挙区で当選した立憲の石垣のりこ氏は、7/17の山本氏との共同演説会で党の方針に背き、「消費税はいらない」「2枚目(比例票)は山本太郎」と明言している。
次期総選挙の野党共闘は、山本代表を台風の目として、大きく日本の統一戦線を発展させることができるのかが、厳しく問われていると言えよう。
(生駒 敬)

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