『詩』 こちらの頭が古い
大木 透
今年になって はじめて聞いた地名だが
コソボでは 十月には
もう 寒波が 襲うらしい
住人は アルバニア人だという
昔 ホッジャという 男もいた
この近くに
毛沢東が盛んなころだった
こちらは なぜか 疎ましく思っていた
それに なにか 根拠があったか どうか
それを問うてもいいが
それより 懐しさが 先に立ってしまう
この地球を 自分たちのものだと思っていた
夢中になって 遠い未来に 眼を遣っていた
一歩一歩 地球は 美化される
と 信じて
こちらも 美しくなろうとしていた
フラクタルという言葉を知らなかったのに
世界が 美化されて
そして こちらも
武器を持たない素手は
真っ直ぐ アンドロメダに伸びて
背筋を伸ばして 歌っていた
筋の通った世界の歌を
世界の羅針盤の針は
脳裏のなかの森の深さを 測っていた
決して 枉げてなるものか
腕を振りあげていた
聞こえてくる
古い思い出のなかから 煙のように
立ち上ってくる
なぜ コソボなのか
なぜ アイルランドでないのか
なぜ クルドでないのか
なぜ なぜ なぜ
と 古い頭と 萎えた唇は 歌う
(一九九九・六・五)
【出典】 アサート No.259 1999年6月19日