【書籍紹介】大賀正行著「第三期の部落解放運動-その理論と創造」
91年7月31日発行、解放出版社人権ブックレット、618円
第三期部落解放運動とは何か、それがこの本のテーマである。なぜ第三期を強調するのか、その点について「第三期を強調するというのは、今まで通りのやりかたではいけない。部落民とは何か、部落解放とはどういう状態をいうのか、理論的にもはっきりさせて、完全解放ということを射程に入れて、お互に知恵を出し、腹をすえてとりくもうということです」と述べている。今までの運動をふりかえってみれば、「第一期の糾弾闘争主導の水平社運動は外堀を埋め、第二期・行政闘争主導の部落解放同盟時代は内堀を埋めたとするならば、第三期においていよいよ完全解放を射程にいれた運動をする時代なのです。そういう運動だということを自覚して私たちの運動を変えていこう、新しい運動を創造していこう、ということなのです」と、率直な問題提起が口語体の非常に分りやすい形で行なわれているのがこの本の特色となっている。
第三期の提唱についてもう少し紹介しておこう。「第一期の水平社時代の運動は、差別者に対する直接の抗議という形態を取って展開しました。第二期の段階は、差別事象のみが差別なのではなく、差別は生活や環境の中にあると規定し、それを放置してきた行政は差別行政であるというように、差別行政糾弾闘争が闘われました。そして同対審答申や特別措置法を勝ち取って、一定の成果を上げることができました。どちらも素晴らしい運動なのですが、言ってみればどちらも自分のことが中心でした。第三期のこれからの運動はすべての人の人権や生活に関わるような運動に発展させなければならないと思います」と述べる。そしてここからがまさに著者の真骨頂なのであるが、この第三期の本質をゴルバチョフのペレストロイカ、「新しい思考」と同じ本質のものとしてぴったりと結びつけていることである。階級的価値や民族的価値に優先する人類的価値、「人間は、理性と良心とを授けられており、同胞の精神をもって互いに行動しなければならない」という世界人権宣言の「この文言が、常識になる、そういう時代へ今、人類は移行しつつある」と強調して、国際化と人権の基調の上に立った運動の課題を提起している。ぜひ多くの方が読まれることを! (I)
【出典】 青年の旗 No.168 1991年10月15日