【投稿】自治の中身を問いなおし、直ちに公務員国籍条項撤廃を!
1 はじめに
地方公務員の国籍条項を巡る動きが活発化してきている。高知県の橋本知事が、日本国籍でなければ公務員になれないとする県職員採用の「国籍条項」について撤廃を表明したことに続き、大阪市においても磯村市長が当面は採用後の配属などに制限を設けながらも国籍条項の撤廃の方針を表明した。いずれも首長の決意が強いことから、あとは決定権限のある人事委員会で今夏の採用試験からの国籍条項の撤廃が決定される運びとみられていた。しかし、自治省の反発に加え、高知県議会において「国籍条項撤廃については慎重を期すべき」とする決議が過半数を占める自民党単独で決議され、大阪市においても自民党市議団が早期撤廃に慎重姿勢を打ち出したことにより、今年の撤廃は微妙な情勢となっている。
2 法的根拠のない公務員国籍条項
自治省はこれまで、「公務員に関する当然の法理として、公権力の行使、国家の意思の形成(後に「公の意思の形成」へとなし崩し的に範囲が広げられている。)への参画に携わる公務員のなるには日本国籍が必要」とする内閣法制局見解が地方公務員にも適用されるとして、外国人の地方公務員への採用に慎重な姿勢をとるよう地方自治体を指導してきた。
しかし、日本国憲法上、外国人にも基本的人権は保障されており、職業選択の権利が制約される場合には、合理的で必要最小限の範囲であり法的根拠が必要である。わが国では、外務公務員(外交官)に日本国籍を要することが法定されているくらいであり、そのほかの一般の公務員に国籍に関する規定はない。また、「公権力の行使」などという一般的な概念をもって公務員採用の道を閉ざすことは「必要最小限の制限」とも相容れないし、またこうしたことが民間企業における在日韓国・朝鮮人をはじめとする外国人の就職差別を温存することにもつながっている。
3 撤廃に向けた動き
1980年代以後、日本で生まれ育った3世以後の在日韓国・朝鮮人を中心に地方自治体の国籍条項の撤廃運動が進められ、外国籍職員を採用する一般市も登場した。大阪府内などでは、大阪府と大阪市を除いて全ての市町村で一般事務職の国籍条項は撤廃されている。政令指定都市では、1990年代に入ってようやく大阪市や川崎市などが「国際」や「経営情報」など一般事務職の中に「公権力を行使しない」専門職種を設けたものの、採用枠自体が「若干名」にとどまっており、根本的解決には至っていない。
政令指定都市や都道府県で撤廃が行き詰まってきた原因は自治省である。自治省は一般市における国籍条項の撤廃には事実上黙認の立場をとっていたが、黙認の限界の線を政令指定都市に引いているようであり、政令指定都市の撤廃の動きに対しては断固として慎重な対応を迫ってきた。政令指定都市で線を引いているのは、国の機関委任事務等が飛躍的に多いことなどが理由であると言われている。
職員採用の国籍要件は法定されていない以上、判断する権限は当該自治体にあるわけだが、政令指定都市等では起債の認可権限などをもった自治省に対して容易に背を向けるわけにもいかず、事務レベルでの協議では平行線を辿り続けた。今回、橋本高知県知事が政治的決断をしたことにより、自治省との交渉如何にかかわらず、自治体が自主的に判断して国籍条項を撤廃する可能性が高まってきたわけである。一方、国籍条項撤廃が現実化してきた中、これまでほとんど口をはさむことをしなかった議会筋の「撤廃慎重派」がにわかに動きを見せはじめ、先行きを曇らせている。
4 自治体側に求められるもの~分権・自治の視点から~
こうした情勢の中、地方分権推進委員会などをはじめ地方の分権・自治の強化の検討が進められていることともあわせ、以下のような視点で国籍条項の即時撤廃にのぞむべきであると考える。
・ 地方のことは地方で決める。
地方公務員採用の国籍条項は、地方自治を担う者を決める決め方の要件の一つである。地方自治を担う人間のことは地方で決めるという姿勢を貫くことである。自治省が干渉する問題ではない。公権力の行使が問題になるといっても、全ての公務員は法令に基づいて仕事をするのであり、国籍にもとづいて仕事をするのではないのである。
・ 「自治」の中身が問われている。
高知県の橋本知事は「公務員は住民に対するサービス業だから、外国人がなってもかまわない」とする公務員サービス論を説いている。国に対する説得の方便としてはある程度やむを得ないと思うが、この考えは外国人が公の仕事をすることに対する感情的反発にこたえていない。自治である以上、その中身には多少の公権力の行使は伴うものである。であるからこそ、「日本国籍の市民が、多国籍の職員から行政上の指示を受けるのは解せない」(大阪市議会筋)などとする抵抗感も出るのである。こうした感情的反発に対しては首長自らが目指す自治の中身を示すべきである。
地方自治を担うのは住民であるということには異論はない。しかし、問題はどの住民と自治を担っていくのかということである。すなわち、地方自治体は日本国籍と外国籍の住民で構成され、地方自治を担うのは決して日本国籍の住民だけではなく、外国籍住民も共に担っていくべきであるということである。従って、(国の見解との関係はともかく)外国籍職員が日本国籍市民に公権力を行使しても当然なのである。外国籍住民に対して恩恵的に福祉や諸制度を適用するのではなく、共に自治を担っていくパートナーであるという認識を首長が広く示し、理解を得ることによって国籍条項の即時撤廃の姿勢を貫くべきであると考える。 (当麻太郎)
【出典】 アサート No.221 1996年4月20日