『詩』 ライサ逝く
大木 透
なにも
武器をもたない
あなたたちが
クリミアから生還したとき
薄手のジャンバーと
少し皺の目立つ
ワンピース姿のままで
もっと別の道から
どこか森へ分け入って
もっと遠いところへ
行ってしまうのか
と 思った
チルチルとミチルのように
偶像なしに
生きられなかった
あの頃のことを
思い出したからといって
それは
あなたたちの知らないことだ
青春と呼びたい
最後の日々に
あなたたちと
ともにあったからといって
それは
あなたたちの知らないことだ
いつかこんな時が来て
知らねばならないと思った
あなたの国の
花を散らすそよ風や
あなたの国の
誰でもが使う言葉たちが
どんなに色づいて
どこへ流れて行くか
もう
それも見ることができない
あなたと
あなたの未来を失って
風に手を翳すことさえ
忘れてしまった人
あなたが
あなたと呼んでいた人
あなたを
君と呼んでいた人
あなたたちに代わって
はっきり言おう
あなたたちは生きていた
生きている
生きて行くであろう
そして
いつも
帰ってくるであろう
生きている人々のもとへ
生きて行こうとしている
人々のもとへ
(一九九九・九・二三)
【出典】 アサート No.262 1999年9月15日