『詩』 先生のことを想う

『詩』 先生のことを想う ー小野先生没後五周年にー

                      大木 透

視界が乱れ
パースペクティブが
拡散すると
かならず
「神曲」が見直される

ノーベル賞のヒーニーも
これがお好きなようで
大江も
これに共感を寄せている

僕はといえば
「神曲」などは
読み通したこともなく
作者自身が属すであろう
世界を盗み見たり
キリスト生誕以前の群像や
幼児の住む
面白い場所の地形を知ると
もう飽きてしまって
放りっぱなしにしてきた

そんなこんなで
僕は
「神曲」のパロディーなどには
興味はないが
先生のことを想うと
ついつい
キリストをマルクスにしたら
先生は

どんな生活を
しておられるのだろうと
考えてしまう

ダンテにならって言えば
先生はマルクスを知り
マルクスを誹謗したり
批判したこともなく
マルクスは
キリストを無視したことはないのだから
文句なしに
天国で
美酒を傾けて
穏かな生活を送っておられるはずなのだ

あれから五年経って
審判者が
キリストであろうがマルクスであろうと
僕は
とても天国へなどへは
行けそうもないが
ただ
この頃
マルクスが
「神曲」の
主人公になって
復活するであろうことの
確かな予感を
予感している

(一九九五・一一・六)

【出典】 アサート No.216 1995年11月18日

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