【投稿】高速増殖炉「もんじゅ」運転再開の動きと原子力長期計画
国は11月24日付けで「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(いわゆる「長計」)を発表した。これに先立つ10月23日、福井県は通産省・資源エネルギー庁・科学技術庁の三省庁に対し、「原子力発電所における安全確保対策」と供に、「福井空港の整備」「北陸新幹線の早期全線建設」についての要望書を出した。これに答える形で、11月24日付けで科学技術庁長官は福井県知事宛に上記要望書への「回答及び高速増殖原型炉『もんじゅ』の今後の進め方についての協力要請」を行なった。回答は「福井空港の整備」や「新幹線の建設」について直接的には触れていないものの、「国の考え方」という表現で暗に運輸省や与党三党に協力を要請するものであった。結果として、与党三党が「中止を勧告」した「福井空港拡張」が“保留”扱いとなった。これを受け栗田福井県知事は、さっそく1995年にナトリウム漏えい火災事故を起した「もんじゅ(敦賀市白木)運転再開に向けての第一段階である「もんじゅ安全審査の事前了解願」を漏えい事故5周年目にあたる12月8日に“受理”することとなった。
こうして、福井県では昨年末のプルサーマル(高浜原発におけるMOX燃料利用)騒動に続く、原発再開に向けての露骨な動きの第二幕が始まった。騒動の主役はもちろん栗田知事である。栗田氏は昨年の知事選挙で有力新人の前に思わぬ苦戦を強いられた。その反省から、電力企業に協力を要請し、その見返りが、「プルサーマル」であり、「日本原子力発電敦賀3・4号機増設」であり「もんじゅ運転再開」である。この1つ1つが『スペードのA』であり、昨年末に核燃料税増税の見返りに「プルサーマル」カードを切ったものの英国BNLFのMOX燃料の不正により不発に終わった。次は「3・4号機」カードか「もんじゅ」カードを切る番であったが、「3・4号機」は環境影響評価法施行後の最初のケースであり、アセスメント手続にかなりの日数を要し、結論を出すまでには時間がかかる。知事としては「もんじゅ」カードは最後まで切りたくなかったところであろうが、「福井空港」の与党三党による中止勧告という思わぬハプニングにより、国側から追い込まれる形で「もんじゅ運転再開」のカードを切らざるを得なくなった。
福井空港は現在1500mの滑走路を持っているが、定期便がないため、これをジェット機就航に対応する2000mに延長し、羽田等への定期便を復活させようということで計画されたものであるが、既に計画から16年を経過しているものの、滑走路予定地中心のS町N集落地権者の強固な反対により長年こう着状態が続いている。表向きは推進の立場にあるS町長も本年6月段階では、ほとんど地権者への説得をあきらめていたところであり、ある意味で与党三党の中止勧告は当然であった。科学技術庁は栗田知事の政治生命である「福井空港」カードをうまく活用することによって、「もんじゅ運転再開」への道筋をつけることに成功したのである。
ところで、今回発表された長計は本当にもんじゅの運転を再開させるほどの中味のあるものであろうか。長計はもんじゅを「高速増殖炉の将来の研究開発にとって国際的にも貴重な施設であり、『もんじゅ』及びその周辺施設を国際協力の拠点として整備し、内外の研究者に開かれた体制で研究開発を進め、その成果を広く国の内外に発信することが重要である。長期的には、実用化に向けた研究開発によって得られた要素技術等の成果を『もんじゅ』において実証するなど、燃料製造及び再処理と連携して、実際の使用条件と同等の高速中性子を提供する場として『もんじゅ』を有効に活用していくことが重要と考えられる。」と位置付けている。国際協力の拠点とは県の「若狭湾エネルギー研究センター」をはじめ核燃料サイクル開発機構の研究施設等を指すのであろうが、「陽子線がん治療研究」を含め“国際的”な中身を持った施設かどうかはなはだ疑問である。“開かれた体制”という言葉も、ナトリウム漏えい事故隠しの経過から判断すると白々しく響く。ナトリウム火災事故の教訓から、今回はナトリウム二次系統のプラント部分にも火災を防ぐため、窒素ガス封入の装置を取り付けるとのことであるが、元々、ナトリウムは酸素や水と接触すると火災を起しやすい物質であるから、一次系だけでなく、ナトリウムを扱う全ての部分に窒素ガスを封入すべきであったはずである。液体ナトリウムと直接接するアルゴンガスの管理には設計段階から細心の注意を払っていたことと比較すると、ナトリウムが配管から漏れることを考慮しなかったというのは重大な設計ミス(あるいは手抜き)である。
そもそも、原子力基本法をはじめ関連法律に原子力長期計画を策定しなければならないという規定は見当たらない。「誰が」、「何を」、「どのように」決めるかという決定のプロセス・基準といったものが全く存在しないのである。したがって、計画は改定のたびごとに大きく内容の異なったものとなっている。今回の長計には、これまでの計画にあった2030年頃とされていた高速増殖炉の実用化の時期がなくなっている。「誰が」という意味ではわが国の原子力政策の事務局である資源エネルギー庁と科学技術庁の役割も極めて不明確である。10月23日に福井県が「通産省」・「資源エネルギー庁」・「科学技術庁」の三省庁に対して要望書を提出しなければならなかったことに、端的に現れている。もんじゅのような液体ナトリウムを扱う特殊な原子炉では、不活性ガスであるアルゴンガスや窒素ガスを使う。こうしたガスが何らかの事情で供給できなくなった場合重大な事故を誘発するのではないかという質問を「通産本省」で受けたことがあるが、それだけ三省庁間の政策・意識はバラバラであるということである。栗田知事はいつも「原子力は国策である」と強調するが、日本のエネルギー政策を決定する「国」は省庁ごとにバラバラであり原子力に統一した方針は持っていない。長期計画とは名ばかりであり、各省庁が自らの都合のよいことを書き並べているだけであり、相互に調整した形跡はみられない。もちろん福井県は「『もんじゅ』及びその周辺施設を国際協力の拠点として整備し」という一行を書き加えてもらうことで満足してしまったのである。
こうした統一した方針のない「国」に「福井空港」「新幹線」を要望し、政治的な調整により「回答」を引き出そうとする手法の限界は見えている。「高速道路」から「空港」「新幹線」「リゾート新線」(滋賀県今津から小浜へのJR新線)へと“地元”の要求はどんどん肥大化していくが、「国」が払える財布の中身は多くはないし、電力の本格的自由化も目前に迫っている(長計は電力の自由化について全く触れていないというか、同じ省庁内にあって意識的に避けている)。蛇足ではあるが、12月8日、「もんじゅ安全審査の事前了解願受理」の当日、「福井空港」整備中止の“保留”に満足してしまった栗田知事を追及する県会自民党は「新幹線陳情」と称して、いっしょに永田町へと栗田知事を“敵前逃亡”させてしまったのである。
(福井:R)
【出典】 アサート No.277 2000年12月16日