『詩』 男の住所は 分かったが
大木 透
男は
無言のまま
去っていった
姿を見せぬまま
消えるように
まるで
四隅の
はっきりしない
白黒映画を
見ているような
別れだった
俺は
恨んでも
恨まれても
帰らぬ青春のほうに
話が向かうのが
恐ろしくて
つとめて
明るく
煙を吐きながら
待っているよ
と言ったのに
そのまま
線を引きちぎるように
電話は
切れた
それは
自費出版の
詩集を送って
数日後の
電話だった
感想を書くよ
と言っていた
それから
お世話になった
大学教授が死んだ
時代の色が
変わるように
それでも
男は
現れなかった
俺の
自費出版の
詩集の「傾向」に
怒っていたのだ
想えば
北浜の
デパートの屋上で
危ないレポをし合った
あの時の
あの夢の境界を
すっかり過ぎて
その果てに
来てしまっているのに
無限であるはずの
夢の膨らみもなく
ともに
外国に飛ばされそうになって
男は
実際に
何十年も
外国暮らしを
余儀なくされたというのに
男のために
帰るべき
語るべき
一行もない
俺の
身勝手に
男は
怒っていたのだ
(一九九七・一二・三〇)
【出典】 アサート No.245 1998年4月24日